Scienece Fiction
2009.10.29
SF奇書天外REACT【第1回】(2/2)[2009年11月]
<PR>北原尚彦先生蔵書より古書を1名様にプレゼント!(2009年11月30日締切)【ここをクリック】
とはいえ、読んだ覚えのない話もある。それに、記憶と微妙に違うものも。そこで念のために、と両者をつき合わせたところ、幾つかの事実が判明。
(1)『怪談十五夜』に入っている話すべてが『箱根から来た男』に入ったわけではない。
(2)同じ話でも、タイトルが変わっていたり改訂されていたりする。
(3)『箱根から来た男』にしか入っていない話もある。
わかりやすくするため、それぞれの収録作およびその異同を一覧にしておこう。
〔A〕『怪談十五夜』(友文堂書房/1946年)
1「白鷺の東庵」→B1
2「草履の裏」→B8
3「豆腐のあんかけ」→B3
4「兜鉢」→B16
5「深夜の葬列」
6「黄八丈の寝衣」→B14
7「鳥海山物語」→B4
8「離家の人影」(→B18「影二題」の前半「竹田の幅」同趣向だが細部に差異あり)
9「温泉寺奇談」
10「蛻庵物語」
11「二ツ人魂」(→B15「Nさんの経験」の前半と同趣向だが細部に差異あり)
12「下足番の話」(→B20「ある下足番の話」と同趣向だが細部に差異あり)
13「手相奇談」
〔B〕『彩雨亭鬼談 箱根から来た男』(椿書房/1962年)
1「白鷺の東庵」←A1
2「黄牛記」
3「豆腐のあんかけ」←A3
4「鳥海山物語」←A7
5「旅役者」
6「旅絵師の話」
7「扶桑第一」
8「草履の裏」←A2
9「名鶉」
10「箱根から来た男」
11「ウールの単衣を着た男」
12「痣」
13「節句村正」
14「黄八丈の寝衣」←A6
15「Nさんの経験」(前半がA11「二ツ人魂」と同趣向だが細部に差異あり)
16「兜鉢」←A4
17「後妻」
18「影二題」(前半「竹田の幅」がA8「離家の人影」と同趣向だが細部に差異あり)
19「夢の小布」
20「ある下足番の話」(A12「下足番の話」と同趣向だが細部に差異あり)
21「幽霊蕎麦」
作者の杉村顕道(すぎむら・けんどう)は1904年(明治37年)、東京生まれ。すごく昔の人のように思えるが、意外なことに平成の世まで存命だった。没年は1999年(平成11年)。割と最近なのである。
父は戸山脳病院(大正期に人体実験まがいの移植手術を実行したことで、その筋では有名)の創立者、杉村正謙。同病院を継いだのは、警視庁に勤務していたこともある杉村幹(杉村顕道の兄弟)。その息子(つまり顕道の甥)は国立がんセンター名誉総長の杉村隆。以上が、医学系の血筋。
芸術系の血筋としては、まず顕道の兄で洋画家の杉村惇。その息子(つまり顕道の甥)は江戸手描き友禅の染色作家の杉村豊。
顕道は、本名杉村顕(すぎむら・あきら)。教育者として長野、樺太、秋田、宮城など各地の学校に勤めつつ、作家としても活動した。
その後、宮城県で精神障害者救護会の常任理事を務める。宮城県教育文化功労者、宮城県芸術協会理事長。
「杉村顕道」以外には「杉村彩雨」の号も用いた。それで『箱根から来た男』には「彩雨亭鬼談」というツノ書きが付されていたんですな。
著書は他に『日本名医伝』(擁光廬/1953年)など。杉村顕名義では『信州の口碑と伝説』(信濃郷土誌刊行会/1933年→郷土出版社/1985年)がある。杉村彩雨名義では『冬椿』(山鳴社/1961年)など俳句集多数。
『信州の口碑と伝説』の巻末には、同じ信濃郷土誌刊行会からの近刊として、杉村顕『信州百物語』の広告が載っていた。ハテ、そんな著書の情報はなかったが……と調べてみると、翌年の1934年に信濃郷土誌刊行会編で『信州百物語 信濃怪奇傳説集』という本が出ていることが判明。これも杉村顕の著書なのか。現物で確認してみたいが、どこかの古本屋に出ていないかなあ……とネットで検索してみたら、北原尚彦のサイトがヒット。自分で持ってるじゃないか!
更にはごく最近、『信州百物語』の初版を入手した(所持本は重版だったのです)。初版はタイトルが微妙に異なり『怪奇伝説 信州百物語』であった。再版の際に改題したらしい。しかも序文が全く異なり、こちらでは『信州の口碑と伝説』出版後に執筆依頼を受けたものの、長野から樺太へ移り住んだために完成が遅れたことなどが書かれていて、文末には「顕しるす」とある。やっぱり、杉村顕道の作で間違いなかったんだ!
この杉村顕道、今ではほとんど知られていない作家だが、怪奇小説アンソロジーには作品が幾つか再録されている。
中島河太郎・紀田順一郎編『現代怪奇小説集1』
紀田順一郎編『現代怪談傑作集』
しかし『怪談十五夜』も『箱根から来た男』も、かなりのレア本。読んでみたい、という方に申し訳ないなあ……と思っていたら、なんと驚くべきニュースが。杉村顕道の怪談作品集成が刊行される、というのだ! それも『怪談十五夜』『箱根から来た男』だけでなく、『信州百物語』も入るという。
版元は、『X橋付近』を刊行して高城高再評価の機運を作った荒蝦夷(あらえみし)。荒蝦夷といえば東北の出版社なので、杉村顕道を出すのもナットクだ。
というわけで、杉村顕道の怪談を読んでみたくなった方は、お楽しみに。
それにしても今回は、どんなものでも「欲しいなあ」と思い続けていれば、いつかは手に入るのだな、とつくづく思った次第。他にも欲しい本はアレとソレとか幾らでもあるので、焦らずに探求し続けようと思います。
●北原尚彦「SF奇書天外REACT」の連載記事を読む。
【
第1回|第2回|第3回|第4回|第5回|第6回】
■ 北原尚彦(きたはら・なおひこ)
1962年東京都生まれ。青山学院大学理工学部物理学科卒。作家、評論家、翻訳家。日本推理作家協会、日本SF作家クラブ会員。横田順彌、長山靖生、牧眞司氏らを擁する日本古典SF研究会では会長をつとめる。〈本の雑誌〉ほかで古書関係の研究記事を長年にわたり執筆。主な著作に、短編集『首吊少女亭』
●北原尚彦『SF奇書天外』の「はしがき」を読む。
- バックナンバー
- 北原尚彦「南沢十七は異星でもハチャメチャ!『天外魔境』」――SF奇書天外REACT【第18回】(1/2)[2011年12月]
- 松崎有理『あがり』収録作品の人気投票結果および著者からの「粗品」当選者発表[2011年12月]
- 【特別寄稿】高橋良平「墓碑銘2011年――岡田正哉さんの思い出に」(1/2)[2011年12月]
- 北原尚彦「知られざるSF新人賞受賞作『無意識の底で』」――SF奇書天外REACT【第17回】(1/2)[2011年11月]
- 北原尚彦「聞いたこともなかった児童SF『正義のロボット』」――SF奇書天外REACT【第16回】(1/2)[2011年10月]
- 松崎有理『あがり』収録作品の人気投票を実施します[2011年9月]
- 「平田真夫/森山安雄の挑戦――ゲームブック『展覧会の絵』から小説『水の中、光の底』へ」平田真夫/森山安雄×岡和田晃(1/4)[2011年9月]
- 高野史緒『時間はだれも待ってくれない 21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集』(高野史緒編)序文[2011年9月]
- 北原尚彦「原子が少年になっちゃった『アトミーノは戦争がきらい』」――SF奇書天外REACT【第15回】(1/2)[2011年9月]
- 北原尚彦「知られざる静岡SF作家・杉山恵一」――SF奇書天外REACT【第14回】(1/2)[2011年8月]
- 日下三蔵『結晶銀河 年刊日本SF傑作選』(大森望・日下三蔵編)序文[2011年7月]
- 『異星人の郷』2011年度星雲賞受賞のことば[2011年6月]
- 北原尚彦「実はSF含有率が高かった「原爆児童文学集」(後篇)」――SF奇書天外REACT【第13回】(1/2)[2011年7月]
- 北原尚彦「実はSF含有率が高かった「原爆児童文学集」(前篇)」――SF奇書天外REACT【第12回】(1/2)[2011年6月]
- 北原尚彦「三種コンボ先取り! 科学博で刊行の『象昆鳥』」――SF奇書天外REACT【第11回】(1/2)[2011年5月]
- 堺三保/ロバート・チャールズ・ウィルスン『クロノリス─時の碑─』解説[2011年5月](1/2)
- 『原色の想像力 創元SF短編賞アンソロジー』人気投票結果を発表します!
- 北原尚彦「ウェルズの時代に書かれたゴルフSF『21世紀のゴルフ』 」――SF奇書天外REACT【第10回】(1/2)[2011年4月]
- 北原尚彦「二十二世紀なのに未来感ほぼゼロの武術SF『合気道小説 神技』」――SF奇書天外REACT【第9回】(1/2)[2011年3月]
- 「ベストSF2010」1位『異星人の郷』マイクル・フリン氏のメッセージ
- 軍人が書いた未来架空戦記SF『血の叫び』は××本だった!――SF奇書天外REACT【第8回】(1/3)[2011年2月]
- 創元社初のSF? 『笑の話』――SF奇書天外REACT【第7回】(1/2)[2011年1月]
- 地方色たっぷりの名古屋ご当地SF『アトランティス名古屋に帰る』――SF奇書天外REACT【第6回】(1/2)[2010年12月]
- 大森望・日下三蔵・山田正紀/『原色の想像力 創元SF短編賞アンソロジー』序[2010年12月]
- 大森望『逃げゆく物語の話 ゼロ年代日本SFベスト集成〈F〉』序 [2010年10月]
- 大森望『ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成〈S〉』序 [2010年10月]
- SF奇書天外REACT【第5回】(1/2)[2010年10月]
- 嶋田洋一/マイクル・フリン『異星人の郷』訳者あとがき[2010年10月]
- 東浩紀「小松左京と未来の問題3」(1/4)
- SF奇書天外REACT【第4回】(1/2)[2010年8月]
- 大森望『量子回廊 年刊日本SF傑作選』(大森望・日下三蔵編)序文[2010年7月]
- SF奇書天外REACT【第3回】(1/2)[2010年6月]
- SF奇書天外REACT【第2回】(1/2)[2010年4月]
- 東浩紀「小松左京と未来の問題2」(1/4)
- 東浩紀「小松左京と未来の問題1」(1/4)
- SF奇書天外REACT【第1回】(1/2)[2009年11月]
- 中村融『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』編者あとがき(1/2)[2009年9月]
- 『時間封鎖』が2009年度星雲賞を受賞![2009年7月]
- 日下三蔵『超弦領域 年刊日本SF傑作選』(大森望・日下三蔵編)序文[2009年6月]
- 発表! 創元SF文庫を代表する1冊は何か?――読者投票によるベスト20結果発表[2009年6月]
- 佐藤龍雄/ネヴィル・シュート『渚にて』訳者あとがき[2009年4月]
- 向井淳/ヴァーナー・ヴィンジ『レインボーズ・エンド』解説[2009年4月]
- 大森望『虚構機関 日本SF傑作選』(大森望・日下三蔵編)序文[2008年12月]
- 眉村卓『消滅の光輪』あとがき[2008年7月]
- 野田昌宏『風前の灯!冥王星ドーム都市』あとがき[2008年6月]
- 新井素子『ひとめあなたに…』あとがき[2008年5月]
- 夢枕獏『遙かなる巨神』まえがき[2008年3月]
- 眉村卓『司政官 全短編』あとがき[2008年1月]
- 山本弘『MM9(エムエムナイン)』[2008年1月]
- 新井素子『グリーン・レクイエム/緑幻想』あとがき[2007年11月]
- 菅浩江『プリズムの瞳』変わるものと変わらないものと[2007年11月]
- 堀 晃『遺跡の声』創元SF文庫版あとがき[2007年9月]
- 北原尚彦『SF奇書天外』はしがき[2007年8月]
- 鏡 明『不確定世界の探偵世界』創元SF文庫版あとがき[2007年7月]
- 川又千秋『幻詩狩り』創元SF文庫版あとがき[2007年5月]
- 菅浩江『シエラ』の頃[2007年3月]
- 堀 晃『バビロニア・ウェーブ』創元SF文庫版あとがき[2007年2月]
- 田中芳樹『銀河英雄伝説』創元SF文庫版に寄せて[2007年2月]
- 鶴田謙二〈キャプテン・フューチャー全集〉完結にあたって[2007年1月]
- 山岸真「グレッグ・イーガン全小説」[2006年3月]
- 中村融/H・G・ウェルズ『宇宙戦争』訳者あとがき[全文][2005年5月]
- 山岸真/グレッグ・イーガン『万物理論』訳者あとがき[部分][2004年10月]
- 創元SF文庫入門――歴史編
- 小隅 黎/完全新訳版レンズマン・シリーズ1 E・E・スミス『銀河パトロール隊』訳者あとがき(部分)[2002年1月]