今月の本の話題

2008.12.09

伝説の第1短編集を大幅増補 野田昌宏『レモン月夜の宇宙船』[2008年12月]

 旧版の短編8編に加え、
 書籍初収録短編「火星を見た尼僧」、
 さらに初期の傑作エッセイ9編を収録。

 SF研究家、翻訳家、作家として活躍し愛された野田昌宏さんが2008年6月6日に亡くなって、はや半年が過ぎました。

 創元SF文庫では、その追悼として、1976年刊の第一短編集『レモン月夜の宇宙船』を大幅増補のうえ08年11月末に再刊いたしました。

 同題のハヤカワ文庫JA版に収められていた短編8編に、書籍初収録となる短編「火星を見た尼僧」(〈SFマガジン〉初出)と、さらに後半には、75年刊の初期エッセイ集『SFパノラマ館』(北冬書房)からエッセイ7編、書籍初収録の傑作エッセイ2編を加えています。

 表題短編「レモン月夜の宇宙船」(〈SFマガジン〉初出)は、野田さんの作家活動の第一歩となり、その後も代表作として語られることの多い名作です。その他の小説も、いずれも実在の出来事、友人や仕事仲間が次から次へと登場し、そうした日常の延長線上に突如として奇譚、幻想譚が立ち現れてくる、詩情とロマンに満ちた名品ぞろい。

 対するエッセイでは、生真面目なSF研究家としての野田さんがつづる日常に、じつは随所にフィクションがちりばめられていたりします。小説もエッセイも、べらんめえ口調で露悪的な、お馴染み“ノダコウ節”で語られますが、語られる世界はどちらも、フィクションと現実の境界がはっきりしない、独特の味わいなのです。

 エッセイについてもう少し触れます。野田さんの代名詞的な古書蒐集エッセイ「古本への異常な愛情」(〈SFマガジン〉初出)や、筒井康隆編『日本SFベスト集成』(トクマ・ノベルズ→徳間文庫)にも収録された同趣向の名作「コレクター無惨!」(第1次〈奇想天外〉初出)は今も読み応えの変わることない古書収集ものの傑作エッセイ。

 そして今回の増補版の白眉は、なんといっても初収録の2編。野田さんの生涯の名台詞となる“SFってなァ、結局のところ絵だねェ”の誕生したエッセイ「お墓に青い花を」(第1次〈奇想天外〉初出)と、そして生涯の愛称となった“宇宙軍大元帥”を初めて名乗った「キャプテンたずねて三光年」(〈SFマガジン〉初出)の2編でしょう。

 この「キャプテンたずねて三光年」に至っては、小説とも解説ともエッセイともつかない、まことに分類しがたい読み物になっています。さらに巻末には、親交の深かった作家・高千穂遙氏がハヤカワ文庫版解説として書いた「野田さん小百科」を再録。70年代の野田さんの横顔を生き生きと伝える名文です。

 そして今回の解説は評論家・高橋良平氏にお願いしました。かつてツルモトルーム版〈スターログ〉の編集者として83年に「特集・宇宙軍大元帥 野田昌宏氏のSF世界大解剖」を企画し、その後95年には日本SF大賞特別賞を受賞した野田さんの評論集『「科學小説」神髄』を編纂された方です。

 なお本書の編纂者は、野田さんのオリジナル・キャプテン・フューチャー長編『風前の灯! 冥王星ドーム都市』の解説を担当した日下三蔵氏です。
(2008年12月9日)


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