Science Fiction

2012.09.05

海外SF通信・〈Webミステリーズ!〉出張版[2012年9月]

2012年ヒューゴー賞が決定
9月3日(現地時間)、シカゴで開かれていた世界SF大会(ワールドコン)"Chicon 7"において、今年のヒューゴー賞の発表&授賞式が行なわれました。ヒューゴー賞は、前年にアメリカ国内で発表された英語のSF・ファンタジイ作品を対象としてワールドコン参加登録者による投票で選ばれる賞であり、世界的にもっとも知名度が高い賞のひとつです。
小説関連の主な受賞作は下記のとおり。

・長編小説部門:ジョー・ウォルトン Among Others
・中長編小説(ノヴェラ)部門:キジ・ジョンスン "The Man Who Bridged the Mist"
・中編小説(ノヴェレット)部門:チャーリイ・ジェイン・アンダーズ "Six Months, Three Days"
・短編小説部門:ケン・リュウ "The Paper Menagerie"
・キャンベル新人賞:E・リリー・ユー(E. Lily Yu)

ジョー・ウォルトン Among Others は、1970年代のイギリス・ウェールズを舞台に、少女モルウェナ(モル)の生活が日記形式で語られるファンタジイ。魔法を使う母親から逃れて寄宿学校にやってきたモルの成長が語られます。孤独なモルが学校の図書館で出会う数々の名作小説のタイトルに、思わず共感する読者も多いかもしれません。本書はすでにネビュラ賞を獲得しているので、これで「ダブルクラウン」となりました。また、世界幻想文学大賞にもノミネートされています(11月発表)。ジョー・ウォルトンの作品としては、小社からは《ファージング》三部作が好評既刊です。

キジ・ジョンスン "The Man Who Bridged the Mist" は、「霧」と呼ばれる正体不明の危険な物質でできた大河によって国土を二分されているとある架空の帝国が舞台。物語は、この河に長大な石橋を架けるべく中央政府から派遣されてきた建築技師の苦闘を中心として、河の渡し守を代々務めてきた姉弟と彼の交流を絡めて描かれます。「霧」に棲む謎の生物などが醸し出す幻想風味もふくめて、読みごたえのある作品です。

チャーリイ・ジェイン・アンダーズ "Six Months, Three Days" は、無数に分岐する未来を予見できる女性と唯一の確定した未来を予見できる男性の恋物語。ケン・リュウ "The Paper Menagerie"は、中国生まれの母親とその息子の、魔法の折り紙を介した不器用な交流が胸をうつ話です。

なお、ケン・リュウとE・リリー・ユーはどちらも中華系アメリカ人作家(E・リリー・ユーは短編 "The Cartographer Wasps and the Anarchist Bees"で、ヒューゴー賞短編部門候補にもなっていました。こちらも中国を舞台にしたファンタジイ)。ふたりとも、まだ単著は出ていないにもかかかわらず、紙媒体やオンライン雑誌に発表した短編が評価されて注目を集めている若手作家です。

*  *  *

ところで、ヒューゴー賞セレモニーはネット上で公式ライブ中継されることが数年前から恒例となっていますが、今年は放映が突然中断されるというハプニングが。原因は、映像部門を受賞したTVドラマの映像を流したことに、動画配信サイト側の著作権侵害監視ボットが自動的に反応してしまったとのこと。ある意味、SFのイベントらしい事故といえましょうか……。
(2012年9月5日)




海外SFの専門出版社|東京創元社
バックナンバー