Scienece Fiction
2011.12.05
北原尚彦「南沢十七は異星でもハチャメチャ!『天外魔境』」――SF奇書天外REACT【第18回】(2/2)[2011年12月]
ジミー呑天君は気がつくと、ひとりで見知らぬ宮殿のような部屋で寝ていた。そこに現われた人間は、狐のような顔でルビー色の眼をした“金人”だった。金人は「占者モロ」と名乗り、ユーロペの人間について語った。ユーロペには金人、銀人、青銅人がおり、文化程度は金人>銀人>青銅人の順だったが、人口や体力ゆえに力関係は青銅人>銀人>金人だった。
搾取されている金人たちは、ジミー呑天君に金人の皇帝になってもらい、平和な世界をもたらして欲しいと頼んだ。……どうして、見ず知らずの人にそんなことを頼むんでしょうかね。
そしてジミー呑天君は「新皇帝ビル」と呼ばれることになったのだが――どうして「ビル」なのですが?
折りしも銀人は、金人の動力や武器を供出するよう求めてきた。これに対抗すべく、ジミー呑天君は金人たちに、三日間で達成するよう三つの課題を出す。その課題が箇条書きになっているので、本文から引用してみよう。
1.宇宙線を応用して、青銅人や銀人の脳波を狂わす新しい光線
2.赤外線つまり目に見えぬ熱戦を応用して運動神経を麻痺さすもの
3.金人の体を青銅人なり銀人に自由自在に変化さす方法
……いやはや。これだけの発明を三日間でやれって、それは無理難題というものでしょう。ところが、金人たちは、これを完成してしまうのである。それだけの科学力があったら、どうして青銅人や銀人の搾取に甘んじているの?
その時、魔龍が金人国を襲ってくるが、ジミー呑天君の指示のもと、金人たちは新発明で撃墜する。
新発明の威力を確信した金人たちを率いて、ジミー呑天君は青銅人国へ攻め込む。翼のある空飛ぶ馬(ペガサス?)に乗り、翼のある空飛ぶ亀(ペガメ?)に機械を載せ、姿を消して。『緑人の魔都』でも亀は重要な役割を果たすのだが、そんなに亀が好きなのだろうか、南沢十七先生?
金人たちは、いとも簡単に青銅人国を征服する。しかし遠征の間に金人国に銀人たちが攻めてきた、との報が入り、ジミー呑天君たちは慌てて取って返し、銀人たちにも勝利する。かくして、三つの国に平和が訪れるのだった。ジミー呑天君は「救世主ビル」と呼ばれるようになる――という辺りで、物語の半分ぐらい。
しかし読んでいて違和感を覚えるのは、「ジミー呑天君は、どうして行方知れずのスター大和博士とチェリー花岡嬢を探さないの?」ということ。ユーロペに平和をもたらす戦争もいいけど、地球人仲間がどこにいるかの方が重要じゃないのか。
国が三つあるから、青銅人国と銀人国にスター大和博士とチェリー花岡嬢がいて……という話になるのかとも思ったが、そういうわけでもなし。
ところがそんな折、銀人国に大量の食人鬼(鬼面人)たちが攻めてくる。鬼面人は「首狩り人種」で「食人種の類」だった。これまで、そんな野蛮人がいることは全く知られていなかったのだ。ジミー呑天君たちはまたしても新発明を用いて鬼面人を追い払い、猿人に化けてそれを尾行し、鬼面人の住む魔境に達する。新発明によって、鬼面人たちは麻痺させてしまう。そして遂に、捕えられていたスター大和博士を発見、保護するのだ。
しかし一難去ってまた一難。今度は空を飛んで天狗人たちが襲ってきた。尖っているのは鼻ではなく口で、それで血を吸う吸血鬼だった。ジミー呑天君たちは彼らを圧倒した後、脳波を変化させる機械によって更生させる。――吸血鬼は更生させて、食人鬼は更生させない。その線引きは何なんでしょうねぇ。
そこに今度は魔龍の群れが襲ってきて……と、このパターンばっかり。これは以前金人国に来た魔龍が味方になってくれたおかげで勝利する。
やがて天狗人たちが、天狗人女王を連れて銀人国へやって来る。この女王が、なんとチェリー花岡嬢だった。ようやく、三人は再会を果たしたのである。
くろとかげ号も、魔龍の腹の中から見つかる。くろとかげ号に戻った三人は、電波探知機によって空の彼方を泳ぎまわる巨大なものの大群を発見。それは空を飛ぶ「飛行鯨」だった。くろとかげ号は空のキャッチャーボートとなり、飛行鯨を三匹射ち取って、各人種の食料にする……というところは昔の日本の感覚ですね。
さらに三人は、ムカデ人間の住む蛮界探検へと向かうのだった……。
で、終わってしまうのですが、折角三人揃ったしくろとかげ号も無事だったしで、どうして地球に帰ろうとしないんですかね?
そもそも、どうして三人がバラバラの場所にいたのかが明らかにされない。不時着する時に別々に放り出された、というようでもあるのだが、それだと死んでると思います。
またチェリー花岡嬢が天狗人の女王となるに至った経緯も語られない。天狗人は吸血種族だったのだから、ジミー呑天君たちと再会するまでのチェリー花岡嬢も血を飲んでたんでしょうか。
かようにツッコミどころ満載で、困ってしまうほど。ここでは全体のストーリーを追うために細かい部分は省略したが、細部にもツッコミを入れたいところがたくさんありましたよ。大気とか言葉とかの根本的な問題は、追求するのすら忘れてました。
『科学雑誌〈科学画報〉』
作者の南沢十七(一五〇五~一九八二)は、本名川端男勇(かわばた・まさお)。生物学を専攻し、衛生試験所に勤務していたが、やがて雑誌などで文章を書くようになっていった。
『科学雑誌〈科学画報〉』
少年向け小説の著作は『雷獣境』(まひる書房/一九四八年)、『あざらし少年』(偕成社/一九四八年)、『ダイヤモンドの弾丸』(東雲堂新装社/一九四八年)、
『変幻猿飛佐助』
小説以外では『人類性風俗史―牢獄篇―』(武侠社/昭和八年=一九三三年)といったノンフィクションや、ガルスチン原作の『南支那海』(東亜日本社/昭和十五年=一九四〇年)といった訳書もある。
川端勇男名義では、マラリア知識啓蒙のための科学小説(但し空想科学小説には非ず)の『小説マラリア』(東亜書院/一九四四年)や、食と性に関するノンフィクション『媚薬と生活』(大衆社/一九五五年)などがある。)
『小説マラリア』
今回、本稿を書く機会にと、大枚を叩いて買ったのに入手したら満足して読んでいなかった『海底黒人』も読んでみた。大東亜戦争開戦後、医師の息子である武人少年やその家族たちが戦乱に巻き込まれていくのを軸に、悪逆な英米(主にイギリス)軍が細菌兵器を使用するさま、皇軍がそれに対抗するさまが描かれる。……うーん、現実の戦争を題材にしているために、はっちゃけ度が少ないなあ。イギリス軍が細菌爆弾を使用したなどというのは、フィクションですけどね。
『媚薬と生活』
【以下ネタバレ】
イギリスは母潜水艦から豆潜水艦を切り離し、その豆潜水艦を南方の港近くで座礁させ、そこから細菌兵器を撒くという悪辣な作戦を取った。しかも豆潜水艦は帰還できないため、白人ではなく黒人たちを乗り組ませていたのだ。これが“海底黒人”だったのである。 【以上ネタバレ】
これにはガッカリした。南沢十七なのだから、もっと奇想天外な海底黒人が出てくるに違いない、と思って読んだのはわたしだけではあるまい。
一方、本作や『小説マラリア』のような著作があるのは、やはり南沢十七が生物学を専門としていたからなのだろう。
SF奇書好きにとっての最大の代表作が『緑人の魔都』なのは衆目の一致するところだが、この作品のハチャメチャぶりはあちこちで紹介されているので、ここではざっくりと。謎の怪物に父・山吹博士を誘拐された柿太郎少年は、雲井少年探偵や鳴海少年記者とともに魔境・コメット島へ潜入。海神と密林の精との間に生まれた緑人皇帝やらクモ人間やらに遭遇する、という破天荒なストーリー。潜入するに当たって海亀の変装をした少年たちが、以降ずっと亀の甲羅を背負ったまま物語が展開することで有名である。
でもこちらを知っていると、ちゃんとした(っていうのもヘンだが)怪人としての“緑人”が出てくるものだから、『海底黒人』にも怪人としての黒人が出てくると思ってしまうのは致し方あるまい。
あとは読んだことがないのだが、『金星のターザン』がタイトルから推測するに、『天外魔境』と同傾向の作品っぽい。これはいつの日か欲しいなあ……と書いてしまった。書いてしまったので、誰か譲って下さい。宜しくお願いします。
(2011年12月5日)
■ 北原尚彦(きたはら・なおひこ)
1962年東京都生まれ。青山学院大学理工学部物理学科卒。作家、評論家、翻訳家。日本推理作家協会、日本SF作家クラブ会員。横田順彌、長山靖生、牧眞司氏らを擁する日本古典SF研究会では会長をつとめる。〈本の雑誌〉ほかで古書関係の研究記事を長年にわたり執筆。主な著作に、短編集『首吊少女亭』
●北原尚彦『SF奇書天外』の「はしがき」を読む。
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