今月の本の話題

2010.12.06

現代英国児童文学の女王がおくる、にぎやかな魔法譚 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『メルストーン館の不思議な窓』[2010年12月]

    邦訳版によせて――著者からのメッセージ

『メルストーン館の不思議な窓』はめずらしい作品だ。というのも、自分で書いた原稿に刺激されたものなのだ。うちには、いったん書き出したものの――いろいろな理由から――途中で筆をおいた物語がぎっしりつまった引き出しがある。大半はせいぜい2ページぐらいしか進んでいない。わたしはときおり、そうした原稿に目を通して、次はどうなると考えていたのだろう、と首をひねる。たいてい、くだらない話になるに違いないと気づいて、またしまいこむ。でも、この前引き出しを調べたとき、たまたま『メルストーン館の不思議な窓』の第1章を見つけた。どんなふうに続けるつもりだったのかまるで記憶にないけれど、実におもしろいと思った。どうしてしまいこんだのだろう、と考えてから、それを書いたのが数年前、病院にさらっていかれる直前だったのを思い出した。その結果手術を受けることになり、原稿のことはきれいさっぱり忘れていたのだ。「これじゃだめだ」とわたしは思い、すぐさま続きにとりかかった。たぶんずっと前に書きはじめた物語とは似ても似つかないだろうけれど、とても満足できる話になった。ほかの人たちにも喜んでもらえることを願っている。


 祖父が亡くなり、メルストーン館を遺されたアンドルー。不機嫌でがみがみやの家政婦、巨大な野菜作りに血道をあげる横暴な庭師と、ふたりの暴君にはさまれて、アンドルーはメルストーン館でそこそこ平和に暮らすことができるかに見えた。
 だが、相続したのはそれだけではなかった。実は祖父は魔術師で、当然魔術師につきもののあれやこれやが(使用人も含めて)、ちょっとした手違いから、ちゃんとした手続きを踏まぬまま、なしくずしにアンドルーに引き継がれることになったのだ。

 どたばたしているさなか、突然祖父を頼ってひとりの少年エイダンがあらわれた。エイダンは唯一の身寄りだった祖母が亡くなって以来、へんてこな姿をしたやつらに追い回されているのだという。謎のストーカーの正体は、宇宙人? 妖精? それとも?
 敷地にあらわれる菜食主義の巨人、境界の森にある館にすむ変てこな隣人や、エイダンにくっついてきた可愛い人犬と、アンドルーとエイダンの共同生活はそうでなくても波乱がいっぱいだ。

 おなじみ英国児童文学ファンタジーの名手が贈る、にぎやかではちゃめちゃな魔法譚。

(2010年12月6日)

 

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