今月の本の話題

2009.12.07

名手が贈る珠玉のサスペンス、新訳で復活! ヘレン・マクロイ『殺す者と殺される者』[2009年12月]

隠退した心理学者の身辺で起きる異変……
名手マクロイ、技巧の極致が新訳で復活!


 今年8月に刊行した『幽霊の2/3』が大好評をいただいているヘレン・マクロイ、その長編をもうひとつ、やはり新訳でご紹介できるはこびとなりました。『殺す者と殺される者』――『幽霊~』と同じく、一度耳にしたら忘れられないタイトルの作品は、いったいどのような物語なのでしょうか。

 あまり内容に立ち入ると興をそいでしまう作品ですので、ずばり結論をいいますと、『殺す者と殺される者』『幽霊の2/3』とはまた違った意味で、マクロイのうまさと美点が細部にいたるまで発揮された傑作です。
 精神科医探偵ベイジル・ウィリングものの一作であり、本格ミステリとしての構成に優れた『幽霊~』とは異なり、ノンシリーズものである本書は、主人公ハリー・ディーンの身辺に迫る異変と危機をきめ細やかな筆致で描き、やがて起きる事件の顛末や、慄然とする幕切れまでをひと息で読ませる、珠玉のサスペンスにしあがっています。
 今回、新訳されたことにより、その丹念かつ精緻な描写力がいっそう明確に伝わるようになりました。1950年代にこのような物語を著していた先見性とあわせ、ヘレン・マクロイという作家のすごさを体感していただくためには、これ以上の予備知識は必要ないでしょう。あとは、ご自分でご確認ください。

 ……と書きましたが、本書には『幽霊の2/3』とあわせて読むとわかる、ちょっとした面白い事実がありますので、そのことにだけ触れておきましょう(※どちらの作品の真相とも関係ない、ささいなトリビアですのでご安心を)。
 じつはこの二作、作中にまったく同姓同名の登場人物が出てくるのです。ただ、名前が同一というだけで、立場や境遇は完璧に異なるので、別人であることは明らか。『幽霊の2/3』は1956年、『殺す者と殺される者』はその翌年1957年の刊行ですので、前者を執筆したあと記憶に残っていた名前を、マクロイが無意識のうちに利用したのでしょうか。誰の名前がダブっているのか気になるかたは、ぜひ『幽霊の2/3』をひもといてお確かめください。

 ヘレン・マクロイ『殺す者と殺される者』は12月19日刊行予定です。

※  ※  ※  ※

 おじの遺産を相続し、不慮の事故から回復したのを契機に、大学の職を辞して亡母の故郷クリアウォーターへと移住した心理学者のハリー・ディーン。人妻となった想い人と再会し、新生活を始めた彼の身辺で、異変が続発する。消えた運転免許証、差出人不の手紙、謎の徘徊者……そしてついには、痛ましい事件が。この町で、いったい何が起きているのか? マクロイが持てる技巧を総動員して著した、珠玉のサスペンス。


(2009年12月7日)

 

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