今月の本の話題

2009.12.07

緊迫感に満ちた傑作! 会話と独白のみの異色ミステリ ギルバート・アデア『閉じた本』[2009年12月刊行]

「ならば本題に入ろう。わたしが欲しいのは、きみの目なんだ」(本文21ページ)

 本書をぱらぱらとめくっていただくとすぐに気づかれると思いますが、この『閉じた本』にはいわゆる「地の文」がありません。三人称の記述がまったく無く、すべてが登場人物の会話と主人公の独白のみで綴られている、なんとも奇妙な作品です。

   事故で酷い怪我を負い眼球を失った大作家ポールは、世間と隔絶した生活を送っています。テレビも新聞にも触れない彼は、ある日自伝執筆のため口述筆記の助手として青年ジョンを雇い入れます。どこかで聞いたような組み合わせの二人は、協力して執筆を進めていきます。ジョンは見るも無惨なポールの顔にもひるまず、彼に尽くし、新しい世界を伝えてくれます。しかしささいなきっかけから物語は一変。ポールはジョンに対して恐怖を覚え始め、ある疑惑が生まれます。――ジョンが伝える言葉は、果たして真実なのだろうか?

   前述したように、この作品には「地の文」というものが一切ありません。ですから物語の背景、登場人物の風貌などはすべて登場人物の会話を通して知るしかなく、つまり読者も主人公ポールと同じく盲目状態に置かれてしまうのです。だからなのでしょうか、ただの会話がどんどん怖くなってくるのは……。一見普通の好青年に思えるジョン。彼が伝える言葉は本当なのか? 彼の真意は? そして正体は? 物語が進むにつれて、徐々に増していく疑念と緊迫感。そしてやってくる驚きの結末! 300ページに満たない短い作品ながら、スリルと破壊力抜群の異色ミステリです。

 著者のギルバート・アデアはイギリス出身の小説家で、映画・舞台評論家、翻訳家などさまざまな顔を持つ多才な人物です。邦訳されている作品だけでも、『作者の死』、『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』などミステリファンには是非読んでいただきたい、一筋縄ではいかないものばかり。解説では村上貴史先生にアデア作品の面白さをおおいに語っていただきました。アデア作品の入門として最適です。本書をきっかけに、「騙り」の文学の魅力に触れてみませんか?
(2009年12月7日)

 

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