Science Fiction

2018.05.02

SF不思議図書館 愛しのジャンク・ブック 第3回(1/2)

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SF不思議図書館 愛しのジャンク・ブック
第3回 隕石衝突から始まるヒーローの系譜

小山 正 
tadashi OYAMA

【はじめに 不思議な海外SFを探したり読んだり】
【第1回 クイズに答えてSF博士になろう】
【第2回 超人作家シルヴァーバーグ】

1 フィリップ・ホセ・ファーマーの奇想世界

 好きなSF作家を一人あげろと言われたら、フィリップ・ホセ・ファーマー(1918~2009)と答えよう。彼の作品に接するたびに、私は「ヒャッホー! なんじゃこれは!?」と、驚きの声を上げてきた。
 ファーマーといえば、昆虫から進化した異星人との性愛を扱った長編『恋人たち』(1961)や、傍若無人な上帝たちによって作られた「ポケット宇宙」を舞台に多彩な人物が入り乱れる冒険SF《階層宇宙》シリーズ(1963~1993)、巨大な河が流れる惑星に再生した人々の旅路を描く《リバーワールド》シリーズ(1971~1992)で有名だ。
 いやいや、まだまだあるぞ。
 奇怪な宇宙生物との接触を、宗教と性との観点から描く作品集『奇妙な関係』(1960)。ポルノ仕立てのオカルト私立探偵物『淫獣の幻影』(1968)。オモチャ箱をひっくり返したようなスペース・オペラ『気まぐれな仮面』(1981)。短篇でも、TVドラマ「宇宙大作戦(スター・トレック)」の一話として書かれたものの、ブッ飛びすぎていてボツになったプロットの小説化「宇宙の影」(1967)、ジェイムズ・ジョイスとカート・ヴォネガットを混ぜたような思弁的中篇「紫年金の遊蕩者たち」(1967)等々――。どれも抜群におもしろい傑作・快作・珍作ばかりである。
 なんといっても頼もしいのは、ファーマーのタブーなき創作姿勢だ。壮大なイマジネーションと奇想天外な発想もすばらしい。ストーリーテリングは卓越しているし、文学的な教養も深い。遊び心にも富んでいる。容易ならざる事態をサラリと書く筆致も「粋だなあ」と思う。
 ちょっと持ち上げすぎですかね?
 でも、わたしはそれほどにファーマーに入れあげている。
 思い返せば、一九八三年の春頃。大学生になった私は高田馬場の洋書店ビブロスで、一冊のペーパーバックを買った。タイトルはRiverworld and Other Stories(リバーワールド、その他の物語)(1979、バークリー刊)。著者はもちろんファーマー。十一篇を収録した中・短篇集である。

画像1.jpg  当時はハヤカワSF文庫から《リバーワールド》シリーズが刊行中で、一九七八年に翻訳が出た第一長篇『果しなき河よ我を誘え』(1971)と、翌年訳された第二長篇『わが夢のリバーボート』(1971)に感激した私は、「おお、作品集があったのか!」と、小躍りしながら購入。英和辞典を引き引き読み始めた。
 巻頭の中篇 "Riverworld"(リバーワールド)(1966、未訳)は、シリーズの「支流」の話。第三作『飛翔せよ、遥かなる空へ』(1979)に登場する元西部劇スターで、一等航河士トム・ミックスの物語だ。生まれ変わったキリストも出現する宗教色の強い作品だった。
 《リバーワールド》物はこの一作だけでがっかりしたが、残りの作品を読むにつれ、次第に気分が高揚してきた。どんな小説が載っていたかというと――。
 短篇 "J. C. on the Dude Ranch"(観光牧場のJ・C)(1979、未訳)は、作家ロバート・ブロックが変名で登場するウェスタンのパロディー。アリゾナの牧場を舞台に、エイリアンと神と悪魔の闘いが展開する。
 短篇 "The Henry Miller Dawn Patrol"(ヘンリー・ミラー、夜明けのパトロール)(1977、未訳)は、空軍パイロットだった老人ミラーの艶笑譚。介護施設の女性看護スタッフと交わすセックスを空襲爆撃に模した描写が爆笑を誘う。ちなみにファーマーは、二十世紀文学の古典『南回帰線』の著者ヘンリー・ミラーの大ファンだそうな。
 中篇 "The Problem of the Sore Bridge Among Others" (1975、邦訳「痛がる橋の問題―その他いろいろ」、〈ミステリマガジン〉2008年6月号)は、ハリー・マンダース名義で書かれたSFミステリ。マンダースは、E・W・ホーナングが書いたミステリ《義賊ラッフルズ》シリーズのワトスン役の名前で、ファーマーは本作を未発表のラッフルズ譚として書いている。コナン・ドイルの短篇集『シャーロック・ホームズの事件簿』所載の「ソア橋の怪事件」の中で語られる、マッチ箱内の謎の生物事件を材にとった話で、ホームズの捜査を尻目に、ラッフルズはその生物に接触。それがきっかけで、海底に潜むエイリアンとの死闘に巻き込まれる、という派手なストーリーである。
 その他にも、「ターザン」をエドガー・ライス・バローズではなく、『裸のランチ』のウィリアム・バロウズが書いたらどうなるか、というパロディー "The Jungle Rot Kid on the Nod"(ヤク中のジャングル腐れキッド)(1968、未訳)や、レックス・スタウトが生んだ名探偵ネロ・ウルフ物の長篇『腰ぬけ連盟』に登場する変人作家ポール・チャピンが残した小説という体裁の短篇 "The Volcano"(火山)(1976、未訳)、リチャード・ブローティガンの長篇『愛のゆくえ』で紹介される作家ロッド・キーンが書いたという短篇 "The Phantom of the Sewers"(下水管の怪人)(1978、未訳)、等々が収録されていた。  なんとまあ、文学ギャグの嵐! 特にウィリアム・バロウズのターザン物は、麻薬中毒者の言葉を模しているせいか、何回読んでも意味不明。マンダース名義のラッフルズ物は、ビクトリア朝の雰囲気と現代SFの面白さが見事に溶け合っていた。
 この作品集には収録されていないが、ファーマーの短篇「スカーレティンの研究」(1975)も同様の趣向である(邦訳は講談社文庫『世界SFパロディ傑作選』に収録)。これは彼が「ジョナサン・スウィフト・サマーズ三世」というペンネームで発表したSFミステリで、ホームズの長編『緋色の研究』のパロディーなのだ。
 舞台は現代のドイツ。戦場で負傷し、ハンブルクに帰国した医学博士J・H・ヴァインシュタインは下宿を紹介され、ベルナー街のアパートに向かう。するとそこには脳手術を受け、人間の言葉を喋る探偵犬〈ラルフ・フォン・ヴァウ・ヴァウ〉がいた。喉には原子力で動く超小型会話機が付いており、声はハンフリー・ボガートそっくり。かつては警察犬だったが、今は独立して私立探偵業を営んでいた。ヴァウ・ヴァウとヴァインシュタインの共同生活が始まったそんなある日、彼らは行方不明になった画家の謎の解明を依頼される。舞台は現代なのに、蒸気機関の車が走っていたりと、スチームパンクを先取りしたような設定も驚きだ。
 ちなみにジョナサン・スウィフト・サマーズ三世とは、ファーマーがギルゴア・トラウト名義で上梓した長篇『貝殻の上のヴィーナス』(1975)に登場するSF作家の名前である。もっというと、ギルゴア・トラウトとは、カート・ヴォネガットの長篇『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』(1965)等に登場するSF作家で――なんて説明は、SFファンの皆さんに不要ですね。
 とまあ、ファーマーは一時期、こうした文学ギャグを連打した。しかし、他人の文芸世界を自己流に作り直し、それをオリジナル作品に仕上げる行為は、ともすれば「文学的寄生」と批判されかねない。ヴォネガットの評伝『人生なんて、そんなものさ』(チャールズ・J・シールズ著、2011、柏書房刊)によれば、ファーマーとヴォネガットの間にも、ひと悶着あったという。
 『貝殻の上のヴィーナス』の出版許諾を求めるファーマーの強引さに、ヴォネガットは辟易させられた。さらに刊行された後、ヴォネガットはファンから罵倒され、皮肉を言われ続けた。しかも、本が売れたことで調子に乗ったファーマーは、続篇について勝手に言及。それを知ったヴォネガットは、自分が踏み台にされていると痛感し、二作目は絶対に許さないと強く抗議したのだ。
 とはいえ――ファーマーの二次創作は見事な換骨奪胎である。作品に賭ける熱い想いがビビッドに伝わってくるし、遊び心も半端ではない。文学ギャグなどという軽いものではなく、高度な技術でバカの妙を楽しむ「戯作趣味」。時空を超える「剽窃の美学」にまで昇華されていると思う。
 えっ? やっぱり持ち上げすぎですって? あはは、確かに。でも、どれも抜群にオモシロいから、ついつい……。

2 究極のSF戯作『ターザンは生きている』

 そんなファーマーの戯作趣味は、一九六〇年代の末頃から顕著になっていく。
 一九六八年に刊行された《階層宇宙》シリーズの第三長篇『階層宇宙の危機』では、エドガー・ライス・バローズの《火星》シリーズの世界を、「ポケット宇宙」のひとつとして再構築することの是非が、登場人物たちによって論じられる。虚構の世界をリアルに再現することの厄介さが焦点となるのだが、これはファーマーの自問自答と解釈することもできる。
 長篇A Feast Unknown(知られざる饗宴)(1969、エセックスハウス刊、未訳)には、ターザンがモデルと思われるグランドリス卿と、ドック・サヴェジらしいドック・キャリバンが登場する。実は二人は兄弟で、しかも父親が連続殺人鬼ジャック・ザ・リッパーであった、という設定なのだ。超人と巨悪を「親子の絆」で繋げるというアイデアが、いかにも『奇妙な関係』の作者らしい発想である。
 長篇Lord Tyger(タイガー卿)(1970、ダブルデイ刊、未訳)も奇妙な作品だ。主人公はターザンを模したタイガー卿。実は彼は、偏執狂の富豪によって意図的に野生の中で育てられた、贋のターザンであった。
 このように、ファーマーの戯作趣味は次第に凄味を増していく。「ターザンとは何者なのか?」という単純な疑問は、やがて、「そもそもヒーローとは、いかなる存在なのか?」という謎に変容していった。そして、その答えを出すためにファーマーは、虚構と現実の垣根を取り払う「思索のジャンプ」を行う。
 かくして生まれたのが、一九七二年に刊行されたノンフィクションTarzan Alive: A Definitive Biography of Lord Greystoke(ターザンは生きている――グレイストーク卿の決定的伝記)(ダブルデイ社、未訳)である。ファーマーはこの本の中で、「密林の王者ターザン」は架空の人物ではなく、グレイストーク卿ジョン・クレイトンという実在の人物で、今も健在なのだ、と主張する。

画像2.jpg  本を書くにあたってファーマーは、二十四冊の《ターザン》シリーズを再読吟味。バローズが書かなかった部分を補完する一方で、ターザンの実生活や心情の変化などを詳細に記述。リアリティーあふれる伝記にまとめ上げた。
 ちなみに、この本の約三分の二を占めるのが、ターザンの軌跡を描く「伝記篇」。一八八八年の誕生から、バローズが生前に書いた最後のターザン本が出た一九四七年代までの事象が、克明に描かれていく。
 残りの三分の一が「資料篇」。最初に掲載されているのが、アメリカの英文学者でシャーロッキアンのW・H・スター博士の論文の再録。この中でスター博士は、コナン・ドイルの諸作――『バスカヴィル家の犬』「プライアリー・スクール」他――の中にグレイストーク家の関係者が、別の名前で埋め込まれている、と指摘した(これは虚構の論文ではなく、アメリカのホームズ愛好家組織「ベーカー・ストリート・イレギュラーズ」の機関誌〈ベーカーストリートジャーナル〉誌一九六〇年一月号に、本当に掲載されたもの)。シャーロキアンでもあったファーマーは、この論文をヒントに、Tarzan Aliveの構想を練ったらしい。

画像3.jpg  次に掲載されているのが、ファーマーの長尺のエッセイ。彼は、スター博士の論文を評価しつつも、いくつかの点で誤りを指摘し、さらにターザンとホームズの関係だけでなく、グレイストーク卿の家系そのものが、文芸上の著名キャラクターたちとの深い繋がりがあると述べた。
  ファーマーは、グレイストーク卿とその親戚縁者を何世代もさかのぼり、親子・兄弟・夫婦・内縁等の繋がりを徹底的に調査。そして、グレイストーク卿と親戚関係にある人物として、ジェイン・オースティンの古典文学『高慢と偏見』の主人公、フィッツウィリアム・ダーシーとエリザベス・ベネット夫婦をはじめ、「紅はこべ団」リーダーのパーシー・ブレイクニー准男爵、シャーロック・ホームズ、ピーター・ウィムジイ卿、ネロ・ウルフといった名探偵たち、ジョージ・E・チャレンジャー教授、ドック・サヴェジ、ブルドッグ・ドラモンド(怪傑ドラモンド)や、A・J・ラッフルズなどのSFやミステリ、パルプマガジンなどのヒーローたちを挙げて、彼らが皆、グレイストーク卿の一族の系図の中に収まると主張したのである。
 ちょっと待った! 全員が親戚!? フィクションのキャラクターが実際に存在すると言いながら、その人物が虚構のキャラクターたちと親戚縁者だなんて、ワケがわからないゾ!
 しかし――アメリカの大衆文化史を研究する亀井俊介教授によれば、こうした文学的な嘘八百は「人かつぎ」(Haux)と呼ばれ、アメリカ文学の伝統であるという。十八世紀のフランクリンや十九世紀のマーク・トウェインは、非現実的な人物や事柄をまるで現実のようにもっともらしく語る冗談原稿をいくつも執筆し、好評を博した(例えば、トウェインのコラム「石化人間」がそれにあたる)。ファーマーはその技術を継承、ターザンを歴史上の人物にしてしまった、と教授は指摘している(亀井俊介著『サーカスが来た!』平凡社ライブラリー刊、『マーク・トウェインの世界』>南雲堂刊)。
 考えてみれば、虚構世界が現実に飛びこんできたり、現実が虚構の中に入っていく手法は、山田風太郎の《忍法帖》シリーズや《明治》物でお馴染みである。山風の作品では、両者の垣根があっさりと取り払われており、どの作品も不思議な気分で読むことができる。ファーマーの試みは、アメリカ文学の伝統芸である一方で、山田風太郎と似た着想で練られているのだと思えばよいのだ。

3 ウォルド・ニュートンで起きた奇蹟

 さらにファーマーは、グレイストーク卿の親族に、なぜ多数の有名人――名探偵やヒーローたち――が頻出したのかという点について、理由を記している。  一七九五年十二月十三日午後三時、イギリスのヨークシャー州ウォルド・ニュートン近郊に隕石が落ちた。くしくも、近くに二台の大きな馬車が走っていて、乗っていた七組の夫婦と従者が落下の衝撃を受ける。ちなみに、そのメンバーは次の通り。

【第1馬車】
◎ジョン・クレイトン(第3代グレイスーク卿)、その妻アリシア・ラザフォード(妊娠中) ※ターザンの先祖、かつドック・サヴェジの先祖
◎ジョージ・エドワード・ラザフォード(第11代テニングトン男爵)とその妻エリザベス・カヴェンディッシュ(妊娠中) ※チャレンジャー教授の先祖
◎オノレ・デラガーディエ(「紅はこべ」がフランスより救出)、その妻フィリパ・ドラモンド(妊娠中) ※ブルドッグ・ドラモンドの先祖
◎フィッツウィリアム・ダーシー、その妻エリザベス・ベネット(『高慢と偏見』の主人公)
◎従者……ルイ・ルパン(怪盗紳士ルパンの先祖)、アルベール・ルコック(ルコック探偵の先祖)

【第2馬車】
◎サー・パーシー・ブレイクニー(紅はこべ)、その後妻アリス・クラーク・ラッフルズ(妊娠中) ※義賊ラッフルズの先祖、ピーター・ウィジイ卿の先祖と親戚
◎シガー・ホームズとその妻ヴィオレット・クラーク ※シャーロック・ホームズの先祖
◎サー・ヒュー・ドラモンド、その妻ジョージア・デュハースト ※ブルドック・ドラモンドの先祖

 隕石衝突のショックを受けたものの、不思議なことに彼らは傷つくこともなく、すぐに回復。しかし、衝撃時に光線を浴びたことで、遺伝子に何らかの変異が起き、それが胎児にも影響した。結果、彼らの子孫に名探偵・科学者・冒険家を輩出することになった、というのがファーマーの趣旨である。ヒーローの遺伝子――かどうかはわからないけれど、生物学的な因子が起因している点は、『スター・ウォーズ』のジェダイ騎士が持つミディ=クロリアンの先駆けのような設定といえる。
 なおこの隕石は、英国で落下が目撃された最初のもので、後年、地球外のものと判明したという(この事象は創作ではなく、正真正銘の歴史的事件である。ウィキペディアの「ウォルド・コテッジ隕石」を参照のこと)。
 なお、ファーマーはTarzan Aliveの刊行に合わせて、ターザン本人へのインタビューを試みたという。西アフリカの国ガボンのホテルに現れたターザンは、実年齢で八十歳を超えているにもかかわらず、三十歳代にしか見えなかった、とファーマーは記している。二十四歳の時にアフリカの呪術医によって不死処置を受け、それ以来、老化の進行が遅くなっているらしいのだ(インタビュー記事の邦訳は「グレイストーク卿、真実を語る」、〈SFマガジン〉1996年10月号)。
 とまあTarzan Aliveは、「人かつぎ」(Haux)伝統を現代に甦らせた珍本である。ハヤカワSF文庫の《ターザン・ブックス》完結の曉には翻訳されると近刊予告まで出たものの、結局、未刊に終わった。ああ、なんとも残念!
 さて、このTarzan Aliveを補完するのが、一九七四年にアスペン・プレスから刊行された短めの長編『シャーロック・ホームズ アフリカの冒険』である(邦訳は奇想天外社刊『別冊・奇想天外3/ドタバタSF大全集』収録。二〇一七年に南雲堂『奇想天外〈復刻版〉アンソロジー』再録)。ワトソン博士の未発表原稿を模したファーマー流の戯作だ。
 第一次世界大戦の前夜、引退していたホームズは、役人の兄マイクロフトの命を受けて、アフリカに潜むドイツの諜報員フォン・ボルクに立ち向かう。アフリカに着いたホームズとワトスンは、ターザンと合流、ボルクを追いつめるが……。
 邦題に引っ張られて、ホームズとターザンの奇想天外な競演を過度に期待すると、少しがっかりするかもしれない。ミステリ作家ジョン・ディスクン・カーが生んだ名探偵ヘンリ・メリヴェール卿やフェル博士の若き日の姿が描かれたり、H・R・ハガードの長篇『ソロモン王の洞窟』(1885)の主人公アラン・クォーターメインの話が出てきたりと、ニヤニヤしてしまう箇所は多い。しかし、この本の最大の読みどころは、第七代グレイストーク卿と第八代(ターザン)のミステリアスな引き継ぎの謎について、ホームズが仮説を提示し、それを受けたターザンが意外な告白をする点にある。
 バローズの小説とTarzan Aliveの誤りが正されて、ターザン誕生にまつわる「とある真実」が特定されるのだ。Tarzan Aliveの修正を施すために、ターザンとホームズの対決を盛り込みつつ、わざわざ長編を執筆するなんて、なんとも凝り性な戯作者である。
 しかし、本書にはミソが付く。ペーパーバック版の刊行直後、ターザンのキャラクター使用をめぐって、エドガー・ライス・バローズ財団からクレームが入ったのだ。結局、バローズの著作権が切れる二〇〇〇年まで、再刊が叶わなくなる。

(2018年5月2日)



■ 小山 正(おやま ただし)
1963年、東京都新宿区生まれ。ミステリ研究家。慶應義塾大学推理小説同好会OB。著書に『ミステリ映画の大海の中で』(アルファベータ刊)。共著に『英国ミステリ道中ひざくりげ』(光文社)。編著に『越境する本格ミステリ』(扶桑社)、『バカミスの世界』(美術出版社)、他。





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