怪傑黒頭巾
『怪傑黒頭巾』
 高垣眸は、一八九八年(明治三十一年)広島生まれ。本名高垣末男。早稲田大学卒業で、二十代の時から「少年倶楽部」や「少年世界」に作品を発表。『竜神丸』『銀蛇の窟』 『豹(ジャガー)の眼』『快傑黒頭巾』などで人気を博す。他に「田川緑」「小野迪夫」「黒髯中尉」などのペンネームも用いた。小説以外に『恐龍の足音』 (原作コナン・ドイル『失われた世界』)や『ソロモンの洞窟』(原作H・R・ハガード『ソロモン王の洞窟』)など海外作品の子ども向けリトールドも得意とした。日本作品では矢野龍渓『浮城物語』 の現代語訳なんてものも。また怪奇物の連続テレビドラマとして名高い『恐怖のミイラ』の原作者としても知られる。一九八三年、八十五歳で歿。
 本作は、先に発表されている『凍る地球』『恐怖の地球』と併せて「地球三部作」と称されているので、他の二作についても紹介しておこう。これらは三一書房の『少年小説大系 第5巻 高垣眸集』(一九八七年)に収録されているので、図書館などで簡単に手に取ることができる。 
恐龍の足音
『恐龍の足音』
『凍る地球』は、「東光少年」一九四九年一月号~五〇年三月号に掲載。高垣眸の単独作ではなく、深山百合太郎との合作になっている。……ん? 深山百合太郎って、先の『燃える地球』に出てきた軍人だ。実在の人物だったのか!
 一九六五年(連載時からすると十五年後の未来)、太陽黒点に異変が起こり、大量の宇宙線が地球に降り注いだ。ペンシルバニヤ州の原子力発電所では、E号機のみ鉛扉が不完全なまま運転していたため、爆発を起こした。それだけならばまだしも、洋上を移送中だった原子力燃料が珊瑚礁で大爆発。これが原因で新たな電離層「D層」が発生した。科学者の予測では、地上の気温はどんどん上昇した挙句、最終的には逆に下降して大氷河期が訪れるだろう、ということだった。
 すぐに気温の上昇が始まり、植物が異常に繁茂したり、イナゴやハンミョウが大発生する。……この辺、ちょっと展開が無理矢理。気温のせいだけにせず、宇宙線によることにすれば、もう少し説得力があったのに。
 また物語がすぐに本筋から逸れるところは『燃える地球』同様で、英国では名俳優が田舎芝居に出る話になったり、米国では水没した街を襲う潜水ギャング団の話になったり。地球がタイヘンなことになっているというのに。
 一方で、日本は地底都市を作ることによって、対策に成功していた。……「霊空間実験室」などという、アヤシゲな物も登場するけれども。
 しかしタイトルは『凍る地球』なのに、暑くなった地球の姿が描かれるばかりで、いつまで経っても凍らない。地球が遂に凍るのは、最後の第十六章になってからのことなのだ。雑誌連載だったので、そこのバランスがうまく取れなかったんでしょうかね。
 続いては、『恐怖の地球』。『少年小説大系』の解説では「書き下ろし」となっているが、年譜によると書かれたのは一九七三年とのこと。なんと、発表の当てがないのに書いたらしい。『少年小説大系』への収録は十四年も経ってからである。
 豪華観光船プレジデント・ケネディ号、及びジャンボ旅客機FPR108号が、ほぼ同時に消息を絶つ。その後、両者の残骸がシベリアの森林地帯に降り注いだが、死体は見つからなかった。
 やがて、ケネディ号に乗っていた米国のフレディ少年から、日本の珠樹少年のもとへハム通信で連絡があった。彼らは「スピッツくらい」の大きさの、直立歩行する蟻人たちにさらわれ、宇宙船に乗せられているのだという。
 蟻人たちは、地球から四・二光年の距離にあるプロキシマ・ケンタウリからやってきた。自分たちの星が食料不足に陥ったため、植民に向いた星を探して地球へ到来したのだった。
 蟻人たちは集合的生物であるために感情に捕らわれず、囚われの地球人から攻撃を受けても怒ったりしなかったが、価値のある人間を残すと、無価値と判断した捕虜たちを処分してしまった。
 だが地球には有害な物質があった。そのため蟻人の代表が、フレディ少年や珠樹少年らとともに、地球の状況を視察・調査して回ることになった……。
 蟻人という設定は面白く、三部作の中で最もSF度が高そうだと期待していたら、途中から地球見学に名を借りた、作者による文化批判やら公害批判やらが延々と展開される。この辺は、SFを読んでる感が全くなし。最後の結末もあっけないし。
 ……これって、読者層をどのように想定して書いたのだろう? ストーリー展開そっちのけで地球の(というか日本の)現状を延々と紹介&批判し続けるし、蟻人の生殖に関する部分では「人間同士の性行為に見られる猥褻感などみじんも感じられない」なんて記述もあるし、とても子ども向けとは思えない。その一方で、宇宙からの侵略者がやってきて……という基本的な部分はジュヴナイルSFのパターンだし。うむむむ。
異作 恐怖の地球
異作『恐怖の地球』(書誌より転載)
 年譜によると、これとは同題だが異作の「恐怖の地球」が、一九四九年の「少年少女譚海」に載っているという。書誌『昭和二十四年の「少年少女譚海」(「少年少女譚海」総目次 試作版)』(書肆いろどり/二〇一二年)を参照したところ、四九年五月創刊号から五〇年三月号までの連載と判明。これも、是非とも読んでみたいものだ。
 『少年小説大系 第5巻 高垣眸集』は全部で五作品を再録。残る三作のうち『怪人Q』(一九三一年)は、謎の秘密結社の陰謀や、それに巻き込まれた少年らを巡る波乱万丈の冒険活劇。怪人Qの秘密基地は海底都市にあるし、手下として人造人間を使っているので十分にSFです。今回紹介した作品の中では、読み易さではこれが一番。興味のある方は御一読を。

 ホントは、『燃える地球』のように未入手の本を紹介すると、皆が探し始めて尚更入手困難になったりするので考えものなのだが、これだけは取り上げないわけにはいかなかった。もし地方の古本屋とかに安値で転がっていたら、東京創元社気付で北原尚彦に送ってください。喜びます。
 先ほど「そんなに古い本でもない」って書いたけど、太平洋戦争中の本とか明治時代の本とかを普段から読んでいるせいで、それと比べての感覚だった。よくよく考えたら、一九八〇年ってもう三十年以上前だ。北原尚彦はぎりぎり高校生。サンリオSF文庫の『エンパイア・スター』とか『ハローサマー、グッドバイ』とか『猫城記』が出た年で、『夢幻会社』『去りにし日々、今ひとたびの幻』も出てない。……十分、古いか。
 まあでも、当時この本が出てることに気づいたとしても、新刊じゃ買わなかっただろうなあ。
 とか考えてるとまた、古本者の「今のうちに買っておかないとなくなっちゃうかも」病が重くなるのでありました。

北原尚彦(きたはら・なおひこ)
1962年東京都生まれ。青山学院大学理工学部物理学科卒。作家、評論家、翻訳家。日本推理作家協会、日本SF作家クラブ会員。横田順彌、長山靖生、牧眞司氏らを擁する日本古典SF研究会では会長をつとめる。〈本の雑誌〉ほかで古書関係の研究記事を長年にわたり執筆。主な著作に、短編集『首吊少女亭』(出版芸術社)ほか、古本エッセイに『シャーロック・ホームズ万華鏡』『古本買いまくり漫遊記』(以上、本の雑誌社)、『新刊!古本文庫』『奇天烈!古本漂流記』(以上、ちくま文庫)など、またSF研究書に『SF万国博覧会』(青弓社)がある。主な訳書に、ドイル『まだらの紐』『北極星号の船長』『クルンバーの謎』(共編・共訳、以上、創元推理文庫)、ミルン他『シャーロック・ホームズの栄冠』(論創社)ほか多数。

北原尚彦『SF奇書天外』の「はしがき」を読む。


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