今月の本の話題

2012.04.05

いまSFは短編が熱い!『原色の想像力2』と宮内悠介『盤上の夜』発売中[2012年4月]

新しい才能がぞくぞくと出現している
短編SFの元気な世界に注目!

 ここ最近の日本SFシーンで盛り上がりを見せているのが、短編の世界。書き下ろしアンソロジーの《NOVA》シリーズ(河出文庫)や小社の《年刊日本SF傑作選》シリーズをはじめ、伊藤計劃・円城塔・神林長平・小松左京といったさまざまな作家の個人短篇集もつぎつぎと刊行・文庫化されており、書店の店頭は百花繚乱のおもむきがあります。また、〈マトグロッソ〉〈アレ!〉といったオンラインマガジンにも、SF短編の発表の場がひろがっています。
 そうしたSF短編は、短い時間にも手軽に読むことができて、かつSFならではの飛躍したアイデアや語り口をしっかり楽しめるのが、特徴のひとつ。また、「これまで興味はあったけれどSFはあまり読んでこなかった」というかたにとっても、1冊でさまざまな作品にふれることができるアンソロジーや短篇集はかっこうの入口でしょう。

 そんなわけで今回は、小社から先月刊行した日本SFの短篇集を2冊、ご紹介します。どちらも、あたらしいSFを求めるかたはもちろん、SFをはじめて読むかたにも最初の1冊として、自信を持っておすすめできる作品です。


■ 第2回創元SF短編賞アンソロジー『原色の想像力2』
堀晃氏(ゲスト選考委員)――「ここにはSFの未来を変える原石の輝きが満ちている。」

 第2回創元SF短編賞の最終候補作18編から選りすぐった7編と、受賞者・酉島伝法の受賞後第1作を収めた計8編のアンソロジー。
 トップバッターをつとめる空木春宵「繭の見る夢」は平安朝を舞台に、”虫愛づる姫君”と身分ちがいの若者を中心とした華麗な恋愛絵巻が陰陽師の登場を境にして驚くべき展開を見せ、つづくわかつきひかる「ニートな彼とキュートな彼女」はちょっと冴えない男子と出会いの機会にめぐまれない女子の、明るく軽快なボーイ・ミーツ・ガール・ストーリー。オキシタケヒコ「What We Want」は宇宙人に侵略された地球から飛び出した関西弁の美少女(本人談)と異星人のパートナーが繰り広げる軽妙なドタバタトークに、しっかりしたアイデアで芯を通した痛快ロックンロール・スペースオペラです。
 亘星恵風「プラナリアン」は不治の病に冒された大学生が、不思議な生物プラナリアの生態をひとつのきっかけとして、謎めいた女性教授とともに特殊な細胞移植治療の研究に手を染める。そして片瀬二郎「花と少年」は、頭のてっぺんに花を生やした少年と、人類を襲う謎の怪物との戦いを通じた、一筋縄ではいかない苦く力強い成長譚であり、志保龍彦「Kudanの瞳」は未来予知用に造られた人工少女と若き研究者の愛憎半ばする危うい関係に踏み込みんで独自の妖しい世界を見せます。忍澤勉「ものみな憩える」は30年ぶりに訪れる桜台の街を舞台にした叙情的な幻想小説で、注意深く読むと序盤のさりげない描写のなかにも素敵な仕掛けがあることに気づくでしょう。
 ラストを飾るのは受賞後第1作となる酉島伝法「洞の街」で、こちらは受賞作「皆勤の徒」『年刊日本SF傑作選 結晶銀河』収録)とおなじ異形の世界を舞台に、この著者にしか書けないであろう特異なイマジネーションに満ちた濃密な文体(と挿絵)で、こんどは学園青春ストーリー(!)を描きます。

 いずれの作品も、新人賞応募作とことわる必要を感じないほどの高い筆力と想像力をそなえています。むしろ、意欲にあふれる新進作家の作品を集めた、日本SFの未来を見せるショウケースとして読んでいただけたらと思います。

 なお、収録作の人気投票を行なっておりますので、読了された方はふるってご参加ください。
『原色の想像力2』収録作品人気投票(2012年5月31日締切)


■ 宮内悠介『盤上の夜』
堀晃氏推薦――「盤面から理性の限界を超えた宇宙が見える」
山田正紀氏推薦――「これは運命(ゲーム)と戦うあなた自身の物語」
飛浩隆氏推薦――「宮内はあなたの瞳(め)に碁石(いし)を打つ。瞬くな」


 一昨年に第1回創元SF短編賞の山田正紀賞を受賞して以来、アンソロジー《NOVA》シリーズ(河出文庫)や〈SFマガジン〉(早川書房)などにはやくも活躍の場をひろげつつある新鋭作家の、これがデビュー作。囲碁、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋といった「ゲーム」を題材とした連作短篇集です。
 四肢を失ったかわりに囲碁盤をみずからの感覚器とするようになった女性棋士を描く受賞作「盤上の夜」にはじまり、40年間無敗を誇った実在の天才チェッカー・プレイヤーの孤高の戦いに迫る「人間の王」。歴史から葬られたある麻雀タイトル戦の顛末を描く「清められた卓」は、ミステリ作家としての側面もぞんぶんに現れた作品であり、じつは麻雀小説などでしばしば使われる「牌姿」を一切出さずに勝負シーンを描く巧さも見せています。
 そして最大の読みどころは後半、「象を飛ばした王子」から書き下ろしの2編「千年の虚空」「原爆の局」までの3作品で示唆される、〈ゲームを殺すゲーム〉というビジョンかもしれません。ここで序盤から見え隠れするテーマがひとつの大きなうねりをかたちづくり、究極の対局をつきつめた果てに、「原爆の局」ラストにおける絶句するような光景で締めくくられる――

 本書は、2010年代をリードする新星として注目される作家のしるす第一歩をいちはやく目撃する、またとない機会です。

 なお、こちらも収録作の人気投票を行なっておりますので、読了された方はふるってご参加ください。抽選で一名様に著者からの粗品を進呈いたします。
『盤上の夜』収録作品人気投票(2012年5月31日締切)


未知の才能が集結する登竜門――創元SF短編賞
 今年で第3回をむかえる創元SF短編賞の最終選考会は4月14日(土)、SFイベントである〈はるこん2012〉において、公開で行われます。受賞作は6月刊行の《年刊日本SF傑作選》に掲載予定。これからの小説界を牽引していくあたらしい才能がつどう短編SFの世界に、ぜひ注目を!
(2012年4月5日)




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