今月の本の話題

2012.02.06

年末ベストを総なめにした『犯罪』に比肩する傑作! フェルディナント・フォン・シーラッハ『罪悪』[2012年2月]

ドイツでの発行部数30万部突破!
ドイツCDブック賞ベスト朗読賞受賞

最新刊『罪悪』

 2011年、フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』が、『ミステリが読みたい!2012年版』『週刊文春』の「ミステリーベスト10」、『このミステリーがすごい!2012年版』で第2位にランクインし、翻訳ミステリ業界を賑わせました。本作『罪悪』は、『犯罪』と対になる著者の第2短篇集です。

 『犯罪』と作品の形式は変わっていません。弁護士の「私」が数々の異様な罪を犯した犯罪者たちの哀しさ、愛おしさを語る連作短篇です。簡潔で研ぎ澄まされた圧巻の筆致もそのままで、読む者の心を揺さぶるすさまじい物語ばかりです。

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 ふるさと祭りの最中に突発する、ブラスバンドの男たちによる集団暴行事件。秘密結社イルミナティにかぶれる男子寄宿学校生らの、“生け贄”の生徒へのいじめが引き起こす悲劇。猟奇犯罪をもくろむ男を襲う突然の不運。何不自由ない生活を送る主婦が続ける窃盗事件。麻薬密売容疑で逮捕された孤独な老人が隠す真犯人。――弁護士の「私」は、さまざまな罪のかたちを静かに語り出す。

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 一方、『犯罪』と異なっている点として、「裁かれなかった罪、裁くことのできない罪」が多く取り上げられていることが挙げられます。「罪」とはいったい一体何なのか。また、「罪」とは何によって規定されるものなのか。『犯罪』以上に考えさせられる作品です。第二に、普通の長さの短篇に3ページぐらいの短い一篇が何作か織り交ぜられている点も異なっています。『罪悪』刊行後、全15篇のなかでお気に入りの一篇を投票してもらうアンケート・フォームを本サイトに設置する予定です。それぞれのお好きな短篇をご投票ください!

 そして、担当編集者として『罪悪』でいちばん好きな点は、『犯罪』よりはっきりと、弁護士の「私」の感情や思いが描かれているところです。例えば、こんな一文があります。

 私たちは、自分たちが罪なき身ではなくなったこと、そしてそうなったからといってなにも変わらないことを実感した。

 この一文が、いったいどの作品で、どのような場面で語られるのか、ぜひ確かめていただけると幸いです。『犯罪』と比肩する、あるいは凌駕する傑作、『罪悪』をどうぞお楽しみください!

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■収録作品
「ふるさと祭り」「遺伝子」「イルミナティ」「子どもたち」「解剖学」「間男」「アタッシュケース」「欲求」「雪」「鍵」「寂しさ」「司法当局」「清算」「家族」「秘密」

■収録作品より
だれもが通報者でありえた。八人が有罪。だがそのうちひとりは無罪の可能性がある。――「ふるさと祭り」

じつに奇妙な事件だ。被疑者ふたりはその後しっかり社会に溶け込んでいた。容疑は固まっているので有罪は免れないだろう。だが逃走するとは思えない――「遺伝子」

「私はやらなかった」というのが、彼の第一声だった。私はうなずいた。依頼人はなかなかそのことがいえないものだ。――「子どもたち」

すべては元の鞘におさまった。これまでの彼女の人生で、すべてが元の鞘におさまってきたように。――「欲求」


文学賞三冠獲得!
処女作にして45万部、32か国で翻訳
ドーリス・デリエ監督映画化!

『犯罪』

■『犯罪』特製リーフレットのダウンロードはこちらから
ここだけの訳者あとがき【前編】

 お待たせしました。『ミステリーズ!vol.46』に短篇(「タナタ氏の茶碗」「棘」)を先行掲載した『犯罪』をお贈りします。

 高名な刑事事件専門の弁護士である著者が、かつて実際に起きた事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを描く珠玉の連作短篇集です。一生愛すると誓った妻を殺してしまった医師の人生が語られる「フェーナー氏」。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の息子が活躍する「ハリネズミ」。彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれてしまった博物館警備員の心理を圧巻の筆致で描く「棘」。そして、エチオピアの寒村を豊かにした不思議な銀行強盗が登場する感動の最終話「エチオピアの男」。この短篇集におさめられた11の物語は、読む者の心を揺さぶるすさまじい作品ばかりです。

 ドイツではデビュー作であるにもかかわらず45万部を突破し、32か国で翻訳が決定しています。すでに刊行されているアメリカ、イギリス、フランス、イタリアでも高く評価され、NYタイムズ、インデペンデント紙、ウォール・ストリート・ジャーナルなど多数の媒体から絶賛の声が寄せられています。

 さらに、幅広いメディア展開も行われる予定で『ヒトラー――最後の12日間』『パフューム――ある人殺しの物語』で知られる制作会社コンスタンティン・フィルムが、短篇集のうち2話を選んでドラマ化します。また第5話「幸運」は同制作会社による映画化が決定しており、『心の中で』(1983)や『メン』(1985)のほかオペラ演出も行っているドーリス・デリエ氏が監督・脚本を手掛けています。なお、この映画化はドイツ国内でも注目されており、バイエルン州映画補助金制度によって50万ユーロの補助金が出ているそうです。

 欧米読書界を驚嘆せしめた傑作です! どうぞお楽しみください。

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■収録作品
「フェーナー氏」「タナタ氏の茶碗」(碗は旧字)「チェロ」「ハリネズミ」「幸運」「サマータイム」「正当防衛」「緑」「棘」「愛情」「エチオピアの男」

■各国の書評より
『犯罪』はおそらく、ドイツでこの10年間に最もセンセーショナルなデビューを果たした作品だ。まさに傑作。――独リテラトゥーラ誌

『犯罪』の中で語られる11の物語は、すばらしく興味深い! ――米ウォール・ストリート・ジャーナル

私たちを虜にしているこの端正な短篇集には、弁護士として活躍している著者の経験が活かされている。彼が紡ぐ言葉は、ひんやりとした哀しみの声となって読者の心に響くのだ。――オレン・スタインハウアー、米NYタイムズ

ホフマン、クライスト、グリム兄弟、そしてカフカ。この作品には、偉大なるドイツの作家たちが書き継いできた“奇妙な物語”の精神が息づいている。――英インデペンデント紙

著者は償うことのできない罪を犯してしまう人間の心理過程を、悪魔のような精密さで解読すると同時に、彼自身の正義のありかたを描いている。――仏フィガロ紙

登場人物全員が実に生き生きとしている。それはおそらく彼らがほとんどの推理小説のキャラクターより生身の人間に近いからだ。そしてフォン・シーラッハは簡潔ですがすがしく、人々の胸を打つ文体を駆使している。――伊ラ・レプッブリカ紙

著者は犯罪者の窮地をユニークかつ鋭い観察眼を用いて、鮮烈に描き出している。……人物はシンプルでありながら巧みな筆致で書かれており、我々の心を強くとらえてはなさない。――豪ウィークリータイムズ紙

フォン・シーラッハは生まれついての小説家(ストーリーテラー)だ。細部をとらえる眼と、たぐいまれな構成力を有している。――ニュージーランド・ヘラルド紙

(2011年6月6日/2012年2月6日)

 

【2009年3月以前の「本の話題」はこちらからご覧ください】

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