Science Fiction

2013.10.15

『極光星群』刊行記念 第4回創元SF短編賞・贈呈式+トークイベント(8月9日)レポート[2013年10月]




 去る2013年8月9日、ベルサール飯田橋駅前において第4回創元SF短編賞贈呈式および年刊日本SF傑作選『極光星群』刊行記念トークイベントが行なわれました。お盆直前の平日ではありますが、用意した約70席が満席となるほど多数の観客の皆様にお越しいただきました(なお受付では、8月29日発売の酉島伝法『皆勤の徒』特製フライヤーも配布しました)。


受賞挨拶
 さて定刻になり、贈呈式の始まりです。第4回創元SF短編賞を「銀河風帆走」で受賞された宮西建礼氏に、小社社長・長谷川晋一より賞状と記念品の懐中時計が贈呈されました。宮西氏の、「作品を評価していただき誠にありがとうございます。次回作をなるべく早く世間に出せるように頑張ります」という初々しい受賞挨拶の後、トークイベントへ。

 まずは選考委員である大森望・日下三蔵の両氏、今回のゲスト選考委員である円城塔氏、および編集部の小浜徹也の4人が登壇。そして、大森氏と日下氏が編者を務める《年刊日本SF傑作選》の裏話からスタートしました。
小浜「今年はこの《年刊傑作選》以外にも、角川書店の日本SF作家クラブ50周年記念企画をはじめ、アンソロジーがたくさん出ていますね」
日下「昨年は小説誌で複数のSF特集が組まれました。(SF作家クラブ前会長である)瀬名秀明さんの尽力の成果でもあるのですが、驚くべきことにその流れがその後も続いているんですよ。SF特集を謳わなくても雑誌がSF作品を載せることも多い。そのおかげで良質な短編SFがたくさん発表されていて、収録候補を絞るのが本当に大変だった」
大森「この《年刊傑作選》を始めた2007年にはSFのアンソロジーもほとんどなくて、『収録作の分母が足りないんじゃないの?』なんて言われたこともあったのに、ここ5年くらいで、短編SFの発表数は劇的に増えたよね」
日下「逆に言えば選ぶのが楽になりました。よい作品が見つからなくて困る、ということはない」
大森「以前は、明確にSFではないSF寄りの文芸作品も積極的に選んでいました。でも最近はむしろ、ジャンルSF色が強い、ど真ん中の本格SFによいものがたくさんあるので、そこからだけでも選べるくらいになった」

 ついで話は、創元SF短編賞選考の件に。
小浜「まずは今回、初めて文学賞の選考委員を務められた円城さん、感想はいかがでしたか」
円城「最終候補作を読んで、みなさんおとなしいといいますか、真面目に書かれているように感じました。もっとふざけたほうがいいのではないでしょうか。おかしな人がナチュラルに書いた、ヘンなものが来るかと思っていたのですが。みなさん実際にはヘンかもしれないけれども、応募作はわりと正気を保ったものを送ってらっしゃいますよね」
小浜「でも、不真面目でも作品としてしっかりしている、というのはものすごい力量が必要ですよね」
円城「まあ、そこでこじんまりしているな、というのが第一印象でしたね。「皆勤の徒」のようなものが来るかと思っていたんですが……」
大森「「皆勤の徒」みたいなのが毎年来る、というのは、なかなかないですね。あれを読んだ人たちが一斉に「そうか、こういうのを書けばいいんだ!」と送ってくる……という事態はなかった、残念ながら(笑)。まあ、ああいう作品は書こうと思っても書けないですよ」
日下「今年の最終候補は、飛びぬけていいところや悪いところがあるという作品はなくて、いいところもあれば悪いところも少し、という平均的な作品が多かった。そのために公開選考会での議論が紛糾しなかったのは、観客からすれば面白くなかったかも(笑)」
円城「強力に推したい、好みが強く出た作品というものがなかったですね。あるいは、これを推してもほかの選考委員を説得できないだろう、という感じで決め手を欠いていた」
日下「個人賞があるせいか論争になりにくい、というのもあります。もめそうになってもつい、個人賞にする手がある、と思って引いてしまう。選考委員同士でもっと議論を戦わせたいですね」
小浜「考えるべき点ではありますね。今回の最終候補は、純粋にSFだけを読んで育ったのではない人が何人も残っていて面白いですね。文芸を書いていた方だったり。最終候補の櫻田智也さんは、つい先日ミステリーズ!新人賞を受賞されました」
日下「一般の文学賞を取りそうな作品もありましたし」
円城「創元SF短編賞って、狙いづらい賞ですね。選評で、どう対応していいのかわからないようなことを言われる。でも、この賞は傾向と対策を考えたほうがいいと思いますよ。1次からおなじ選考委員が選考しているわけだから、二人を唸らせるところまでは考えるべき」

宮西氏登壇
 ここで、受賞者である宮西建礼氏が登壇。
最初のSF体験は、と聞かれて24歳の宮西氏が挙げたのは、1994年放送のテレビドラマ「木星脱出作戦」。
宮西「オンボロ宇宙船で木星から地球に向かう話なんですが、その宇宙船の形状が好きでした。5歳か6歳ごろのことです。
その後、まず星新一にはまって、小学生から中学生のときに全集を読みました。一番好きなのは「処刑」です。それから中学生のころ、何かの拍子で『2001年宇宙の旅』に出会って、クラークを読むようになりました。映画も同じ頃に観たんですが、最後の10分で寝てしまいました(笑)。それから家の本棚にあったブラッドベリを読んで。その後はクラークを読んで、飽きてきたらブラッドベリとアシモフを読む、という感じでした」
大森「平成の子供とは思えないね(笑)」
宮西「日本作家には流れずにクラーク、アシモフ、ハインライン……大御所から離れられなくて、それぞれ100回くらい読み返しました。受賞作と関連する作品はいろいろありますが、最近読んだうちでは、やはりクラークの『太陽からの風』がいいですね」
大森「最近! ライトノベルとかもうちょっと読んだほうがいいんじゃ……」
宮西「友達にはライトノベル好きな人もいるんですけどねえ」
小浜「他に好きな作品は?」
宮西「あまり数は読んでないんですけど、ブラッドベリなら「霜と炎」、ハインラインなら『宇宙の戦士』ですね。8、9歳くらいの頃ですが、映画の『スターシップ・トゥルーパーズ』も大好きでした」
小浜「書くものに普遍的なSFのセンスがあるのは、そういう読書経歴のおかげかな」
宮西「『太陽からの風』のほかには『遙かなる地球の歌』も好きですし……太陽が爆発しますよね。爆発してそこから逃げる、っていうのが好きなんですよ(笑)」
大森「出てきたタイトルの中で、一番新しいのが『遙かなる地球の歌』とは(笑)」
宮西「太陽のようなG型恒星って実は、爆発させるの大変なんですよね。昔の小説は簡単に爆発させているんですが、科学が進んでそう簡単にはいかないことがわかってしまって……「銀河風帆走」では太陽面の爆発、ということにしました」
大森「そういうところが宮西さんの新しさだよね。宇宙物理学面がアップグレードされている。そこでみんな苦労しているわけですが……ところで、今のSFは読んでいないの?」
宮西「大学に入ってSFを書きはじめてから、勉強のために色々読みはじめました。野尻抱介さんの『太陽の簒奪者』、小林泰三さんとか……ただここ数年は読むよりは書くほうに割く時間が多くて」
大森「作品を書くために資料を読んだり、取材したりするの?」
宮西「大学図書館とネットにはお世話になりっぱなしですね。専攻は生物資源、畜産なので、ぜんぜん関係ない方向ですから」
大森「こういう、スケールの大きな、真っ向からの宇宙SFを書いてデビューする人って、藤崎慎吾以来かな。しかも、かならずしも現実の宇宙開発の延長線上にあるわけじゃなくて――」
宮西「僕はわりと頭が固いので、まず自分で自分をだませないと駄目なんですよ。こんなことはありえないだろう、と思ってしまうと書けない。それで、どこかに飛躍が入るんだと思います」
小浜「書いたものを発表したり、誰かに読んでもらったりしたことは?」
宮西「ないですね。恥ずかしいじゃないですか」(場内爆笑)
日下「応募するのはいいんだ(笑)」
宮西「こんなことになるとは思ってなかったんですよ(笑)。この作品については創元SF短編賞への応募を半年くらい前から意識して、いろいろ準備して書きました」
大森「傾向と対策は考えた?」
宮西「どうでしょう。僕は自分の書きたいものがしっかり発揮されるかどうかにこだわっていて、傾向と対策というのはあまり意識しませんでした。応募先として、ジャンルにも長さにも、この賞しかなかったんです(笑)」

トーク中
 ここで、宮西氏は降壇。代わって大森望賞の鹿島建曜氏、日下三蔵賞の高槻真樹氏、円城塔賞の与田Kee氏が登壇しました。

小浜「高槻真樹さんは日本SF評論賞の出身者(第5回選考委員特別賞受賞)です。偶然ではありますが、(第2回以降の創元SF短編賞では)毎年、同賞出身者の誰かしらが最終候補で評価されてますね。
日下賞となった「狂恋の女師匠」は、実在する同名映画(溝口健二監督作品)の失われたフィルムをめぐる、ミステリ仕立てのSFです」
高槻「今回も誰か評論賞出身者が応募するかな、とは思っていましたが(笑)、自分で思いついてしまったので書きました。小説を書いたのは久しぶりで、途中まではノンフィクションになるかも、と思っていたのですが、書き直しを繰り返すうちにうまく小説として落ち着いたので、応募してみました」
小浜「宮内悠介さんが、実在の人物からフィクションになだれこんでいく、という手法をとっていますが、この作品もそういう手法ですね。意図的なものですか?」
高槻「広島で開かれた日本SF大会に際して、宮内さんの「人間の王」の評論を書いたんです。最初に読んだときはすべて創作だろうと思ったんですが、事実に基づいていると知って驚きました。虚構のように見える本当のことを書くのはおもしろいですね」

小浜「さて、大森賞の鹿島建曜さん。「The Unknown Hero: Secret Origin」は『ドン・キホーテ』を下敷きにした話でもありますが、アメリカン・コミックスを朝晩読み続けた男が、その内容をすべて真実だと思いこむようになり、自分自身のことを宇宙規模の陰謀に巻き込まれたヒーローだと信じこんでしまう。そこに正気の知り合いがやってきて説得しようとするのですが、話せば話すほど男の理屈が暴走していってしまう。合間に山のようなアメコミの蘊蓄が入ってくる会話劇です」
大森「SFかどうかといわれると、ちょっと外れてくる話」
鹿島「自分でも正直なところ、正賞はないだろうと思っていました。でも、自分の書きたいものをストレートに書いていくと、ジャンルとしてはどこにも区分けできないものになる。自分としてはSFと主流文学のはざまにあるものという意識でいます。やりたいことはスティーヴ・エリクソンに近いんじゃないかと思います。彼の『黒い時計の旅』は、日本ではあまりこういうかたちでの紹介はされていないんですが、実際には、1930年代にアメリカの地方部から都市部に移り住んだ男が、ニューススタンドで初期のコミックブックの近くに並んでいたようなパルプ雑誌を読みすぎておかしくなってしまった話だと思うんです。そこに親近感を持ちます」
小浜「鹿島さんは文芸系の賞にずっと応募されていたんですよね。なぜSFに?」
鹿島「たぶん、自分の書くものはSFでも場違いかと思ったんですが、これまで創元SF短編賞の選考委員特別賞がかなり幅広い作品を受け入れているのを見て、これは正賞はなくても個人賞ならいけるだろう、と。
もっとSFらしいSFもいろいろ書きたいんですが、まずはいちばんやりたいことから、というつもりで応募しました」

小浜「それでは、円城賞の与田Keeさん。「不眠症奇譚」は、人間の睡眠と夢を奪うハエのような、ハチのような奇妙な昆虫が出てくる、南米を舞台にした幻想的な短編です」
大森「これは、今年のこの夏のような異常な蒸し暑さにぴったりの雰囲気」
円城「ハチなのかハエなのかも曖昧だったりして、ちょっと日本人が書いたとは思えないような味がありますね。海外幻想文学の翻訳を読んでいるような気持ちになる。この人の短編集を読んでみたいなと思いました」
小浜「与田さんはもともと写真をやってらした?」
与田「表現活動として写真をやっていたのですが、数年前から行き詰まりを感じていまして。写真は一枚で表現するんですが、写真の裏にある言葉を引っ張り出したくて、昨年から小説を書きはじめました。
これまでに読んできた小説は主に、ガルシア=マルケスやコルタサルなどの海外幻想文学系ですね。あとは映像ではSF的なもの、アンソニー・バージェスなども好きです。応募しようと思ったのは、短編集『きょうも上天気』(角川文庫)を読んで、SFが楽しそうだから、と思いまして」
大森「『きょうも上天気』の収録作との間には、作風にだいぶへだたりがありますが(笑)、ラテンアメリカ文学好き、という点には納得です。幻想文学の方向からSFに接点ができた、という感じですね」

会場の様子
小浜「出自がいろいろな方が出てくるというのはおもしろいですね。こつこつSFだけをたくさん読んできて自分でも書こう、というような人がいない」
大森「いや、いるんだけど途中で落ちてるんですよ(笑)」
小浜「まあ、理山貞二さんや松崎有理さんはかなり読んでますし、酉島伝法さんも間口が異様に広い人でたくさん読んでますが。
とはいえ、あまりSFを読んでいない人が新しいものをもたらしてくれるというのは、それはそれで健全な時代なのかもしれませんね。宮西くんの作品にしても、スタンダードとは違うものがある。そういうものがないと、似たような作品を再生産していてもジャンルはおもしろくならない」
大森「そうですね。書くほうは好きなものを書いてもらって、読むほうも好きなことを言って(笑)、それでおもしろければいいんじゃないでしょうか」
日下「SFでは、過去の名作を読んでいないとおもしろいものが書けない、ということはないんですよ。SFを全然読んでいなくてもパッとおもしろいものを書ける可能性がある。ミステリは過去の名作を読んでいないと絶対におもしろいものは書けない。それがジャンルの違いですね」

 それから会場にいらしていた前回受賞者のご紹介を経て、トークショーも終わりに近づきます。
小浜「そろそろ時間ですが、みなさん、なにか言い残したことがあれば」
鹿島「ちょっと危惧していることがあって……この会の流れだと、みなさん「この賞を取るにはSFを読んでないほうがいい」っていうまとめになりそうな気が(場内爆笑)そんなことはないので!」

 といったあたりで今年のトークショーもお開きに。
 閉会後は、恒例の懇親会をBarでこや(SF作家・中井紀夫氏経営)で行ないました。

 ゲスト選考委員に瀬名秀明氏を迎える第5回創元SF短編賞は、ただいま応募受付中。みなさまのご応募をお待ちしております。



 以下は余談となりますが、編集部はときどき、「創元SF短編賞応募者の年齢傾向」について尋ねられることがあります。少しデータを紹介してみましょう。
 第4回の総応募者494人を5歳刻みの年齢層別に分けた場合、「25~29歳」の層が最も多く、明確なピークとなっています。「20~24歳」の層がそれに続いて二番手につけています。30歳以上の応募者は、年齢が高くなるにつれて徐々に減っていき、50歳を超えたところで激減します。10代の応募者はごく少数です。
 一方、一次選考通過作53編について年齢層別に見ますと、「25~29歳」と「35~39歳」による作品が通過作のほぼ半数を占めています。この2つの年齢層は、応募数自体も多いのですが、通過率(応募数に対する通過数の割合)の高さでも目立っています。一方で「20~24歳」は応募数は多いわりに、通過率は低くなっています。
 また、第1回からの応募者の年齢移動を見ますと、回を重ねるごとに20代の新規応募者が増えている一方で40代以上の応募者が減ってきており、全体としては毎年若くなっていく傾向にあります。
 もちろん、選考は作品本位で行なわれますし、年齢で通過や落選が決まるようなことはありません。皆様におかれましては、自信作をどしどしご応募いただければと思います。以上、おまけ情報でした。

(2013年10月15日)





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