日本SF史にその名を刻む壮大な宇宙叙事詩
(07年2月刊『銀河英雄伝説1 黎明篇』)

田中芳樹 yoshiki TANAKA

 

 中学生のころ、さまざまな本を読んだが、じつは最大の「愛読書」は『創元推理文庫解説目録』だった。『10月はたそがれの国』などというタイトルに心をさわがせ、四行に圧縮された内容紹介に胸をおどらせた。あれは無限の訴求力を持つ名文だったと思うが、誰が書いていたのだろう。


 自分の書いた作品が、その目録に加わるというのは、私にとっては夢が実現したことにはならない。夢にすら想わなかったことなのだ。ひたすら信じられない気分を味わったのは、『マヴァール年代記』が最初であったが、その一度にとどまらなかったということで、信じられない気分はさらに深まっている。夢まで含めて、この世のものとも思えないのである。

 だいそれたことになってしまったとは思うが、二十年前に完結した『銀河英雄伝説』という作品は終(つい)の棲処(すみか)を得た。ありがたいかぎりだ。望外にも星野之宣さんの壮麗な装画までいただけたことだし、あらたな生命を得て、末長く目録の末席につらなることがかなえば幸いに思う。

 

 関係者各位に心より御礼を申しあげます。

(2007年2月)

田中芳樹(たなか・よしき)
1952年熊本県生まれ。学習院大学大学院修了。1978年「緑の草原に…」で幻影城新人賞を受賞。1988年『銀河英雄伝説』で第19回星雲賞を受賞。《創竜伝》《アルスラーン戦記》《薬師寺涼子の怪奇事件簿》シリーズの他、『マヴァール年代記』『ラインの虜囚』など著作多数。