Special

2015.02.05

『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』発売記念イベント、山本弘先生×谷口忠大先生トークイベント(1/2)

 2015年1月17日(土)、『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』の発売記念イベントとして、著者の山本弘先生と、ビブリオバトルの発案者で同普及委員会の代表を務める谷口忠大先生のトークイベントが、紀伊國屋書店グランフロント大阪店で開催されました。
 谷口先生には本作品の企画段階からご協力をいただいています。今回、お二方には『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』ができるまでの裏話や、ビブリオバトルの魅力についてお話しいただきました。

ビブリオバトル普及委員会
ビブリオバトル公式ルール
【ウェブ連載中】山本弘『BISビブリオバトル部』



●『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』ができるまで

山本 長いこと、今の若い人にどうしたらSFの魅力を伝えられるだろうと考えていました。ぼく自身SF作家で、SFが好きなので、『ビブリア古書堂の事件手帖』(三上延)のような、本の魅力が伝わる小説をSFでも書けないかなと思ってたんです。
yamamoto.jpg  一昨年、広島で開かれた日本SF大会に参加したとき「子供たちにSF本を」という分科会でビブリオバトルのことを聞いて、「これはいける」と。大阪に帰ってきてさっそく小説の構成を考えて、同時に谷口先生に「こういうものを書かせてください」とメールを送りました。
谷口 ある日、ビブリオバトル普及委員会宛のメールで結構な分量の企画書が届きまして。でも一読して、「これはビブリオバトルを体験されたことがないな」と感じました。理事たちと「どう返事しようか」と相談していて、よくよく差出人の名前を見たら、なんと山本弘先生でした。
 中学生の頃に《ソード・ワールドRPG》などのテーブルトークRPGにはまっていたぼくにとって、山本先生は雲の上の人でした。とにかく一回お話しましょうということで、京都駅の喫茶でお会いすることになりました。
山本 谷口さんには、まず最初に「フィクションとして割り切って書かせてください」とお願いしました。サッカー漫画と本物のサッカーが違うように、この小説に出てくるビブリオバトルも、デフォルメされたものと思って欲しい。例えば、ルールでは五分間で発表すると決まっているけど、実際には五分で喋れない内容だったり(笑)。スポーツ漫画でも、ピッチャーがボールを投げるあいだに解説者が長々と喋ったりするし(笑)、時間感覚がアバウトなところがあるでしょ。そのへんは許してください、と。
谷口 デフォルメと言うから、最初は必殺技が繰り出されて、「こいつが○○を紹介したらみんな××になってしまう」なんて設定があるのかと(笑)。
山本 ルールと物理法則は守ります、と約束しました(笑)。
 谷口さんからそのとき、「ビブリオバトルの面白さは実際にやってみないと分かりませんよ」と言われました。「テーブルトークRPGも、はたで見ていてもどこが面白いのか分からないでしょう?」と。
 それまでYoutubeなどで動画は見ていて、こういうものだろうなというイメージはあったんですが、実際にやったことはなかったんです。それで、あちこちのビブリオバトルに出かけていって、仲間内でもやるようになりました。
谷口 テーブルトークRPGに「リプレイ本」ってありますよね。実際に行われたTRPGのプレイ内容を文字に起こしたもの。ビブリオバトルもある種それに似ているから、山本さん自身にもビブリオバトルの面白さを知っていただいた上で書いて欲しいと申し上げました。

●ビブリオバトルの面白さ

山本 実際にやってみると、思っていた以上に面白かった。特に仲間内でやると、互いの好みの読み合いになる。「こいつだったら絶対この本が好きに違いない」と考えて本を選ぶんです。この前開催された「全国高等学校ビブリオバトル」(活字文化推進会議主催)みたいに、大きな会場で勝ち抜き式にやるのも楽しいけれど、小人数のグループでやるのも和気藹々として楽しいですね。
谷口 5人くらいで集まってマニアックな話で盛り上がるのが本流なんですよ。ビブリオバトルって「集まったメンバーにとって面白い本」を選ぶ場所なので、大規模になっちゃうと「みんなにとって面白い本」、いわゆるベストセラーを紹介するのと変わらなくなってしまいがちです。小人数でやってそこにマニアックな参加者が一人いるだけで、書店の売り上げランキングや本屋大賞の候補に上がらないような本が出てきて盛り上がります。
山本 東京のほうでは「妖怪ビブリオバトル」なんてものまでありますね。
谷口 妖怪ビブリオバトルは、今や東京で最も人気のあるコミュニティのひとつです。怪談や妖怪ネタに限定して、30名ほどがカフェに集まってビブリオバトルをやるんですが、毎回、満員御礼らしいです。参加者の話を聞くと、妖怪のことを全然知らない身でも、あまりにもマニアックなのが分かって、それが面白いんですよ。「ああ、ほんとに好きなんだなあ」と思う。
山本 その人がその本をどれだけ好きかが伝わってくるのが一番ですね。
谷口 ぼくは割とAmazonのオススメ本機能で本を買ってしまうタイプなんですが、でも、ビブリオバトルを通じた本との出会いって、そうした情報システムによる推薦では体験できませんよね。
 ビブリオバトルでは「一番読みたくなった本」を選ぶ決まりがあって、すでに読んでいる本には投票できない。つまり、「メジャーすぎる本」は出せないんです。だから、みんな「ストライクゾーンぎりぎりを狙う」みたいなことをする。その、「ここまでセーフ」という感覚も人それぞれだから面白いですよね。コンピュータにそういうことをやらせるのは、けっこう難しい。
山本 ぼくね、「紹介する本が被ったらどうしよう」と心配したことがありました。
谷口 まだ読書の幅が狭い小学生ぐらいだと、その可能性はあるかも知れないですね。『チョコレート戦争』(大石真)や『かいけつゾロリ』(原ゆたか)などがよく選ばれていました。
 でも、実際にはほとんどありません。確かにビブリオバトルの講演をするときによく、「同じ本が出てきたときはどうしたらいいんですか」と質問されるんですが、「日本の出版点数を舐めるな」と言いたい(笑)。ちなみに、それでも心配なら二冊持って行けばいい。被ったら、そのときは、「じゃあ、俺はこの本で!」って別の本を出せばいいんですよ(笑)。

●どこまでがビブリオバトルなのか

taniguchi.jpg 谷口 ビブリオバトルって、生まれたばかりのゲームなので、「何がビブリオバトルなのか」がしばしば問題になるんです。ビブリオバトルではないものがビブリオバトルを名乗ると混乱が生じるし、それを体験した人に「面白くなかったよ」と思われてしまうと困るし。
 形のないものなので、「どこからどこまでがビブリオバトルか」というのをきちんとしようと、公式ルールを決めました。「これだけ守っていれば面白くなる」と自信を持ってお届けできるルールです。それを守ってもらっている限りはビブリオバトルと名乗っていいし、自由にやっていいですよ、ということですね。
 また、どこまでが本か、という問題もありますね。ギリギリなところでは、「卒論を紹介する」というのがあって。製本されて……いる。うん! みたいな(笑)。もっとすごいのでは、〈日本産業新聞〉を紹介する、というのがありました(笑)。
山本 印刷物やったら何でもいいんですか。ネット小説や電子出版された小説は?
谷口 それはもう、本の定義によりますよね。そこまでは普及委員会の手には負えないので、『広辞苑』に任せます(笑)。電子書籍はアリですよね。同人誌ももちろんアリです。「薄い本」って言うくらいですから(笑)。
山本 一度、番外編でいいから、主人公の片方、伏木空(ふしき・そら)が初めてコミケに行って、いろんな人と出会って、その人たちと同人誌しばりでビブリオバトルをする話も書きたいんですよ。
谷口 いいじゃないですか。ああ、でも「それじゃあビブリオバトルじゃない!」と言う人が出てくるかも。最近はぼくが言わんでも、いろんなところで「ビブリオバトル論」を唱える人が増えてるので。でも実際に、同人誌でビブリオバトルをやっているところはあります。さらにそのうちでBL(ボーイズラブ)本だけでビブリオバトルをするというのも。それはそれで楽しそうやなと思いますね。
山本 テーマ別のバトルがあれば、テーマの数だけストーリーが作れそう。いくらでも開拓されていきますね。バリエーションが増えていく。
谷口 ビブリオバトルがコミュニティ的なものと受け取られることがあるんですが、どちらかというとコンピュータのOSみたいなものなんです。そのプラットフォームの上で、コミュニティもデザインできる。
山本 ビブリオバトル小説だけで、あと何年か食えそうやなと思いました。だから、もっともっと普及してほしいですね(笑)。『翼を持つ少女』の中に出てくる本も読んで欲しいし、ぜひ実際にビブリオバトルをやって欲しい。
谷口 アニメ化して欲しいですね。ビブリオバトルってね、日常系のアニメにすごく合う気がするんですよ。『けいおん!』(かきふらい原作)みたいに、だらだらと本の紹介をしているような雰囲気で。
山本 『バーナード嬢曰く。』(施川ユウキ)という、本を題材にしている漫画もあります。本好きなのがすごく伝わってきます。あまり肩肘張らない、だらっとしたギャグ漫画っていいですよね。
谷口 ビブリオバトルの全国大会って、みんな熱いんですよ。熱くてカタい。でも、もともとビブリオバトルはもっとユルいものなんです。だらーっとして、「きょう紹介する本はー、これでーす」みたいな感じで。

●チャンプ本に選ばれるのはどんな本か

来場者 作中で空ちゃんも言ってますが、ビブリオバトルで票を集めようと考えると、文章の良さや心理描写がしっかりしているとかじゃなくて、あらすじの面白い本が有利になるところがありますよね。「とくに派手なところはないけれど面白い」という本は、なかなか票が入りにくい。
谷口 それは山本先生が書き継いでいく上での課題でもありますね。
山本 例えば『翼を持つ少女』の中でも取り上げたC・L・ムーアの小説ってね、文章はすごく良いんですよ。でもストーリーを要約すると「なんやそれは」となっちゃう。そういうのって勝負しにくいですよね。
谷口 あまり経験のない人はあらすじを紹介するだけになりがちですけど、結局、要は「推し方」なんですよ。最終的に勝ち負けを決めるのは聴衆なので。
 延々とあらすじを語られても、聞いている側が飽きてくる。サスペンス作品を持ってきて「これが、驚きの結末を迎えるんです!」なんて言われても、「そういうフレーズは聞き飽きた」となる。そういうフェーズを飛び越えて、場合によっては、文章の例を挙げて「この文体がこうこうで」と言われるほうが、ぐっと惹きつけられる、ということだってあり得るんです。
 最近はビブリオバトルも広まってきて、高校生大会や大学生大会がありますけど、まだ発展途上だと思っています。多くの学生は「5分間で本を紹介しましょう」というだけにとどまっている感じもあります。
山本 全国高等学校ビブリオバトルを観戦したんですが、紹介される本がみんな「お行儀がいい」感じなんですよね。あんまり変な本がない。
谷口 それには「観客の行儀のよさ」も影響してますね。高校が会場で、観客に教員関係の方が多いと、発表する側はそれを読み取るんです。いくら変わった生徒でも、先生方がびっしり座っていて、進学校の高校生諸君が300人も集まっていたりすれば、はっちゃけようにも限度がある。そうした「聞いている側の影響力」が強いので、観客がもっとマニアックな目で、「あらすじ紹介は興味ないわ」みたいになると話す側も変わってくるんじゃないかと思います。そういう意味では、もっとぐだぐだな人間が出てきてもいいと思うんですよ(笑)。
 あと、ビブリオバトルって「うまいこと発表できたからチャンプ本になる」わけでもないんですね。
 例えば、今この場で2人でビブリオバトルをやるとします。片方はすごく面白いSFを持ってきてます。もう片方は日頃悩んでるサラリーマンで、残業も月200時間を超えている。で、観客も8割がブラック企業にお勤めで(笑)、きょうはなんとか閉店間際やけど紀伊國屋書店に来られた、という状況だとすれば、「いかにして残業時間を減らすか」という内容の本を紹介したら、もうその時点で勝ちですよ(笑)。SFを出しても、「そんな本を読める時間があったらなあ」となるだけです。
山本 『翼を持つ少女』でも書きましたが、似た傾向の本がバッティングして票が割れることもあります。そういう意味で、運の要素もかなり大きいですよね。
 あとね、今回ビブリオバトルを小説で書くときに心掛けたのは、「つまらない本は絶対に出さない」ということです。「つまらない本をけなす」という展開はナシ、と決めていました。
谷口 ビブリオバトルのルール自体、ポジティブなものだけで作ってるんです。ポジティブなフィードバックだけで回るようにしている。「一番」読みたくなった本に票を入れる、というのが重要なんですよ。これが「読みたくなった本」だと、票が入らない本は「読みたくない本」だということになってしまう。「読みたくない本」が出来ないようにと配慮した結果です。
山本 どの本も面白そうで、ぜんぶ読みたくなることもあります。票を独占するような本って、なかなかないものですね。
谷口 それと、発表では大ウケしたのに、結果的に全然票が入らない、ということもあります。みんな、笑ったら満足してしまうんですかね(笑)。
山本 発表は立派やったけど票は取れない、ってよくありますよね。結局みんな、発表者より本のほうに関心が行くんやな、と。
谷口 さっきの「推し方」に関連するんですが、「チャンプ本になるには何が有効か」というのを、室蘭工業大学の先生が研究されていました。どういう形容詞をよく使うか、感嘆詞をどの程度使っているか、どういった要素が結果に影響するか、というのを分析してらしたんです。でも、そんなに明確な傾向は見られないようでした。でも唯一、明確に勝敗に効いているものがあって、それが何かというと、「やる気」だったとか。
 発表者が明らかに「勝ちたいねん」って感じだと、観客も「勝たせてあげようかなあ」という気持ちになるのかも知れない(笑)。「上から目線」でのプレゼンは絶対に駄目ですが、かといってお行儀よく喋るだけというのもよくないようです。
山本 ある大学の学園祭のビブリオバトルでね、先生が物理学者のエピソードを集めた本を出してきたんですけど、本の内容を全然喋らないんですよ。明らかに本に書いていないような、日本の原発問題についてとか、今の科学者が原発の問題とどう向き合ってるかみたいな話ばかり。いつ本の紹介が始まるのかと思ってたら、最後まで内容に触れられなかった。質疑応答で「その本の中で、いちばん心に残ってるエピソードは?」という質問が出たんですが、その先生は「この本の中には書いてませんけど……」って話しはじめた。書いてないんかい!(笑)
谷口 「いろんな人がいるんやなあ」というのも含めて楽しむんです(笑)。




ミステリ、SF、ファンタジー|東京創元社
バックナンバー