今月の本の話題

2013.07.05

ダークファンタジーの女王タニス・リーの精髄。『薔薇の血潮』[2013年7月]

薔薇の血潮 下
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薔薇の血潮 上
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 安らかにまどろむ、コルフレンの領主の息子メカイル。乳母が居眠りをしたすきに、その無垢なる幼子を怪異が襲った。黒い花のごとき蛾が、幼子の血を吸い、その身体を持ち上げて天井から放り出したのだ。そのときの衝撃で身体は歪み片腕がきかぬまま、メカイルは二十一歳になった。
 いまだ領主の後継ぎであるがゆえに、成人の証として、敵対するエスニアスの家の捕虜をその手で殺さねばならない。
 仇敵殺し、異教の儀式。庶子である腹違いの弟クラウは、すでに十五で成し遂げた。だが儀式を終えたメカイルの前に、巧妙な罠がその顎をあけて待ち構えていた……

 母でもあり、父でもある。生命であり滅亡であり、そして神でもある森。〈選ばれし者〉である少年ジュンは、神官たる〈森の男〉のもとで暮らしていた。生贄として〈樹〉に捧げられる運命の少年。少年も樹と一体になることに喜びをおぼえた。痛みなどその喜びの前には何ほどのものでもなかった。
 ところが、最高潮に達した儀式は、古き信仰を、血なまぐさい野蛮な風習を絶やさんとする領主によって中断させられた。クリストゥスの名において、領主の兵士たちの剣が〈森の男〉を貫き、異教の儀式を滅ぼした。
 それでは切り倒された〈樹〉に吊るされたジュンは? 死にかけてはいたものの、死にはせず、もはやもとの少年ですらない。
 そしてすべての物語が始まった。

 幾重にも重なる幻惑と変化。読む人を惑わし、その迷宮じみた物語の胎内に虜にする、闇の女王タニス・リーの精髄。ダークファンタジーの大作登場。
(2013年7月5日)




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