今月の本の話題

2012.03.05

『HHhH』(ローラン・ビネ著)、ただいま準備中![2012年3月]

この奇妙なタイトルはいったい何を意味するのでしょう?

 2010年にフランスのゴンクール賞・最優秀新人賞を受賞した、ローラン・ビネ(Laurent Binet)の『HHhH』。この不思議なタイトルの作品を高橋啓さんがただいま翻訳中です。
『HHhH』というこの奇妙なタイトルはいったい何を意味するのでしょう?

 これは、第二次世界大戦中のドイツでの言い回しで、Himmler's Hirn heißt Heydrich を略したもの。Himmlers Hirn heißt Heydrich を直訳すると、「ヒムラーの頭脳の名前はハイドリッヒ」。
 ヒムラーとは、ハインリヒ・ヒムラー。ナチス・ドイツの重鎮、ヒトラー内閣の内務大臣を務め、ドイツの警察権力を掌握した人間。そして、そのヒムラーの頭脳と呼ばれたラインハルト・ハイドリッヒとは、〈プラハの虐殺者〉、〈金髪の野獣〉、〈第三帝国で最も危険な男〉等と呼ばれ、チェコのベーメン・メーレン保護領の統治者、親衛隊内部の国家保安本部の長となり、ナチスのユダヤ人大量虐殺は彼によって進められました(人類史上最大の汚点とも言うべきこの大量虐殺は、ハイドリッヒが主催したヴァンゼー会議で謀議がめぐらされたと言われていますが、ケネス・ブラナーが主演した『謀議』という映画はこの会議を扱ったものです)。
 この悪魔のような男の暗殺計画がありました。1942年の「エンスラポイド作戦」というその作戦の実行者は2人のチェコ人の青年パラシュート部隊兵。
 車に乗ったハイドリッヒを狙撃、彼はその怪我がもとで1週間後に死亡(この作戦については、『暁の七人』という傑作映画があります)。ナチス高官に対する暗殺計画で唯一成功したものといわれていますが、実行者たちは、ナチスによって悲惨な最期を遂げることになりました。

 本作『HHhH』の登場人物はすべて実在の人物です。きわめてノンフィクション的な手法でこの2人のチェコ人青年の行動に光を当て、2人の人生とハイドリッヒという怖るべき人間像を浮き彫りにする、その勢いのある筆致、文体は美しく、読む人の胸を打ちます。歴史と人間の本質に迫る傑作です。
 4月には、イギリスで、5月にはアメリカで刊行されるこの作品は、早くも英語圏で話題になっています。
 そして、なんとノーベル賞受賞作家、マリオ・バルガス・リョサも、「ギリシャ悲劇を思わせるこの作品は、生涯私の胸に残り、決して忘れることができない」と絶賛しています。
 今年中の刊行をめざしています。期待してお待ちください。

 尚、高橋啓さんは、そのあとには、ジャック・ルーボーの《オルタンス》シリーズの2作目にかかっていただきます。こちらもお楽しみに!
(2012年3月5日)




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