今月の本の話題

2013.06.05

優しい眼差しで贈る “アパートミステリ”登場 吉永南央『ランタン灯る窓辺で』[2013年6月]

ランタン灯る窓辺で
書籍の詳細を見る
 祖母危篤の連絡を受けて、ひさびさに北関東のとある街を訪れた瑞輝。半ば親戚連中に押しつけられるかたちで瑞輝は、祖母の梅が大家を務めている外国人向けアパート、通称「ランタン楼」の臨時大家となることを了承する。
 幼い頃、梅に連れられてランタン楼の部屋に訪ねたとき、各国からの多様でこれまで見たこともないようなおみやげや、地球儀で彼らの出身国をながめることが好きだった瑞輝。だが一方で、暴力沙汰など数々の住人とのトラブルの噂も聞いていた瑞輝は戦々恐々でもあった。
 おそるおそる訪ねたランタン楼だが、最初に出会ったのが日系ベトナム人の美女。彼女が巻き込まれたトラブルに接するうちに、彼らの境遇と自分自身を重ね合わせていく――。
 残念ながら、持ちなおしたかに思えた祖母も亡くなり、ランタン楼をつづけていくべきかどうか悩む瑞輝と家族たち。しかし、住人たちひとりひとりが抱えている問題を周囲の協力も得て解決しつつ、異郷の地で暮らす彼らの生身の姿を見ることで、瑞輝はランタン楼を守っていくことを決意するのだった。

 ランタン楼のある北関東は、ブラジルをはじめとした中南米からやって来た労働者が多い地域です。群馬県大泉町など、ブラジル人街としても有名な場所もあります。また街行く人々を観察すると、外国人の姿が予想以上に日本の風景に馴染んでいる様子が伺えます。
 そうした日常の風景を描いていくのも、今回のテーマの一つでした。著者の優しいまなざしを感じながら、お読みいただけますと幸いです。思わずベランダでビールが飲みたくなるような、マツオヒロミさんのカバー画もオススメです。

 また、単行本時のタイトル『アンジャーネ』(群馬以北を中心に使われる方言「あんじゃあねぇ」。大丈夫という意味)から、『ランタン灯る窓辺で アパートメントストーリーズ』と変更させていただきました。

(2013年6月5日)




【2009年3月以前の「本の話題」はこちらからご覧ください】

ミステリ・SF・ホラー・ファンタジーの専門出版社|東京創元社
バックナンバー