今月の本の話題

2011.09.05

第64回日本推理作家協会賞(短編部門)受賞の表題作をはじめとする五つの謎物語 深水黎一郎『人間の尊厳と八〇〇メートル』[2011年9月刊]

あの夜、こぢんまりとしたその酒場に入ったのは、あくまで偶然のことだった。そこで初対面の男がわたしに話しかけてきたのも、たまさかの事。彼から、思いもよらぬ「賭け」を提案されて、受ける気になったのも……

初対面の男から何ともおかしな賭けを持ちかけられる――このシチュエーションからまずミステリの愛読者が思い浮かべるのは、異色作家ロアルド・ダールの短編「南から来た男」ではないでしょうか。この作品は、その異様な設定とショッキングな結末故に、短編ミステリのオールタイムベストにもよく取り上げられます。
表題作の「人間の尊厳と八〇〇メートル」も、思わぬ発端に始まり、思わぬ展開を経て、読者の予想を大きく上回る“意外な結末”へと辿り着きます。しかしそこには、単純な愕きだけではなく、タイトルにある“人間の尊厳”を体現したかのような、奇跡のような結末が用意されています。短編ミステリの新たな古典となりえる本作、未読の方はぜひ冒頭からじっくり味わって下さい。

ほか、極北の国々を旅する日本人青年が遭遇した、異国ならではの美しい謎「北欧二題」、あまりにも皮肉な結末が用意された「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」など、バラエティに富んだ、摩訶不思議な物語がお待ちしております。本格の気鋭初の短編集、ぜひお見逃し無きよう。

■収録作品

「人間の尊厳と八〇〇メートル」
「北欧二題」
「特別警戒態勢」
「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」
「蜜月旅行 LUNE DE MIEL」
(2011年9月5日)

 

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