12世紀、十字軍華やかなりし時代の物語
CWA最優秀歴史ミステリ賞受賞作


 時は1171年。ケンブリッジの町では、イングランド王国全土を揺るがす大事件が起きていました。子どもばかりをさらって殺す正体不明の殺人者が、犯行を繰り返していたのです。根強い迷信から、事件はユダヤ人の犯行であると決めつけられ、町に住むユダヤ人一党はケンブリッジ城に籠城する羽目になりました。そのため、裕福なユダヤ人からの税収は途絶え、国庫の破綻は避けられない状況に。かといって、このままユダヤ人をかばいつづければ、今度はローマのカトリック教会からの破門が待っています。

 進退窮まった国王ヘンリー二世(映画『冬のライオン』でもおなじみ)は、シチリア王国から優秀な調査官と当時珍しかった検死医を招き、事件を解決させることにします。苛酷な長旅を経てイングランドに到着した調査官ナポリのシモンと若き女性検死医のアデリアたちは、カンタベリから帰る巡礼の一行に同道してケンブリッジを目指すのですが、一行の中にはあの忌むべき殺人者もまた、姿をひそめていたのでした……。

 本書は英国推理作家協会(CWA)の最優秀歴史ミステリ賞(=エリス・ピーターズ賞。サラ・ウォーターズ『荊の城』も受賞しているのと同じ賞)の受賞作です。さすが受賞作だけのことはあって、時代風俗描写は見事のひと言。十字軍帰りの騎士・修道士・修道女などを重要な登場人物として配置したことや、時代設定がトマス・ベケット大僧正の殺害事件直後であることも、全編にわたって有効に活用されています。
 そして本書もうひとつの魅力は、極めて現代的な感性を持つヒロイン、女医アデリアの存在です。女性は検死医どころか、医者になることさえ困難だった時代に、幸運にも恵まれ女医として活躍する彼女は、慣れない異国の地で戸惑いを覚えつつも、必死で事件と向き合い、解決しようとします。その姿には、歴史ものを読み慣れていないかたでも、親しみを持っていただけると信じています。

 アリアナ・フランクリン『エルサレムから来た悪魔』は9月29日刊行予定です。

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 1171年、イングランド。ある巡礼の一行が、ケンブリッジの町への帰途にあった。修道士や修道女、十字軍の騎士たちなどからなる面々の中には、恐るべき連続殺人者もいる。殺人者が町で繰り返してきた凶行は、いまや王国そのものを揺るがす事態にまで発展していた。
 国王ヘンリー二世がシチリアから招聘した、優秀な調査官シモンと、検死の術を修めた若き女医アデリアは、この難事件を解決できるのか。CWA最優秀歴史ミステリ賞受賞作。

(2009年9月7日)

 

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