今月の本の話題

2012.05.08

リナ&デッカー・シリーズ最新刊 フェイ・ケラーマン『新人警官の掟』[2012年5月]

 敬虔なユダヤ教徒のコミュニティで起きた事件を描いた、マカヴィティ賞最優秀処女長編賞受賞作『水の戒律』に始まるこのシリーズは、ロサンゼルス市警の刑事デッカーと正統派ユダヤ教徒の女性リナとの出会いから、宗教の壁を乗り越えての交流を細やかに描き、多くの読者の支持を得ています。



●最新刊『新人警官の掟』上下/吉澤康子訳(2012年5月刊)

 ピーター・デッカーと先妻の娘シンディは苦しんでいた。父の猛反対を押し切って警官になったものの、警部補を父にもち、アイビーリーグ出身でエリート気取り、おまけに鼻っ柱が強いとなれば、上司や同僚とうまくいくはずもない。またもや上司と衝突し、その反動か思わず飲み過ぎて父の部下オリヴァーに送ってもらうハメに……。
 そんなある日、シンディは部屋に置いてあった写真立ての位置が違っていることに気づく。オリヴァーが動かした? 思い違い? それとも誰かが部屋に侵入したのか?
 だが、事態はそれだけではすまなかった。車を運転中にであとをつけられ、部屋を何者かに荒される。ひとり立ち向かおうとするシンディだったが……。

 女性ばかりを狙い、背後から銃をつきつけて脅して高級車を奪う。そんな事件が連続して発生。デッカーと部下たちが調べるうちに、一連のカージャック事件のなかに毛色の違うタイプのものが混じっていることに気づく。一年ほど前に身代金目当てに誘拐され殺された男性の事件と似ているのだ。
 おまけにその被害者の男性とシンディは見知りだったことが判明。シンディは何かを隠しているようだ。なかなか打ち明けてくれない娘の態度に、ピーターのいらだちはつにるばかり。

 新人巡査シンディが主役の、人気シリーズ第12弾。



『木星(ジュピター)の骨』上下/高橋恭美子訳(2011年9月刊)

 死亡したのはジュピターと呼ばれる男。〈神の環教団〉の教祖にして、かつての大学教授で宇宙物理学の権威。
 事件の知らせに、デッカーは現場へ急行する。だがなにせ相手はカルト教団。事故か自殺か、はたまた他殺かもわからないというのに、信者たちが勝手に遺体を動かし、しかも、教団内の医者が死亡診断書までこしらえていた。
 警察を自分たちの世界への侵害者とみなし、あくまで非協力的な態度をとる教団員たち相手に、捜査は難航する。閉鎖的な教団内でいったいなにが起こっているのか?教祖の死で利益を得るのは誰か?

 教祖の死因は、教祖の死後、権力争いをはじめた弟子の仕業か、それともかなりの額の遺産を受け継ぐ、教祖の娘の仕業か。あやしいのはそればかりではない、ジュピターはその言動で大学教授時代にもかなりの人々から恨みを買っていたらしい。
 カリスマ的な指導者を失って混乱する〈神の環教団〉。さらに追い打ちをかけるように教団を次々と事件が襲う。信者の子どもが誘拐され、教師役の若い娘も行方不明、さらに第二の殺人事件が発生する。
 リナと前夫のあいだのふたりの息子が思春期をむかえ、家庭内でも悩み深いデッカーは、教団の子どもたちを救おうと奔走する。だがさらなる悲劇の幕があがろうとしていた。

シリーズ第11弾。



『蛇の歯』上下/吉澤康子訳(2010年1月刊)

 高級レストランで男がいきなり銃を乱射。ねじれた死体。パニックによる混乱状態のなかに響く、負傷者のうめき声……。死者13名、負傷者30名以上。悪夢のような現場の惨状に、デッカーら捜査陣は怒りと動揺を隠せなかった。
 そんななか、犯人らしき男もその場で死亡しているのが見つかる。レストランを辞めさせられた元バーテンダー。どうやら犯行後に自殺したらしい。特定の誰かを狙った計画的犯行か、それとも衝動的なものなのか。動機は? デッカーと部下たちは犯人と被害者たちの接点を調べ始める。

 惨たらしい事件の捜査に、身も心も磨りへらすデッカー。そんなときタイミング悪く、先妻との娘シンディが警官になりたいと言いだした。娘の身を案じるあまり、デッカーは思わず癇癪を爆発させてしまう。
 さらに、追い打ちをかけるように、死亡した被害者の娘で、社交界の女王ジーニーからデッカーに対してセクシャル・ハラスメントの訴えが出された。美しいが男を支配し思い通りにあやつる女性。訴えの内容は事実無根ではあるが、相手を魅力的だと思ったのは事実だ。彼女の真の意図は?
 デッカーの家族をも巻きこんで、捜査は意外な方向へ向かう。

 好評、リナ&デッカー・シリーズ第10弾。



『死者に祈りを』上下/高橋恭美子訳

 警部補になり、本来なら殺人課の現場からは一歩退いているはずのデッカーだったが、忙しさは相変わらずで、愛妻のリナとも子どもたちともすれ違いの毎日が続いていた。
 そんなとき、心臓の専門医として名高い医師スパークスが無惨に殺害される事件が発生。家族にとっては良き夫、偉大な父であり、仕事仲間の医師たちにとっては、確かな腕と権威をもつ絶対的な存在、そして厳格なキリスト教原理主義者でもあった。
 さらに、被害者と仲間の医師たちが免疫を抑える画期的な新薬の開発に関わっていたことも判明する。

 被害者の息子のひとりブラムは、カトリックの神父で、しかもリナの亡き夫の親友だった。
 かつての恩人と夫への忠誠心の板挟みに苦しむリナ。デッカーも、事件にリナが介入してくることへの苛立ち、ふたりの関係への嫉妬に苛まれる。
 調べ進むうちに明らかになっていく、被害者の家庭の複雑な内情、部下の医師たちの屈折した思い。週末には荒くれた仲間とバイクに乗っていたという被害者の意外な顔。捜査が難航するなか、さらに第二の殺人が……。
 高名な医師に恨みをもつ人物は誰か? リナとの関係に苦悩しつつデッカーは捜査を進める。

愛の本質、家族の絆を問う、リナ&デッカー・シリーズ第9弾。



『正義の裁き』上下/吉澤康子訳

 愛する妻と幼い娘と共に平和に暮らすデッカー。目下の唯一の心配事は、ニューヨークで大学に行っている、前妻との娘のことだった。どうやら娘の周辺で女子大生がレイプされる事件が続発しているらしい。
 苛々を募らせるデッカーのもとに、ホテルの一室で若い女性が殺されているとの知らせが。被害者は高校生活の最後をかざるプロムの夜、友人たちと羽目を外していたらしい。
 デッカーの心の中で、被害者と自分の娘の姿が重なる。そして、捜査線上に浮かんだのは、プロムの夜、被害者と一緒にいた少年クリスだった。

 クリスは謎めいた少年だった。魅力的な容姿、プロなみのチェロの腕前、そしていつも穏やかで抑制された振る舞い。犯罪歴はまったくなく、しかも18歳にして、自分で生計をたてているらしい。
 殺された少女は彼のガールフレンドだったのか。クリスの身辺を調べるうちに、意外な事実が明るみに出る。なんとクリスはマフィアの首領の息子だというのだ。一流の弁護士に護られ、嘘発見機のテストをやすやすとパスしてのける少年。だが、デッカーのある発見がクリスの自制心を突き崩した。

 若さゆえの情熱と、哀しくも歪んだ愛を描く、リナ&デッカーシリーズ第8弾。

(2010年1月6日/2012年5月8日)



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