氷漬けの死者と大聖堂の白骨の謎
現代英国本格の新星登場!


 現代英国本格ミステリがお好きな皆さま、お待たせしました。コリン・デクスターが大絶賛した驚異の新人、ジム・ケリーの『水時計』が登場です。

 舞台はイギリス東部の町、イーリー。痺れるような寒さの11月、凍りついた川から車が引き揚げられます。トランクには銃で撃たれた上、死後に首を折られた死体が入っていました。犯人はなぜこれほど念入りな殺し方をしたのでしょうか? さらに翌日、今度は町のシンボルである大聖堂で大事件が発生します。大聖堂はちょうど修復工事の最中だったのですが、屋根の雨樋から白骨死体が見つかったのです。人口一万強の小さな都市で、ふたつの事件が前後して起きたのは偶然なのか? そう疑問を抱いた敏腕記者のドライデンは、独自に調査をはじめます。

 本書の最大の魅力は、さりげなく張られた緻密な伏線です。主人公のドライデンは、地方新聞の記者として日常的な業務も平行してこなしています。サーカス団の火事、市の記念式典などの日常の出来事も精力的に取材していきます。そうしたなにげない取材風景の中にも、事件のヒントが隠されています。そして、張り巡らされた伏線が一気に明らかになるラストは圧巻です。また、真相がわかってから読みかえしてみると、新人離れした完成度に驚かされます。

 作者のジム・ケリーは英国生まれの元ジャーナリストで、自身の新聞記者としての経験に基づいて本書を書き上げています。2003年にこの『水時計』でデビューし、2006年には英国推理作家協会(CWA)図書館賞を受賞しています。この賞は図書館員によって選ばれるもので、作家に対して授与されます。本国イギリスでも実力を評価されている人気作家であり、コリン・デクスターをはじめとする著名人が賛辞を贈った、気鋭の新人です。
 黄金期の探偵小説をも彷彿とさせる、本格推理の粋をお楽しみください。
(2009年9月7日)

 

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