Science Fiction

2011.04.25

堺三保/ロバート・チャールズ・ウィルスン『クロノリス─時の碑─』解説[2011年5月](1/2)

なんたって、時間のモノリスですよ、時間のモノリス。
なんじゃそりゃ、とついつい引き込まれてしまうでしょ。

(11年5月刊『クロノリス─時の碑─』解説[全文])

堺三保 mitsuyasu SAKAI

 

 時は近未来の二〇二一年、場所は東南アジアのタイ。ある日突然、南部のチャムポーン県でそれは起こった。何もない山中に、巨大な謎の石柱が忽然と出現したのだ。それは出現するときに巻き起こす衝撃波で周辺を破壊する、恐るべき破壊兵器でもあった。信じがたいことに、この石柱に記されていた言葉によれば、これは二十年先の未来から、謎の存在「クイン」によって送り込まれてきたものだということだった。
 石柱は本当に未来から送られてきたのか。クインとは一体何者なのか。
 一切の謎が解かれぬまま、新たな石柱が一つまた一つと世界各地へと送り込まれてくる。そのたびに破壊される出現地点。それは二十年にわたる長い長い「未来との戦い」の始まりだったのだ。
 偶然、最初の石柱の出現を目撃したアメリカ人プログラマ-、スコット・ウォーデンは、運命のいたずらか、この時の石柱、クロノリスとの闘いに巻き込まれていく……。

 いやいやいや、まさに一読巻を措く能わず。解説用に送信されてきたデータ原稿を一気に読んでしまった。おもしろいではないですか、ロバート・チャールズ・ウィルスン!
 確かに『時間封鎖』はむちゃくちゃおもしろかった。続編の『無限記憶』も良かった。ちなみに、まだこの二作を読んでいないという不幸(いや、お楽しみが残ってるんだから、ある意味幸運?)な人は、本書と一緒にひっつかんで、書店のレジに直行していただきたい。
 もともと上手い人だというのは、十年以上前に翻訳された『世界の秘密の扉』『時に架ける橋』でわかってはいた。でもその頃は、なんというか、正直「SFとしては手堅いし、キャラもよく描き込まれてるし、お話もしみじみしてていいんだけど、アイデアも語り口も地味だよなあ」と思っていたのだ。
 それが『時間封鎖』のど派手な設定と予想外の展開に、思わず口をあんぐりと開けるくらい驚かされたわけで、「この人、いったいいつこんなに化けたの?」と思っていたところに、本書の解説の依頼を受けたのだった。
 本書は残念ながらウィルスンの最新作ではない。したがって、ファンの皆さんお待ちかねの『無限記憶』の続編でもない。『時間封鎖』より二作前、二〇〇一年に発表された作品である。
 だがしかし案ずるなかれ。初めにも書いたようにこれが滅法おもしろいのだよ、お客さん。私の個人的な感想だけじゃ心配な方も、ヒューゴー賞、ローカス賞の候補作であり、ジョン・W・キャンベル記念賞受賞作でもあるという、海外のプロアマ双方によるお墨付きもしっかりもらっているからだいじょうぶ。
 それにしても、タイトルにもなっているクロノリスというネーミングからして、抜群にすばらしい。本文中では「ギリシャ語の『時間(クロノス)』と『石(リソス)』を単に合体させただけ」と説明されているが、SFファンならずともクロノリスと言われて思いつくのは、クロノ(時間の)+モノリス(石柱)だろう。そして、モノリスと言えば、なんといっても 『2001年宇宙の旅』とその続編群に登場するあの真っ黒い石板が、やはり真っ先に思い浮かぶはずだ。
 これぞ、初期のウィルスンにはなかったのに、『時間封鎖』でのウィルスンがいつのまにか持つようになった、良い意味でのハッタリなのだ。なんたって、時間のモノリスですよ、時間のモノリス。なんじゃそりゃ、とついつい引き込まれてしまうでしょ。
 もちろんこのクロノリス、単なるハッタリではない。なにせこの巨大かつ奇怪な石柱群の主目的は、それが出現することによって、人々を不安に駆り立て、社会に混乱をもたらすことによって、歴史に影響を与え、最終的にとあるタイムパラドックスを引き起こすことにあるのだ。詳しくは本文を読んでいただきたいのだが、そのユニークさは(ついでに言ってしまえば、まわりくどさも)、ちょっと他には類を見ない新奇なアイデアなのだ。
 このアイデアを生かす意味もあって、本作は何十年という長いタイムスパンの物語となっているのだが、その扱い方がこれまた、時間SFとしてはちょっと異色のものなのである。
 常識的に考えた場合、時間は過去から未来へと流れていくものだから、「過去」が「起点」すなわち「原因」であり、「未来」が「終点」つまり「結果」となる。ところが、タイムパラドックスを含む時間SFの場合は、それが逆転して「未来」が「起点」となり「過去」が「結果」となる。場合によっては、(本作もそうなのだが)この起点と終点のあいだである種のフィードバックが起こることもある。
 このようなお話の構造上、時間SFにおいては、過去に行くにせよ未来に行くにせよ、過去、現在、未来において「起点」や「終点」となる、ある「特定の時代(場合によっては時刻)」に焦点が絞られて、物語の舞台に選ばれることが多い。
 ところが本作の場合、「起点」と「終点」だけでなく、前述した「クロノリス降臨による効果」が徐々に歴史をねじ曲げていく様子を丹念に描くために、その「経過」となる時点をいくつも拾い上げていくことで、長いタイムスパンの物語が作り上げられている。こういうアプローチは、なかなか他の時間SFにはない発想だろう。





海外SFの専門出版社|東京創元社
バックナンバー