Science Fiction

2015.10.05

第6回創元SF短編賞・贈呈式+トークイベント(8月25日)レポート[2015年10月]





 去る2015年8月25日(火)、ベルサール飯田橋駅前において第6回創元SF短編賞贈呈式およびトークイベントが行なわれました。

「神々の歩法」『折り紙衛星の伝説 年刊日本SF傑作選』に収録)で受賞された宮澤伊織(みやざわ・いおり)氏に、小社社長・長谷川晋一より賞状と記念品の懐中時計が贈呈されました。
 なお受賞作は単体の電子書籍として販売中です。

・「神々の歩法」Kindle版販売ページ



贈呈式のあと、レギュラー選考委員の大森望氏・日下三蔵氏、ゲスト選考委員の恩田陸氏、受賞者の宮澤伊織氏と司会役の編集部・小浜徹也が登壇し、トークイベントの始まりです。
まず最初に、受賞者に副賞として贈られる懐中時計がお披露目されました。

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小浜 今年の選考を振り返って、皆様ひとことずつお願いします。今年は創元SF短編賞史上最短の選考時間で受賞作が決まりました。
日下 こんなに揉めなかった選考会は本当に珍しかった。だいたいいつも大森さんと僕の意見が合わなくて、一時間も二時間も紛糾するので(笑)。
応募作全体についていうと、初めの頃に比べて、箸にも棒にもかからないものは少なくなってきました。でも、アイデアでも描写でもなんでもいいから、「これは突き抜けているな」というのがないと、正賞には推せないですね。上限の100枚ギリギリで書いてくるひとが多いんですが、中には無理矢理引き延ばしたような作品もある。その作品にとって適切な枚数を考えてほしいと思います。今回の受賞作「神々の歩法」はその点、いちばん適切でした。
小浜 大森さんはいかがでしたか。
大森 全体的なレベルは上がっていると思います。傾向と対策をしっかりしているな、というものが増えてきました。以前は何が出てくるかわからないびっくり箱的なものが多くて、それはそれで楽しかったんだけど、近年は割と優等生的な作品が多くなってきた感じがしますね。形にはなっているし、SFではあるんだけれども、面白くないものが多い。
小浜 最終候補作でも、かつてに比べると「ここさえ修正すれば作品として完成する」というクラスのものは減っている感じです。
恩田さんは、文学賞の審査員をかなりやってらっしゃいますよね。
恩田 でも、SFの新人賞、しかも短編賞は初めてだったので、ものすごく期待していました。どんなひとがどんなものを書いて応募してくるんだろうってすごく興味があったんです。でも、読んでみたら「SFの賞だから応募してきてるわけじゃないんだな」っていう作品が多くて。期待値がすごく高かっただけ残念でしたね。
大森 でも今年は、最終候補作にはSF的な面白さのある作品が多かったと思いますけど。もっとへんなものばかりが残った年もあったし。
日下 今年は「バッコちゃん」が異色でしたね。
恩田 でも「バッコちゃん」のひとも、SF書いているって自覚はないんじゃないかな。
大森 恩田さんは、グレッグ・イーガンみたいなのがガンガン来ると思っていた?
恩田 そんなことはないですけど(笑)。事前に大森さん・日下さんの年刊傑作選を読んで「すごくバラエティに富んでいる! いいじゃないか!」と感動して、それを念頭に置いて応募作を読んだら、うん、そうでもない、と思いました。
小浜 他の新人賞と比べるといかがですか。
恩田 私は新人賞だと乱歩賞しか関わっていないんですが、あれは長編の賞なので、短編とはまた違うんですよ。短編は本当に難しいと思います。長編だとある程度、長さで読者を慣れさせることができるけど、短編は世界観を切り取らなきゃいけないから。

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大森 今回、僕は初めから大賞は「神々の歩法」だなと思っていました。おもいきり変化球で「バッコちゃん」という手はあったかもしれないけど、どうせ日下さんが反対するだろうなと(笑)。恩田さんがすごく推したら「バッコちゃん」でもいいかな、とは考えたけど。
小浜 来場者のみなさんにお配りした最終候補作のあらすじ一覧は、それだけ読むとどれも個性的に思えるんだけど、実際にはそこまでじゃないんだよね。そんなこんなで、正賞はやっぱり「神々の歩法」しかないという結論に至るわけですが、実はここで一瞬ためらいがあったんです。
大森 僕はこれが正賞でいいと思ってたよ。
日下 僕も。
小浜 なんだ。僕だけ? 恩田さんはどうでしたか?
恩田 選評にも書いたんですけど、私は、もっとぶっとんだのに出てきてほしかったという気持ちがあって。不満がないところが不満でした。
大森 まあ「神々の歩法」はびっくりはしないですからね。格好いいんだけど。

小浜 よく覚えているのが、選考会のあと宮澤さんにお電話をかけて受賞をお知らせしたら、「ところで何賞ですか」っておっしゃたんです。「いや、グランプリですよ」と(笑)。
宮澤 何か賞をいただけたらいいな、とは思っていました。ライトノベルを出しているので、何にも引っかからなかったら悲しいなと。でも可能性がいちばん高いのは〈大森望賞〉かな、と思っていたんです。

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小浜 例年どおり、単品で電子書籍にして出したらとても売れ行きがよくて。ありがたいことです。ひとつは加藤直之さんにイラストを描いていただいたのが良かったですね。あとはやっぱり今までに『ウは宇宙ヤバイのウ!』などが話題になってたこともあったでしょう。とくに評判になったのが、美少女アニメが兵士たちにとって一種のセラピーになっているという設定なんですが、実は、あれは改稿段階で付け加わったものなんですよ。
宮澤 ふと思いついちゃったんです(笑)。
大森 さっきの受賞スピーチで宮澤さんが「アクション、エンターテイメント、ネタ」って言ってましたけど、やっぱり「ネタ」は大事(笑)。
ライトノベルの読者はレーベルやシリーズにつくから、その作者が電子書籍で1本出したとしても、追いかけて買うひとは少ないんです。だから、ライトノベルのほうはあんまり売れていないかもしれないけど(笑)、熱心なファンについてもらえていることは幸運だと思います。いかに売れていなかったかという話は、東京創元社のウェブマガジン〈WEBミステリーズ!〉掲載の受賞エッセイを読んでいただければ。
宮澤 そ、そんなに恨みがましいことを書いたつもりはないんですが。
大森 あれだけ赤裸々に書いて、嫌味にならず面白いっていうのは才能だと思うよ。

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小浜 ライトノベルを書くのと、今回のように一般向け小説を書くのとではどういった違いがありますか?
宮澤 いちばん違うのは、対象とする年齢層だと思います。中高生男子をメイン読者層と考えるライトノベルでは「今まで小説を読んだことがない子たちにも楽しんでもらえるように書いてください」と言われるんです。
大森 この前、〈yomyom〉の新潮文庫nex創刊一周年企画で、女優の美山加恋さんと足立梨花さんとの座談会に呼ばれて、そこで美山さんが話してたんですが、台本を読む力をつけるにはどうしたらいいかスタッフに相談したら、小説を読めと言われたと。それで書店に行ったけど、今まで全然本を読んでないから選べない。表紙だけ見て、読みやすそうだと最終的に手にとったのが、新潮文庫nexの七尾与史『バリ3探偵圏外ちゃん』だったそうで。以来ずっと、新潮文庫nexばかり読んでいるらしい(笑)。ライトノベルやライト文芸はそういう読者も多いんですね。創元SF文庫とは全然違う(笑)。
宮澤 ライトノベルを書くときは、中学生の頃の自分が面白く読めることを目標にしています。一転して「神々の歩法」では、自分が好きなものを好きなように書きました。
大森 そうだ、宮澤さんのSF歴をお聞きしなければ。毎年、受賞者の方には今までどのようなSFをお読みになってきたかを根掘り葉掘りうかがうのがお約束になっているので。
日下 身辺調査みたいで感じが悪い(笑)。
宮澤 SFというジャンルを認識するきっかけになったのは、宝島社から出ていた『世紀末キッズのためのSFワンダーランド』という本でした。最初に読んだSFは、実家の本棚にあったフレドリック・ブラウンだと思います。
あと、同じく父親の本棚にあった〈アダルト・ウルフガイ〉シリーズを読んでいました。
小浜 〈ヤング〉じゃなくて〈アダルト〉のほうだというのが渋いよね。何歳頃のことですか? 中学生くらい?
宮澤 小学校の6年生くらいだったと思います。その頃から菊地秀行先生の作品を読み始めました。中学校1、2年の時に〈魔界都市ブルース〉から入って。この時期からアクション小説が好きになったんです。文章の書き方は、清水義範先生の本から教わりました。これも家にあったものです。読んでいるうちに「こういうふうに文章で遊んでもいいんだな」という感覚を身につけた気がします。
日下 フレドリック・ブラウン、平井和正、清水義範……SF純粋培養みたいな感じですね。
小浜 菊地秀行さんと聞いてすごく腑に落ちたんだけど、「神々の歩法」のアクションシーンは、映画の影響が大きいんでしょうか。
宮澤 映画は好きですね。頭の中に浮かんだ映像を文字に書き起こすような感じで小説を書いています。
大森 目に浮かんだ光景をシーンにしていくタイプのひとっていますよね。恩田さんはどうですか?
恩田 半々くらいかな。向こうのほうにぼんやり景色が見えている、みたいな感じで。あんまりはっきり見えることはないです。「神々の歩法」は映像的な感じがしますね。
宮澤 そのせいか、作品を指してアニメ的だと言われることがあるんですが、自分では意外な気がします。アニメは大人になるまでほとんど観なかったんですよ。
小浜 じゃあ、特撮のほうですか?
宮澤 怪獣は大好きでした。実家は秋田なんですが、アニメも特撮もあまり放送されていなくて、同世代のひとたちが観ていた番組をよく知らないんです。でも怪獣図鑑が大好きで(笑)、書店で自分で買って、ずっと眺めてました。『レオ』までの怪獣はかなり覚えてます(笑)。
小浜 大倉崇裕さんがまったく同じことをおっしゃってましたね。TVではなく怪獣図鑑から入った、って。話が合うんじゃないですか。
宮澤 そうかもしれませんね。あとからBSで放送が始まって、観るようになったんですけど。
小浜 「神々の歩法」ですが、これを連作にするのは難しいだろうなと思って、長編の相談をしていたんです。でも、Kindleでサブカテゴリとはいえ1位を何日間もとったので、これはもったいないなと(笑)。
宮澤 いま、続きの話を考えているところです。
小浜 また違う生命体が出てきたり?
宮澤 そうするとますます『ウルトラマン』みたいですよね(笑)。

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このあと休憩を挟んで、第1回創元ファンタジイ新人賞のトークイベントが行われました。その模様はこちらでご覧いただけます。

閉会後は、恒例の懇親会をBarでこや(SF作家・中井紀夫氏経営)で行ないました。

ゲスト選考委員に山本弘氏を迎える第7回創元SF短編賞は、ただいま応募受付中です。みなさまのご応募をお待ちしております。

(2015年10月5日)





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