今月の本の話題

2013.09.05

『若き日の哀しみ』ダニロ・キシュ/山崎佳代子訳(創元ライブラリ)[2013年9月]

「少年と犬」
この一編は、何度読んでも、泣かずにはいられません

若き日の哀しみ
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 創元ライブラリの最新刊、ダニロ・キシュ『若き日の哀しみ』は、現実の悲劇をその叙情性とアイロニーでそっと包み込んだ、この上なく美しい連作短編集です。
 キシュの父はユダヤ人であったため、強制収容所に連れ去られ、二度と帰ることはありませんでした。
「窓の下がざわめいた。ふと、父を殺しに来たのだと思う」そんなふうに始まる短篇は、実は姉に愛を告白するために窓の下で青年がバイオリンを弾く話なのです。
 日常が、つねに悲劇に裏打ちされている日々。
 愛犬ディンゴとアンディ少年の別れ……。これほど悲しい別れの物語がかつてあったでしょうか? 
 訳者も、編集者も、校正者も泣きました。この一編だけでも、どうしてもお読みいただきたいのです。アンディ少年はあなたでもあるのです。

 ベオグラードに住み、ベオグラードで詩を書き、ベオグラードで学問をきわめる翻訳者山崎佳代子さんは、あのユーゴ内戦をベオグラードで経験されました。そして当時、一時帰国した横浜の家で、夜中に暴走族のたてる轟音に目覚めた彼女は「新しいミサイルだろうか?!」と思ったそうです。我々の想像を超えています。
 そんな山崎さん以上に、この連作短編集にふさわしい訳者はいないはずです。
 悲劇は忘れられないとしても、子供時代だけに許された楽しさ、美しさを読者に思い出させてくれるこの一冊を、是非この機会にお読みください。

 追記:犬と少年の 優しく印象的なカバー・イラストは吉田圭子さんの作品です。
 優しいまなざしの犬は、思い描いていたディンゴそのものだったので、出来上がった作品をいただいて、またもや涙が溢れてしまいました。

(2013年9月5日/9月18日)




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