Scienece Fiction
2011.09.15
「平田真夫/森山安雄の挑戦――ゲームブック『展覧会の絵』から小説『水の中、光の底』へ」平田真夫/森山安雄×岡和田晃(4/4)[2011年9月]
■これから『水の中、光の底』を読む方へ
岡和田 音楽というモチーフについて伺うにつれて、『展覧会の絵』から『水の中、光の底』へ至る平田さんの試行錯誤がなんとなく見えてきました。
しかし『展覧会の絵』のファンの人が、いざ実際に『水の中、光の底』を読むと、あまりの作風の違いに戸惑いを覚えるかも知れません。これから『水の中、光の底』をお読みになる方へのメッセージをお願いします。
平田 じつは「展覧会の絵」という曲はムソルグスキーのなかでは異色作なんです。彼の作品では「禿山の一夜」と並んで有名なものの一つですが、じつはムソルグスキーが最も打ち込んだのは、「蚤の歌」など歌曲の小品だと聞いています。
一人の作曲家でも様々な分野に挑みます。私もかつて〈ポプコム〉の連載や『展覧会の絵』で、ゲームブックという形式(楽式)に挑戦しました。『水の中、光の底』は小説に形を変えましたが、一人の作曲家が歌曲もピアノ曲も交響曲も書くように、私の挑んだ別の形式です。
そしてこれは、あくまで私という一人の人間が「作曲」したものであり、紛れもなくどちらも私の作品です。したがって私がどう楽式を変えようと、必ず私の持つ何物かが現れていると思います。どうかゲーム組曲『展覧会の絵』と同じように、小説組曲『水の中、光の底』をお楽しみいただければと思います。
■おわりに 岡和田晃
平田/森山さんの功績や飽くなき挑戦には遠く及びませんが、私自身、ゲームライティングとSF評論を並行して行なっているため、「楽式」という考え方はとても納得のいくものです。筆名やアプローチは変われど底にある要素は不変であり、楽式の変更そのものに進展の精神が見られるということではないかと思いました。
ゲームと文学の関係性については、私もAnalog Game Studies(アナログ・ゲーム・スタディーズ)というサイト(http://analoggamestudies.seesaa.net/)を通して考えているところです。
平田さんはゲームブックを「ルールのある小説」としてとらえ、『展覧会の絵』から25年の時を経て、単行本としての第2作『水の中、光の底』を完成されました。方法論こそ異なれど、両者に繋がる実験精神には目を瞠るものがあります。
2000年頃、文芸批評や映画批評の領域からルドロジーが生み出されたように、近年、ゲーム的な方法論は、それ自体固有の方法論として、その価値が認められるようになってきています。こう考えた場合、02年に『展覧会の絵』が読者の熱い要望によって復刊されたことには固有の意義があると思います。そして11年の『水の中、光の底』をプログレッシヴ・ロック、シュルレアリスム、あるいはルドロジーの方法論等で読み替えることで、新たな解釈や創作の方法論が垣間見えるかもしれません。
ぜひ、『展覧会の絵』を、『水の中、光の底』を読んでみてください。すでにお読みの方は、あなたなりの切り口で再読(リ・リーディング)をしていただければと思います。
平田真夫さんの、今後ますますのご健筆を祈念させていただきます。
●特別付録
YOUCHAN(『水の中、光の底』カバーイラストレーター)からのコメント
『水の中、光の底』の装画を担当した旨をSNSの日記で報告した際、巽孝之教授が「平田さんって、プログレの人でしょ?」とコメントされたのですが、まさに平田さんは「音楽の人」でありました。いえ、芸術の人といいましょうか。わたし自身、音楽や文学への憧れを絵にしてそれを個展で発表する試みを数年続けておりますが、奇しくも平田さんは、それを文学の世界で表現なさっておられたんですね。岡和田さんとの対談を拝読して感激いたしました。平田さんにとって大切な文芸作品第1弾の装画に、わたしを抜擢してくださった小浜さんに、改めて感謝を。そして平田さん、文芸作品の第2弾、第3弾を、1ファンとして楽しみに待っています。末永いご活躍を期待して。
(トゴル・カンパニー http://www.togoru.net/)
■ 平田真夫(ひらた・まさお)
1958年1月6日、東京都生まれ。83年、東京工業大学大学院理工学研究科化学専攻修士修了。在学中は東京工業大学SF研究会に所属。84年、日本SF大会EZOCON2主催の小説賞「エゾコンSFコンテスト」に「マイ・レディ・グリーン・スリーヴス」が入選し〈SFマガジン〉に掲載された。86年、小学館発行のパソコン雑誌〈ポプコム〉にアドベンチャーゲームを連載。87年には、森山安雄名義でゲームブック『展覧会の絵』(創元推理文庫)を発表。同書は当時刊行されていた社会思想社発行のゲームブック専門誌〈ウォーロック〉誌上で毎月開催された「読者による人気投票」の第1位を長らく獲得しつづけた。2011年3月発売の『水の中、光の底』は、文芸書での初めての書籍となった。公式サイト「アトリエ平田工房」(http://www.hirata-koubou.com/)。
■ 岡和田晃(おかわだ・あきら)
1981年、北海道生まれ。2004年、早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。2010年「「世界内戦」とわずかな希望――伊藤計劃『虐殺器官』へ向き合うために」で第5回日本SF評論賞優秀賞を受賞。ほかに、佐藤亜紀『ミノタウロス』解説(講談社文庫)、「柴野拓美のメソドロジー――『「集団理性」の提唱』再読」(〈SF Japan〉2010 Autumn)、「救済なき救済の相(かたち)――《新しい太陽の書》小論」(〈SFマガジン〉2011年9月号)等。またRPG《ダンジョンズ&ドラゴンズ》、《ウォーハンマーRPG》シリーズの翻訳・紹介を手がける。現在〈Role&Roll〉誌上で「戦鎚傭兵団の中世“非”幻想事典」を連載中。新たなプロジェクト「Analog Game Studies」(http://analoggamestudies.seesaa.net/)を主宰。
(2011年9月15日)
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