今月の本の話題

2012.12.05

エンデ、イーザウに続くドイツファンタジーの星、ズザンネ・ゲルドム『霧の王』 [2012年12月]

孤児の少女サリーが謎の男に手渡されたのは、この世でただひとり、彼女のための本だった。

霧の王
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「昔々、山々がまだ地をさまよい、最後の龍たちがこの世の巡り合わせに聡き目を光らせていた頃、ひとりの子どもが生まれる、その子どもには天賦の才があり、いずれ比類なき魔法使いになる定めにあった。
 名付け親になった最高齢の叡智の龍は、子どものうちにまどろむものに気づき、以来、我が子のようにその子を見守った。子どもはだれからも愛され、やがて素晴らしい少年に成長した。明るく素直な性格で、知識欲が旺盛だった」
 サリーは大きくため息をついて本を閉じると、勢いよく鼻をかんだ。使い古された肘掛け椅子にうずくまっていた司書が、驚いて顔をあげ、サリーに丸い目を向けた。
「ごめんなさい、ウール」サリーは声を詰まらせていうと、あまりきれいでない前掛けでもう一度あくびをした。「あしたも来るかい?」

 孤児のサリーはとある館の厨房の下働き。この館はあまりに大きく、いったい部屋がいくつあるのかわからないほどで、サリーは生まれてこのかた一度も外の世界に出たことがない。サリーのお気に入りの場所は図書室。空いた時間にこっそり本を読むのが楽しみなのだ。
 ある日サリーは、怪我をした給仕係の少女の代わりに、館の侍従長が開くパーティの給仕をすることになった。着飾った客、贅を尽くした美味しそうな料理の数々。だが、そのパーティはなにかがおかしかった。食後のカードゲームの最中、サリーの目の前で次々とプレーヤーが殺される。これは現実、それとも悪夢? 
 パーティのでサリーに話しかけてきた不気味な灰色の男。地下に棲む奇妙な少年。サリーに近づく謎めいた医者、叡智の龍と霧の王の不思議な物語……。

 混乱するサリーに追い打ちをかけるように、奇妙な出来事が周囲で起こり始める。この館には怖ろしい秘密が隠されていたのだ。

 ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』、ラルフ・イーザウ〈ネシャン・サーガ〉の流れをくむ、正当派ドイツファンタジーの逸品。

(2012年12月5日)




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