Science Fiction
2010.07.05
大森望『量子回廊 年刊日本SF傑作選』(大森望・日下三蔵編)序文[2010年7月]
多士済々の著者たちによるバリエーション豊かなSFが
揃ったんじゃないかと思う。
2009年の日本SFを代表する短編群を、
どうぞごゆっくりお楽しみください。
2009年日本SF界の精華18編に加え、第1回創元SF短編賞受賞作を収録
大森望 nozomi OHMORI
創元SF文庫《年刊日本SF傑作選》の第3集をお届けする。本集には、2009年(奥付に準拠。雑誌は1月号~12月号)に日本語で発表された数多の作品の中から、編者2人(の片方または双方)がこの年の日本SFベストにふさわしいと判断したものを収録した(ただし、作品の質とは関係ない外的な要因から、収録を断念したものもある。事情は後述)。収録作の著者は、過去最多の19人(後述の第1回創元SF短編賞受賞者を含む)。まったくの新人から作家歴49年の大ベテランまで、多士済々の著者たちによるバリエーション豊かなSFが揃ったんじゃないかと思う。ただでさえ高い本だというのに、大幅ページ増を反映して、前2集より値段がさらに上昇し、まことに申し訳ないかぎりですが、お値段分以上の値打ちがある本になったと信じている。
そりゃまあ、編者2人のあいだでさえ鋭く意見が対立するくらいだから、だれにとってもぜんぶ面白いとは申しませんが、「ガチガチのSFは得意じゃないんだけど……」と不安に思う人も、「SFは文学だ!」と信じる人も、「SFはバカ話にかぎる」と考える人も、「宇宙に出なきゃSFじゃない」と主張する人も、それぞれ、なにかしら気に入る作品が見つかるはず。べつだん教科書じゃないので、波長の合わない作品は飛ばしてもらってかまいません。興味の持てそうなものから、ぱらぱら拾い読みしてみてください。
前2集と比べて女性作家が飛躍的に増えたのも今回の特徴で、上田早夕里、高野史緒、森奈津子、皆川博子、小池昌代、最果タヒ、市川春子に、創元SF短編賞受賞者の松崎有理と、合計8人が顔を揃えた(『虚構機関』では3人、『超弦領域』では4人)。ページ数で言うと、女性作家占有率は50パーセント以上。再録に限ると、前半が女性編、後半が男性編という配列に(結果的に)なっているので、“紅白SF合戦”的な観点から読み比べてみるのも一興かもしれない。いやまあ、著者の性別による違いより、個々の作風の違いのほうが圧倒的に大きいと思うんですが、どんなもんでしょうか。
さて、前2集は、さいわい好評をもって迎えられ、『SFが読みたい! 2010年版』(早川書房)の「ベストSF2009国内篇」では、『超弦領域』が7位、『虚構機関』が8位と、仲良くベストテンにランクインした。年間ベストを選んだアンソロジーなんだからあたりまえじゃん! というご意見もありましょうが、ここはポジティヴに、この企画がSF読者に広く受け入れられた証拠だと考えたい。売れ行きのほうもどうにか採算ラインをクリアし、この水準を維持できれば、昨今の出版不況下でも、シリーズとして継続できそうです。読者のみなさまのお引き立てに感謝しつつ、今後ともより一層のご愛顧を。
なお、編者の片割れが責任編集を担当するオール新作のオリジナル・アンソロジー『NOVA1 書き下ろし日本SFコレクション』(河出文庫)に関しては、いくつかの収録作が候補に上がったものの、おそらく読者層がかなり重なるだろうことなどを理由に、本書への再録は最終的に見合わせることになった。星雲賞参考候補作に選ばれている飛浩隆「自生の夢」と藤田雅矢「エンゼルフレンチ」の二作をはじめ、本書に入っていておかしくないレベルの作品がいくつも揃っているので、万が一まだお求めでないかたは、ぜひ本書と併読していただきたい。
同じくSFのオリジナル・アンソロジーでは、早川書房編集部編『神林長平トリビュート』(早川書房)も出ているが、こちらは神林長平デビュー30周年記念企画として、神林チルドレンとも言うべき若手作家たちが神林作品を題材に新作を書き下ろすという企画の性質上、そこから特定の作品をピックアップすることがむずかしく、同様に再録を見送ることとなった。ご寛恕をたまわりたい。その他、枚数など諸般の事情により本書に収録できなかった作品については、前集同様、巻末の「2009日本SF短篇推薦作リスト」に掲載させていただいた。また、2009年のSF界の出来事や注目作に関しては、例年通り、巻末の「2009年の日本SF界概況」にまとめてあるので、あわせて参考にしていただければさいわいです。
最後に、今回からの新企画として、第1回創元SF短編賞の受賞作、松崎有理「あがり」を巻末に収録した。これは、《年刊日本SF傑作選》をきっかけに誕生した、東京創元社主催の新人賞。山田正紀氏をゲスト選考委員に迎えた選考の詳細については巻末の選評を見ていただきたいが、612編におよぶ応募作のレベルの高さは、受賞作を読むだけでも推し量っていただけると思う。惜しくも選に漏れた作品に関しては、オリジナル・アンソロジーとして刊行するプロジェクトが進んでいるので、乞ご期待。
では、2009年の日本SFを代表する短編群を、どうぞごゆっくりお楽しみください。
■大森望(おおもり・のぞみ)
1961年高知県生まれ。京都大学文学部卒。翻訳家、書評家。他の編著にオリジナル・アンソロジー《NOVA》シリーズ、主な著書に『現代SF1500冊(乱闘編・回天編)』、『特盛!SF翻訳講座』、共著に『文学賞メッタ斬り!』シリーズ、主な訳書にウィリス『航路』、ベイリー『時間衝突』ほか多数。
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