Science Fiction

2013.03.05

大森望/『星雲賞短編SF傑作選 てのひらの宇宙』編者序文[2013年3月]

星雲賞の歴史は日本SFの歴史。
星雲賞とともに、日本SFの歩みをこの一冊で
ごゆるりと追体験してください。

大森望 nozomi OHMORI


 史上初の星雲賞受賞作傑作選をお届けする。
 で、その星雲賞ってなに? という方のために簡単に説明すると、これは、日本SF大会の参加者(正確には参加登録者)が毎年投票で選ぶ読者賞。お金を払って参加したファンの投票で一位(受賞作)が決まるという意味では、AKB総選挙のSF版みたいなもんですね(規模は千分の一以下ですが)。
 本屋大賞が創設されたとき、(プロの作家や評論家ではなく)読者に近い立場の書店員が選ぶ賞として脚光を浴びましたが、SFの世界では、はるか昔から――プロが選ぶ賞ができる前に――読者が選ぶ賞がつくられ、受賞作を出してきたのである(星雲賞は一九七〇年、日本SF作家クラブが主催する日本SF大賞は一九八〇年の創設)。
 といっても、ゼロからとつぜん生まれたのではなく、星雲賞のお手本は、世界SF大会(ワールドコン)参加登録者の投票で選ばれるヒューゴー賞。アカデミー賞などと同じく、ヒューゴー賞は細かく部門が分かれてますが(現在は十六部門)、それをモデルにした星雲賞にも、二〇一三年現在、全部で九つの部門があり(日本長編、日本短編、海外長編、海外短編、メディア、コミック、アート、ノンフィクション、自由)、いわゆる文学賞とはかなり性格が違う。授賞対象もSF作品とは限らないから、その年、SFファンがもっとも高く評価したもの(人物を含む)を顕彰する賞――というくらいでしょうか。
 ファン投票で決まるだけに、蓋を開けてみると、「どうしてこうなった」的な結果だったことも少なくない。わたし自身、血気盛んなSFマニアだった学生時代には、「こんな愚作が受賞するとは、星雲賞許すまじ!」と怒り狂ったこともありました(とくに海外部門)。よく言えばなんでもあり、悪く言えば無定見・無節操なかわりに、その時々の流行やSFファンの気分がわりあいストレートに反映されている。だからこそ、歴代受賞作を眺めていると、さまざまな感慨が湧いてくるわけです。
 ところが、星雲賞創設から四十年余を経ると、小説部門の受賞作でも、現在、新刊書店で手に入りにくくなっているものがけっこう多い。双葉文庫の《日本推理作家協会賞受賞作全集》のような星雲賞全集を出すのはハードルが高いとしても、日本短編部門の受賞作を集めたアンソロジーならなんとかなりそうだし、それなりに意味もあるんじゃないか――と思い立ったところから本書の企画がスタートした。
 考えてみれば、子供の頃は《ハヤカワ・SF・シリーズ》の『ヒューゴー賞傑作集』全二巻や講談社文庫の『ヒューゴー・ウィナーズ 世界SF大賞傑作選』全八巻(うち第三巻は未刊/ともにアイザック・アシモフ編)を読みふけっていたし、大学時代はファンジンに翻訳する作品を探して、ネビュラ賞傑作選(Nebula Award Stories)のペーパーバックをぱらぱら拾い読みしていた。アメリカSF界では、受賞作アンソロジーは定番の人気企画なのである。
 ところが、日本のSFに関しては、いまだかつて一度も、受賞作選集に類するものが刊行されたことはない。これはもう、ぜひとも星雲賞傑作選を出さなければ――と考えて、ラインナップの検討をはじめたのは二〇一一年五月。あらためて作品を揃えてみると、短編部門の歴代受賞作には、山田正紀『神狩り』(SFマガジン掲載版)を筆頭に、新井素子「ネプチューン」、小川一水「漂った男」、高千穂遙「ダーティペアの大冒険」など、文庫にして百ページを超える中編がごろごろあり、それを入れはじめたら、とても一冊では収まらない。さらに、最近の受賞作に関しては、文庫の短編集やアンソロジーで簡単に手に入るものが多い。そこで、当初は二巻本バージョンや五巻本の短編全集も検討したものの、最終的には、“二〇世紀”の(ノヴェラを除く)“短編”に限定した一巻本の傑作選とすることで、ごらんのかたちに落ち着いた。ちなみに、選択基準は以下の通り。
 (1)一作家一作品。
 (2)一作の分量は、四百字詰め原稿用紙にしておおむね七十枚以内。
 (3)一九七〇─二〇〇〇年の受賞作から選ぶ。
 (4)同一作家の受賞作が複数あるときは、現在、手に入りにくいものを優先する。
 (5)全体のページ数はおおむね四百五十ページ以内とする。
 この原則を決めたことで、二〇世紀の星雲賞日本短編部門受賞作三十作のうち、本書に収録する作品は、ほぼ自動的に確定した。編者の裁量は、国内短編部門で四度受賞している筒井作品(「フル・ネルソン」「ビタミン」「日本以外全部沈没」「メタモルフォセス群島」)からどれを選ぶかぐらいだが、その点についても、このアンソロジーの性格上、第1回受賞作をはずすわけにはいかないという理由から、あっさり「フル・ネルソン」に決定。とまあ、だいたいそんな感じで集まったのが本書収録の十一作品。再録を快く許可し、「著者のことば」を寄せてくださった作家のみなさんに、この場を借りて感謝を捧げます。ありがとうございました。
 再録アンソロジーの場合、編者の最大の仕事は収録作を選ぶことなんですが、本書に関しては、前述したように、作品選択に編者の主観はほとんど入っていない。作品配列に関しても、受賞作アンソロジーという性格に鑑みて、年代順に並べることにしたので、これまた編者の介入する余地はゼロ。
 だからこそ――というべきか、ゲラになったあと、収録作をあらためて頭から読み直してみると、「うわ、アレのあとにコレが来るのか」とか、「よくもまあ、こんなとんがった作品を星雲賞に選んだなあ」などなど意外性の連続で、新鮮な驚きが味わえた(最近のSFしか知らない若い読者は、いちばん最後から逆順に、時代を遡って読んでいくほうが読みやすいかも)。
 ここで、ラインナップを簡単に紹介しておくと、トップを飾る記念すべき第1回星雲賞日本短編部門受賞作は、シュールな笑いに満ちた筒井康隆の実験的ダイアローグ小説「フル・ネルソン」。長く入手困難だった荒巻義雄の精神医学SF「白壁の文字は夕陽に映える」がそれに続き、巨星・小松左京はロボットSFミステリ「ヴォミーサ」で鮮やかな解決を決める。神林長平の先鋭的な言語SF「言葉使い師」と、谷甲州の本格宇宙戦争SF「火星鉄道(マーシャン・レイルロード)一九」、中井紀夫の奇想が炸裂する壮大な音楽小説「山の上の交響楽」、梶尾真治の風変わりな時間SF「恐竜ラウレンティスの幻視」、菅浩江がおたく文化のリアルを追求した永遠のラブストーリー「そばかすのフィギュア」、大槻ケンヂが本気で小説に挑んだメンヘル幻想SF「くるぐる使い」の六編は、いずれも個人短編集の表題作に選ばれた、それぞれの著者の代表作。そして、ラストを締めくくるのは、ともに個人短編集未収録のパロディSF二連発――草上仁が独自の角度から「冷たい方程式」に挑む「ダイエットの方程式」(今回が初の書籍化です)と、笑いの都にやってきたエイリアンの顛末を大阪生まれの大原まり子が描く「インデペンデンス・デイ・イン・オオサカ(愛はなくとも資本主義)」
 どこがSFなのかと思うようなへんてこな話もあれば、直球ど真ん中の本格SFあり、ダークな幻想小説あれば爆笑ギャグありと、千差万別、いろんな傾向の作品が揃っている。SFファンの好みがさっぱりわからんと首をひねる人もいるでしょうが、この多様性がSF大会のごった煮ぶりを象徴している。そうしたお祭り騒ぎの混沌の中に、なんとなく時代の息吹が感じられるのも面白いところ(なので、創元SF文庫の往年の名アンソロジー、フレドリック・ブラウン&マック・レナルズ編『SFカーニバル』にもオマージュを捧げつつ、『SFフェスティバル』というメインタイトルはどうかと提案したが、編集部にすげなく却下され、現在の無難な題名になりました)。
 結果的に、一九七〇年から星雲賞の投票は欠かしたことがないという古強者から、そんな賞があることをいまはじめて知ったという読者まで、幅広く楽しんでいただけるラインナップになったと思う。星雲賞の歴史は日本SFの歴史。星雲賞とともに、日本SFの歩みをこの一冊でごゆるりと追体験してください。

編者敬白 

(2013年3月)


■大森望(おおもり・のぞみ)
1961年高知県生まれ。京都大学文学部卒。翻訳家、書評家。他の編著にオリジナル・アンソロジー《NOVA》シリーズ、主な著書に『21世紀SF1000』『現代SF1500冊(乱闘編・回天編)』、『特盛! SF翻訳講座』、『狂乱西葛西日記 20世紀remix』、共著に『文学賞メッタ斬り!』シリーズ、主な訳書にウィリス『航路』、ベイリー『時間衝突』ほか多数。



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