今月の本の話題

2012.11.05

ヒューゴー、ネビュラ、ローカス三賞受賞〈五神教〉シリーズ第3弾。ロイス・マクマスター・ビジョルド『影の王国』 [2012年11月]

 ロイス・マクマスター・ビジョルドは、『戦士志願』『ヴォル・ゲーム』に始まる、マイルズ・ヴォルコシガンを主人公にしたSFシリーズで人気の著者です。

 ファンタジーでも、ルネッサンス期のイタリアを舞台にして、元気な女の子フィアメッタの恋と魔法を描いた傑作『スピリット・リング』や、開拓期のアメリカを思わせる世界で展開する〈死者の短剣〉4部作がありますが、この〈五神教〉シリーズは、そのなかでも頂点を極めた作品。
 父神、母神、御子神、姫神、庶子神の五柱の神々を崇める国チャリオンを舞台にした、〈五神教〉シリーズは第1巻『チャリオンの影』ではミソピーイク賞を受賞、そして第2巻『闇の棲む城』ではヒューゴー、ネビュラ、ローカスの3賞を総なめにした傑作です。



●最新刊『影の王国』上

 聖王スタグソーン家の第三王子が殺された。手籠めにしようとした侍女に、逆に殺されてしまったたらしい。
 王子の遺体を都に運ぶべく派遣された国事尚書の配下イングレイは、殺人者だという娘イジャダを見て驚愕した。輝くばかりの美しさ。だがそれだけではない、彼女は古代ウィールドの戦士のごとく、その身の内に豹の精霊を宿らせていたのだ。
 この国にいないはずの獣の精霊が、なぜこの女に憑いたのか。
 父のせいで、自らも身のうちに狼の精霊に宿すことになったイングレイは、イジャダに興味を抱く。
 しかも、彼女を見たとたん、彼女を殺さねばならないという、抗えぬ衝動がイングレイをつき動かしたのだ。彼自身にはまったく身に覚えのない衝動が……。しかも彼の内なる狼のなせるわざでもなさそうだ。
 誰かが自分を操ろうとしているのか? いったい誰が何の目的でイジャダを排除しようとするのか?


 さらにイングレイは、都を前に一行を迎えた自分の従兄弟であり聖王の王女の夫であるウェンセルにも、獣の精霊が憑いていることを知る。
 穢れとして神殿から排除される自分たちのような存在が、なぜ三人も揃ってしまったのか。
 折しも都では病を得ていた聖王の容態が悪化していた。

 ヒューゴー、ネビュラ、ローカス賞を受賞した『影の棲む城』に続く、名手ビジョルドの〈五神教〉シリーズ第三弾。



『影の棲む城』上

 チャリオン国太后イスタは鬱々としていた。元国主だった夫はとうに亡く、年老いた母も亡くなった。娘はチャリオンの国主となっている。では、自分は? 神の手が触れた聖者でありながら、周囲からは気がふれていると思われていたのも昔のこと、今はもうなにもない。このまま故郷の城で、とらわれ人のように一生を過ごすのか……。ついに、耐えられなくなったイスタは、神に祈願をするための巡礼として、わずかな供だけを連れて旅に出た。
 不自由な暮らしから逃れるための、気まぐれな巡礼行のはずだった。しかし、次第に異様な出来事が一行を襲うようになる。イスタは眠れる男の奇妙な夢に悩まされ、供のひとりは魔に憑かれる。さらに、国境でチャリオンとの小競り合いをかかえるジョコナ軍に襲われたイスタらは、危ういところをひとりの騎士に助けられた。騎士の名はアリーズ・ディ・ルテス。忘れもしない、亡き夫の寵臣ルテス卿の息子だった。心ならずも、ふたたび神の訪ないを受け、第二の視覚を得たイスタが、アリーズの城で見たものは……。

『チャリオンの影』に続く、ビジョルドの傑作異世界ファンタジー。

〈五神教〉シリーズ第二弾。ヒューゴー、ネビュラ、ローカスの三賞受賞作。



●ミソピーイク賞受賞作『チャリオンの影』上

 指揮官として過酷な攻城戦を耐え抜いた末に、何かの手違いから敵国の奴隷にされ、身も心もぼろぼろになってやっとの思いで故国チャリオンに戻ってきたカザリル。そんな彼が頼ったのは、少年の頃に小姓として仕えていたバオシア藩妃だった。

 そこで、思いもかけず藩妃の孫娘にして、チャリオン国主の腹違いの妹イセーレの教育係兼家令の役を任される。だが、平和な日々も束の間、イセーレと弟のテイデスは、国主オリコに招かれ宮廷に出仕、もちろんカザリルも同行する。子供のないオリコが、ついにテイデスを自分と後継ぎとすることにしたのだ。

 その宮廷では、国主は名ばかりの存在で、宰相とその弟ドンドが権力をほしいままにしていた。


 カザリルは権謀術数渦巻く宮廷で、イセーレを護るべく奮闘する。

 実はカザリルが敵国の奴隷になるように手をまわしたのは、彼に恨みをもっていたドンドだった。さらなる権力を手にせんと、国主の妹イセーレとの結婚を企むドンド。それを阻止すべく、カザリルは禁断の死の魔術を試みる。

 魔術は成功しドンドは死んだが、その代価として同時に死ぬはずだったカザリルはどういうわけか生きていた。皮肉にも魔術の結果として、神の守護と死の呪いとを体内に宿す羽目になった彼は、チャリオン国主一族を覆う恐るべき呪詛の正体を知る。イセーレをものみこまんとする呪詛の影を破る方法は?

(2012年11月5日)




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