Science Fiction

2014.12.05

山本弘『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』著者あとがき(全文)

ビブリオバトルはやってみないと分からない

山本弘 hiroshi YAMAMOTO


翼を持つ少女 BISビブリオバトル部
書籍の詳細を見る
 この小説のアイデアが浮かんだのは、二〇一三年七月二〇日、広島のアステールプラザで開かれた第五二回日本SF大会「こいこん」の会場でした。SF文学振興会というグループが主催した「子供たちにSF本を」というパネルディスカッションを見たのがきっかけです。
 僕が子供の頃、学校の図書室にはたいてい子供向けのSFシリーズが置かれていました。ところが今はそういうものが少なくなってる。かつてはジュヴナイルSFがきっかけでSFに興味を持つ子供が多かったんだけど、その入口が失われたということは、次世代のSFファンが育たないことになる。これはSF界の危機ではないのか……という話でした。
 僕も若い世代にどのようにSFを浸透させるかについて、憂慮している一人です。『ハリー・ポッター』の影響で子供たちの間にファンタジーは流行ってるし、『学校の怪談』系のホラーも定着してる。もちろん『名探偵コナン』とかの影響でミステリも人気がある。だけど、SFだけがなぜか根づかない。
 SFが売れてないわけじゃないんですよ。アニメやマンガには昔からSFものが多いし、小説やドラマや映画でも、ロボットやタイムスリップやパラレルワールドなどの題材を扱うものが多くなっていて、ヒット作もたくさんある。ただ、それが「SF」というジャンルだと認識されていない。個々の作品には人気が出ても、読者の興味はSFというジャンルには向かない。だから新しいSFファンが育たない──それは当然、ジャンルそのものの衰退と、次世代の作家が育たないことをも意味します。
 その状況を打破しようと、僕も『C&Y 地球最強姉妹キャンディ』(角川書店)のような子供向けSFを書いてるんですけど、なかなか壁は厚い。読んでくれた人はたいてい「面白い」と言ってくださるんですが、問題は手に取らない人が多いこと。手に取ってさえくれればなあ……と、いつも歯がゆい思いをしています。
 SFを読んでいない人に、SFの魅力をどう伝えればいいのか。
 ヒントになるのは、三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』(メディアワークス文庫)や野村美月『文学少女』シリーズ(ファミ通文庫)。あれのSF版みたいなものを書けないかと前から思っていました。SFの好きな少女が、毎回、SFの魅力を熱く語る話はどうかと。
 ただ、どういう設定にするかが問題でした。古書店の話にしたら『ビブリア古書堂』の二番煎じになるし、ミステリ仕立てだと話のパターンが限られてしまい、すぐに苦しくなりそうな気がします。そこから先にアイデアが進まなかったんですね。
 ところが、パネルディスカッションの中で、SF文学振興会がやっているビブリオバトルについて触れられていて、「これだ!」と思いました。ビブリオバトルのことは前から知ってはいたんですが、それがこの瞬間、「SFの好きな少女が、毎回、SFの魅力を熱く語る話」というアイデアと結びついたんです。
 もちろん、熱く語る対象はSFだけに限定されません。僕の好きな科学本、ノンフィクション、マンガ、ライトノベルなどのことも語れるじゃないかと気がつきました。
 いくらでも応用可能なアイデアを思いつく──これは作家にとって、金の鉱脈を発見したようなものです。
 誰かに先を越されるわけにはいきません。家に帰るなり、ビブリオバトルのことを調べまくり、YouTubeでビブリオバトルの動画をたくさん見ました。同時に、猛烈な勢いでプロットを何本も書きました。
 もちろん、ただ本の紹介をするだけでは小説にはなりません。ちゃんとしたストーリー、それも作中のビブリオバトルで紹介する本の内容を登場人物たちの心理や境遇にからめたドラマが必要です。このへんの手法は『文学少女』シリーズが参考になりました。
 もうひとつ、プロットを書くうえで頭にあったのは、安井尚志原作・村上としや画のマンガ『ディオラマ大作戦』(講談社)。ガンプラ・ブームだった一九八〇年代、〈月刊少年マガジン〉に連載された作品です。毎回、主人公の中学生・百山みのるが、花の中からダンバインが出てきたり、ザクが谷川岳に登頂したり、ザクと大魔神が市街地で戦ってたりといった変な発想のディオラマを作るんですが、それを見た人たちが感動し、松葉杖の少年が急に歩けるようになったり、喧嘩していた人たちが仲直りしたり、不良少年が更生したりといった奇跡が次々に起きるんです。
 いやいや、ディオラマ見ただけでそんなこと起きないから、とツッコミたくなるんですが、こういう嘘もフィクションなら許されるはずです。極端な話、ビブリオバトルを見た松葉杖の少年が歩けるようになってもいいんじゃないかと(笑)。

 二〇一三年九月一六日、ビブリオバトルの考案者である谷口忠大先生(立命館大学情報理工学部准教授)にお会いしました。
 谷口先生は若い頃にテーブルトークRPG、特に『ソード・ワールドRPG』(富士見書房)をプレイされていたので、僕の名前もご存知でした。そもそも本の紹介をゲームにするという発想自体、テーブルトークRPGで遊んだ経験がヒントになっているとか。また、著書『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』(文春新書)を執筆する際には、僕の書いた『ソード・ワールドRPG』のリプレイ本を参考にされたそうです。まさかそんなところに影響を与えていたとは夢にも思いませんでした。
 谷口先生に企画の内容を説明し、小説化の許可をお願いしました。その際、強調したのが、「これはフィクションだと割り切らせてください」ということでした。野球マンガが本物の野球とは違うように、現実のビブリオバトルをそのまま描いても小説にならない。話を面白くするために、フィクション的な誇張を入れさせてほしいと。幸い、快諾していただけました。
 その一方、谷口先生には貴重なアドバイスをいただきました。
「テーブルトークRPGだって、横から見てても、何が面白いか分からないでしょう? ビブリオバトルも実際にやってみないと分からないと思うんですよ」
 その通りだと思いました。この時点で、僕はビブリオバトルの実体験がなかったもので、毎月開かれている仲間内のゲーム会でビブリオバトルをはじめました(今でも続いています)。
 なるほど、すごく面白い!
 どんな本を選ぶか、どういうコンセプトで紹介するかも頭を使うんですが、他の発表者がどんな本を紹介するのかも楽しみなんです。これは病みつきになりますね。
 また、関西地方の学園祭や書店や図書館で行なわれているビブリオバトルも、時間の許す限り参加しました。自分でも何度も発表しましたし、いろんな人の発表も聴きました。そこで実際に見聞したエピソードのいくつかは、(そのままの形ではありませんが)作中のエピソードのヒントになっています。
 他にも谷口先生からは、ビブリオバトルの現状や裏話をいろいろうかがいました。また先生は、ビブリオバトルの抱える欠点や問題点も、自ら指摘されていました。それらは作中にもいろいろ取り入れさせていただいています。
 作中でも書きましたが、自由度がきわめて高いゲームである反面、悪意に対する明確なストッパーがないというのが最大の問題ではないかという気がします。かといってルールで縛ろうとすると自由度が失われそうな気がしますし……難しい問題ですね。

 他にも、谷口先生とビブリオバトル普及委員会のみなさまには、連載中、ビブリオバトルに関する記述に間違いがないかチェックしていただくと同時に、貴重な助言もいくつかいただきました。この場を借りて深く感謝いたします。
 今回は空と武人のドラマが中心だったので、他のキャラクターのことがあまり描けませんでした。目立たなかった明日香先輩や銀くんにも、今後はスポットを当てていきたいと思っています。
 では、また次巻でお会いしましょう。

山本 弘


(2014年12月5日)


山本弘(やまもと・ひろし)
1956年京都府生まれ。78年「スタンピード!」で第1回奇想天外SF新人賞佳作に入選。87年、ゲーム創作集団「グループSNE」に参加。作家、ゲームデザイナーとしてデビュー。2003年発表の『神は沈黙せず』が第25回日本SF大賞の、また07年発表の『MM9』が第29回SF大賞の候補作となり、06年の『アイの物語』は第28回吉川英治文学新人賞ほか複数の賞の候補に挙がるなど、日本SFの気鋭として注目を集める。11年、『去年はいい年になるだろう』で第42回星雲賞を受賞。 http://homepage3.nifty.com/hirorin/



ミステリ、SF、ファンタジー、ホラーの月刊Webマガジン|Webミステリーズ!
バックナンバー