今月の本の話題

2011.11.07

あの〈ライラの冒険〉のプルマンが描く傑作冒険シリーズ  フィリップ・プルマン『ブリキの王女』[2011年11月]

●最新刊 『ブリキの王女〈上下〉』(2011年11月刊)

 ところはロンドン。若さと才能はあるが貧しい娘レベッカは、ある若い女にドイツ語を教えることになった。だが、コックニー出身でろくに文字も書けないその女性、なんとラツカヴィアという中部ヨーロッパの小国の王子ルドルフと極秘裏に結婚しているというのだ。あまりのことに驚きあきれるベッキー。だが、どうやら嘘偽りはないらしい。話をするうちにふたりは少しずつうち解けていく。
 だが、ラツカヴィア本国で皇太子が暗殺され、弟であるルドルフが第一の王位継承者になったため、ベッキーは王子のもとで知り合った私立探偵ジム・テイラーと共に、王子一行についてラツカヴィアへ行くことになる。

 小国ラツカヴィアは、まさに危急存亡のときを迎えていた。国王は年老い、皇太子夫妻は何者かに暗殺されてしまった。鉱物資源をめぐって、オーストリア帝国と宰相ビスマルク率いるドイツが虎視眈々とラツカヴィアを狙っている。
 そしてさらに王家を立て続けに悲劇が襲う。陰で糸を引くのは何者か? 王室に隠された暗い秘密とは?

 ラツカヴィアの自由と独立を象徴する伝説の〈赤い鷲旗〉を擁し、サリーの弟分ジムと勇敢な少女ベッキーが大活躍。
 ヴィクトリア朝のロンドンから激動のヨーロッパ大陸へ。カーネギー賞70周年のオールタイムベストに輝く〈ライラの冒険〉の著者プルマンの傑作シリーズ最終巻。


『井戸の中の虎〈上下〉』(2010年11月刊)

 1881年秋、ある晴れた朝、サリー・ロックハートは庭にたたずみ、幼い娘ハリエットが遊んでいる姿を見ながら、万事順調な、幸せな気分につつまれていた。
 サリーは母を知らず、16歳で父を失った。さらに心から愛するフレデリックも、娘の顔を見ることなく3年前に死んでしまった。だが、今では自分の能力を活かして始めた財政コンサルタントの事業も成功し、共同経営者もできた。金があり、自立心もあり、たよりになる友人たちがいて、住みごこちのいい家もあれば、やりがいのある仕事もある。そのうえ、なにものにもかえがたい宝物、フレッドの忘れ形見のハリエットがいる。
 そんなサリーの幸福を、一通の書類がうちくだいた。まったく見も知らぬ男との、身に覚えのない結婚と離婚の申し立て。さらに、相手はハリエットの親権まで要求しているではないか。
 まさに青天の霹靂ともいえる、この申し立てに、断乎闘おうとするサリーだが、未婚の母という立場が彼女を不利な方に押しやる。いったい相手は何をねらっているのか? 愛する娘を守るため、サリーの新たな戦いが始まる。

 サリーと結婚したと主張する男は、すべてを周到に準備していた。サリーにはまったくあずかり知らぬところで、結婚の記録が婚姻登記簿に記載され、娘の出生届けも出されていた。
 ハリエットとともに逃亡生活を余儀なくされたサリー。財産を差し押さえられ、家にも帰れず、着の身着のままでロンドンをさまよう羽目に。だが、ただ逃げ回るだけのサリーではなかった。
 敵の身辺を探るうちに知り合ったジャーナリストの助けを借り、自ら虎の穴に飛び込んで、背後に潜む人物の正体を暴こうとする。そこでサリーがつかんだ驚愕の真相は?
 カーネギー賞70周年オールタイムベストに輝く〈ライラの冒険〉の著者プルマンの、知られざるもうひとつの名作〈サリー・ロックハートの冒険〉第3弾。


『仮面の大富豪〈上下〉』

「マハラジャのルビー」事件から6年。サリーは財政コンサルタントとして、忙しい毎日をすごしていた。
 冒険を共にしたフレッド、ジムとはいい仲間だし、シャカという忠実な犬もいる。
 そんなある日、サリーのオフィスにひとりの老婦人が訪ねてきた。2年前にサリーの勧めで投資をした先の海運会社が倒産、老後の貯えをすべて失ってしまったのだという。
 一方、劇作家になる目標を胸に、劇場で雑用係をつとめるジムは、出演者のひとり、奇術師に乞われて、劇場を脱出する手伝いをする。殺人を目撃し命を狙われているというのだ。
 海運会社の倒産事件を調べるサリーと、正体のわからない相手に命を狙われているという奇術師の依頼を調べるフレッドとジム。一見ばらばらの事件が、調べ進むうちにひとりの人物に集約していく。その人物とは、スウェーデン出身の謎の大富豪アクセル・ベルマン。

 イングランド北部に広大な敷地をもつ工場を建て、貴族の令嬢と婚約。華やかな活躍の陰に秘められた怪しい過去。
 ふたつの出来事は、やがて大きな渦となって、全員を巻き込んでいく……。

 名作〈ライラの冒険〉にも負けないスケールと感動。
 フェニックス賞オナー受賞。カーネギー賞70周年オールタイムベストに輝く『黄金の羅針盤』の著者の感動大作。
解説=田中芳樹


『マハラジャのルビー』

 1872年、10月初めの風の強い寒い朝、一頭立て二輪馬車が、ロンドン金融街の中心部にあるロックハート&セルビー海運会社の前に停まり、馬車から降りてきたひとりの若い女が御者に料金を払った。16歳ぐらいのその娘は、人目をひく美しい顔だちをしていた。ほっそりした身体を喪服でつつみ、青ざめた顔に黒いボンネットをかぶっている。娘は風に乱されてほつれたブロンドの髪を、ボンネットの中に押しこんだ。みごとな金髪にはめずらしい褐色の目の持ち主だ。この娘、サリー・ロックハートは15分ののちに、ひとりの男を殺すことになる……

 こんなわくわくするような書き出しの物語、主人公サリー・ロックハートは海運会社の経営者だった父を船の事故で失い、天涯孤独の身になったばかり。そのサリーのもとに、ある日謎めいた警告の手紙が送られてきた。

「サリ七つの祝福に用人しろ
 マーチバンクスが助けになってくれる
 チャツム
 用人しろ」

 間違い字だらけのこの手紙に書かれていた〈七つの祝福〉という言葉がその後の騒動の発端だった……
 ヴィクトリア朝のロンドンを舞台に、英文学やフランス語、歴史、美術、音楽に関する知識は皆無だが、軍の作戦、簿記、株式市場の動き、ヒンドゥー人に関する実用知識には堪能という、変わり者の少女サリーがもちまえの機転と勇気で父の死の謎に挑む。
 サリーにつきまとう怪しげな老婆ミセス・ホランド、阿片の煙にかすむ幼いころの記憶、そして呪われたマハラジャのルビーの行方……

 とにかく面白い、あの〈ライラの冒険〉の著者プルマンの傑作シリーズ開幕!

(2010年11月5日/2011年11月7日)

 

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