今月の本の話題

2013.06.05

ローラン・ビネ『HHhH ――プラハ、1942年』高橋啓 訳[2013年6月]

ゴンクール賞・最優秀新人賞受賞
リーヴル・ド・ポッシュ読者大賞受賞

HHhH ――プラハ、1942年
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 昨年から、二度にわたって、お知らせしてきたローラン・ビネの『HHhH ――プラハ、1942年』が、今月発売となりました。
 HHhH は「エイチ・エイチ・エイチ・エイチ」とお読みください。フランスの作品ですから、本来は「アッシュ・アッシュ・アッシュ・アッシュ」なのでしょうけれど、そもそも、このHHhH はドイツ語の Himmlers Hirn heißt Heydrich の略なので、別にフランス語読みにこだわる必要はないのです。というわけで、読みやすいように英語読みとしました。
 ちなみに、本書の英訳版は、昨年英米で大評判となり、「ニューヨーカー」「ガーディアン」「タイムズ」等々で絶賛され、英米で紹介された現代フランス文学としては破格の評価を受けました。

 1942年にプラハで何が起きたのか? ラインハルト・ハイドリヒ、金髪の野獣、プラハの虐殺者、第三帝国で最も危険な男……。
『謀議』という映画(2001年、フランク・ピアソン監督)で、ユダヤ人問題の「最終解決」をヴァンゼー会議でたんたんと決めていくハイドリヒ(ケネス・ブラナー)とナチの重鎮たち。実に恐るべき映画だったことを思い出します。
 このハイドリヒ暗殺の命を帯びてプラハに送り込まれた青年ふたりの名は、ヨゼフ・ガブチークとヤン・クビシュ。ふたりは、プラハの協力者たちの家にひそみ、暗殺の機会を狙う。
 ローラン・ビネは、この史実を小説に、文学に昇華させることに夢中になります。登場人物はすべて実在の人々。出来事は歴史的事実。しかし、人々は、どのように生き、どのように語り合い、どのように愛し合い、どのように憎み合い、どのように死んでいったのか? 
 見てきたように書いていいのか? 自分の耳で聞いたかのように語らせていいのか? ビネは、小説を書くとはどういうことなのか悩みつつ書き続けました。
 時空の壁は溶け去り、著者はふたりの青年と同じ時を生き始めます。 
 彼らとともに日々を過ごし、息をひそめ、街角でハイドリヒの乗った車を待つビネ。
 待ち伏せ、銃撃の実行、思いもよらぬ展開、ハイドリヒの死、ナチの信じがたい報復、そして恐るべきクライマックス……。
 マリオ・バルガス・リョサはゴンクール賞について語り、ゴンクール賞受賞作など、どれもみなすぐに忘れてしまうようなものばかりだが、このビネの作品(ゴンクール賞・最優秀新人賞受賞作)は違う、「私は生涯この作品を忘れることはないだろう」と述べています。
 ナチとはいかなるものだったのか? ハイドリヒとは何者だったのか? そして小説とは何なのか? と問いかける見事な作品です。印象的な装丁は Reindeer Design が手掛けて下さいました。

 この暗殺計画の実行について描いた映画が『暁の七人』(1975年、ルイス・ギルバート監督)ですが、DVDの国内版は現在、手に入りません。残念です。苦しくつらい作品ではあるのですが……。

『HHhH』(ローラン・ビネ著)、ただいま準備中![2012年3月]
再び『HHhH』(ローラン・ビネ著)について……。[2012年6月]

(2013年6月5日)




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