伝記作家と少女探偵――編集者に訊く


 主人公シシーはミステリ作家の伝記専門のライターという、実にミステリ・ファンの心をくすぐる設定ですよね。
そう。なかなか思いつきませんよね。バツ一で娘が一人(既婚)の世に言うアラフォー。
 タイトルの少女探偵というのは? 
 それはもちろん、あの少女探偵ナンシー・ドルーのことです。
 じゃあ、今回はナンシー・ドルー・シリーズを書いたキャロリン・キーンの伝記っていうことですか?
 そういうことです。
 でも……キャロ……
 ええ、ええ。キャロリン・キーンは一人の作家ではない……ということでしょ?
  もちろん。そうです。ストラテマイヤー工房というものがあって、何人もの書き手がいる。そのあたりも、そして、その中でのあれやこれやのもめごと等々もしっかり書き込まれています。
  そして、アメリカにおけるナンシー人気のほどもよくわかります。ファンクラブの実態とか、ファンのマニアぶりも……。トリビアが面白いんですよ。「へー」度が高い!
 肖像って、ナンシーという少女探偵の人間像という意味ですか? 
 それもあるけれど、ナンシー・シリーズの表紙の絵のモデルで有名なグレース・ホートンを描いた裸婦像(!)というのが出てくるのです。ナンシーのイメージと裸婦像となると、けっこうセンセーショナルなものになるわけで……。美術品蒐集家でナンシー本コレクターのおじさまが、その絵をシシーに見せてくれたんです。そして、そのおじさまが、シシーを気に入ってくれて、パームスプリングで開かれるナンシーのファンクラブ総会に参加する彼女に、彼の別荘を使いなさいと鍵を渡してくれた。ところが、そこでシシーと親友のラエルとブリジットの仲良しトリオが見つけたのは、なんとそのおじさまの死体! という展開に……。
 肖像画かあ……。そういえば、たしか作者のスーザン・カンデルは、美術史を勉強した人で美術批評なんかもしていたんでしたよね?
 あれ、よくご存じですね?
 だって、シシーの一作目『E・S・ガードナーへの手紙』の訳者あとがきに書いてありましたよ。
 あっそうか。そう、だから、そのあたり、つまり絵の話で、「ええーっ!」という驚くべき流れになるんですよ……。その展開は見事ですよ。それ以上は言えません。
  『E・S・ガードナーへの手紙』は、もう、ペリー・メイスンを知らない人も増えていて(?)、ガードナーって? という質問もあったほどですが、ナンシー・ドルーは、創元推理文庫でも現在進行形で刊行中ですから、もっと身近に感じていただけるかもしれませんね。
  このシリーズ、それぞれまったく独立した物語なので、こっちを先に読んでも大丈夫です。カバーの森英二郎さんの版画が今回もまた素晴らしい。
 ちなみに、創元推理文庫でお読みになれるナンシー・ドルー・シリーズは下記のとおりです。
『古時計の秘密』
『幽霊屋敷の謎』
『バンガローの事件』
『ライラック・ホテルの怪事件』
『シャドー牧場の秘密』

(2009年7月6日)