今月の本の話題

2010.04.05

対照的なふたりの探偵が行き合う7つの事件 S・J・ローザン『夜の試写会 リディア&ビル短編集』[2010年4月]

《リディア・チン&ビル・スミス》シリーズ 最新刊
MWA受賞作を含む日本オリジナル短編集


 ミステリが産声をあげてからこれまで、数多くの名探偵・名キャラクターが生み出されてきました。話をハードボイルド・私立探偵小説の分野にかぎっても、大勢の魅力的な探偵がいます。
 その並みいる私立探偵たちのなかで、現時点における最高のコンビとして推薦したいのが、S・J・ローザンが世に送り出したリディア・チンとビル・スミスのふたりです。その実力の一端は、シリーズ作品の輝かしい受賞歴(MWA=アメリカ探偵作家クラブ賞を長編1回/短編1回、シェイマス賞を2回、アンソニー賞を1回受賞)からもうかがえます。

 ふたりの私立探偵は、外見も個性もことごとく対照的。リディアは20代の中国系アメリカ人女性で、ビルはむくつけき中年白人男性。当然、ライフスタイルも、事件に対するアプローチの方法も異なります。じつはこのふたり、いつも組んで行動するわけではありません。必要に応じてコンビを組むパートタイムの関係なのですが、ひとたび組めば息はぴったり、どんな難事件が相手でもひるまず立ち向かっていきます。

 本書『夜の試写会』は、そんな名コンビが活躍する7つの短編を収録した、日本オリジナル短編集。シリーズの多面的な魅力を一冊で味わえるように、シリアスかつハードなものから軽妙かつユーモラスなものまで、バラエティ豊かな作品を集めました。シリーズ未読のかたが、この本から読みはじめていただくのもひとつの手だと思います。
 このシリーズにはユニークな点がいくつかあって、その最たるものが語り手の存在。長編では、一作ごとにリディアとビルが語り手を交代するのです(奇数巻がリディア、偶数巻がビル)。かたや短編はさらに多彩で、リディアとビルがそれぞれ単独で事件に当たる話もあります。本書収録作から例をあげると、MWA短編賞受賞作である「ペテン師ディランシー」はリディアのみが登場する作品です。ではほかの短編は……というと、それはじかにご確認ください。

 ……さて、本書がシリーズ初体験で、リディアとビルの登場する作品をもっと読みたい! と思われたかたのために、ちょっとしたアドバイスをいたしましょう。リディア・チンの物語が気になるかたは、順当に第1作『チャイナタウン』を手に取られるのが吉です。いっぽう、ビル・スミスが語り手のお話を楽しみたいというかたは、第2作『ピアノ・ソナタ』(シェイマス賞受賞作)、もしくは第8作の『冬そして夜』(MWA賞受賞作)へとお進みください。
 S・J・ローザン『夜の試写会 リディア&ビル短編集』は、4月10日発売予定です。

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 中国系女性のリディア・チンと、中年の白人男性ビル・スミス。対照的なふたりの私立探偵の活躍を収めた、日本オリジナル短編集。
 ふたりが協力して殺人の容疑者を罠にかける「夜の試写会」、リディアと詐欺師のやり取りを描くMWA(アメリカ探偵作家クラブ)最優秀短編賞受賞作「ペテン師ディランシー」、ビルが高校生バスケットボール選手の死を探る「ただ一度のチャンス」など、現代私立探偵小説の粋、全7編を収録。


(2010年4月5日)

 

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