今月の本の話題

2012.04.05

謎の短篇作家あらわる!? 奇抜なアイディアとユーモアいっぱいの傑作ミステリ短篇集『フランクを始末するには』[2012年4月]

 ある晴れた日の午後……。わたくし、翻訳ミステリ編集者Sはお洒落なイタリアンレストランで翻訳家の玉木亨先生とお仕事の打ち合わせをしておりました。そして「どんなミステリが好きか」という話題になったとき、なんの気なしに「変な短篇が好きなんです」と言ったところ、「そういえばこんな作品がありますよ」と教えていただいた……それが本書、アントニー・マンの『フランクを始末するには』だったのです。

 アントニー・マンさんの書くミステリ短篇は、変な作品ばかりです。冒頭の「マイロとおれ」は、“優秀な刑事は事件をつねに純粋な目で見る必要がある”という考えから、なんと刑事の相棒に赤ん坊が採用され、一緒に捜査を行う実験が始まった……というトンデモナイ設定の一篇です。殺人現場や容疑者たちの前で“はいはい”をしたり、ケラケラ笑う赤ん坊の姿をユーモアたっぷりに活写しています。また、英国推理作家協会(CWA)の短篇賞を受賞した「フランクを始末するには」では、芸能界の大スターであるフランク暗殺劇の二転三転する展開と、意外な「オチ」をコミカルに描いています。

 その他にも、“チェスの実力を上げるには父親を殺すしかない”とアドバイスされた主人公のお話や、ミステリ出版界の裏事情を語るゴーストライターものの一篇など、ひと癖もふた癖もある作品ばかり。中でも、ある人物の日々の買いものリストだけで構成された「買いもの」は、奇抜なアイディアが光る異色作です。“6月5日、牛乳、新聞、サンドイッチ”など、購入品のリストが示す驚愕の物語とは……!?

 さて、そんな変なミステリ短篇を書く著者、アントニー・マンさんはいったいどんな人なのでしょう。彼はオーストラリア出身の短篇作家です。単行本は2003年に刊行されたノンシリーズの短篇集である本作のみで、長篇はありません。寡作です。……しまった、語ることがあんまりない。

 情報を求めてアントニー・マンさんのホームページを探してみたところ、なんとも手作り感あふれるサイトを見つけました。そして一番目立つところに謎の音楽を発見。ためしに視聴してみたところ、いわくいいがたいミョーな音楽が聞こえてきました。ううむ、よくわからないよアントニー・マンさん! でも小説の世界だけではなく映像作家としても活躍しており、短篇映画でもさまざまな賞を受賞しています。子どものように「ニカッ」と笑っている本人の写真からはあまり想像がつきませんが、実はすごい人のようです。短篇映画はホームページで観られますので、お暇なときにご覧ください。おっと、その前に『フランクを始末するには』を読んでくださいね!

 本書は4月27日ごろ発売です。奇想とユーモアたっぷりのミステリ短篇集をどうぞお楽しみください。
(2012年4月5日)




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