Science Fiction

2008.12.05

大森望『虚構機関 日本SF傑作選』(大森望・日下三蔵編)序文[2008年12月]

SFファンのひとりとして、この企画が実現したことを心から喜びたい。
SFは元気です。

年刊日本SF傑作選始動。
2007年日本SF界の収穫、選びぬかれた16編を収録
(08年12月刊『虚構機関 年刊日本SF傑作選』序文)

大森 望 nozomi OHMORI

 

 本書をもって、創元SF文庫版〈年刊日本SF傑作選〉がいよいよ開幕する。
 第1巻となるこの『虚構機関』には、2007年(奥付に準拠。月刊誌では1月号~12月号)に発表された日本のSF(と編者が考える作品)から編者が勝手に選りすぐった16作(連作含む)を収録している。
 2007年は、日本SFのゆりかご〈宇宙塵〉創刊からちょうど50年。日本で初めて世界SF大会が開かれた記念すべき年でもあり、新たな出発点にふさわしい。ちなみに日本SFの総合的な年次傑作選は、筒井康隆編『日本SFベスト集成』以来33年ぶり。編者の手前ミソながら、SFファンのひとりとして、この企画が実現したことを心から喜びたい。SFは元気です。
 1990年代には“冬の時代”と呼ばれるどん底を経験した日本SFだが、今世紀初頭から鮮やかに復活し、いまや見違えるような活況を呈している。小川一水、伊藤計劃、円城塔など、新世紀を担う才能豊かな書き手も続々登場してきた。
 しかし、いま日本SFの最前線で活躍中の作家たちは、星新一、小松左京、筒井康隆、光瀬龍、半村良などの第一世代とくらべると、作品の質はともかく、知名度では遠くおよばない。SF専門誌やSF専門叢書の読者以外にはろくに知られていない名前も多いだろう。本書は、そういう新時代の日本SFの担い手たちを紹介するショーケースでもある。
 もちろんそれだけではない。最近の日本SFはどうなっているのか。いまの日本では、いったいどんなSFが書かれているのか。そもそもSFとは何なのか。そういう疑問に対する答えがこの一冊。目次を見ていただければおわかりのとおり、萩尾望都や堀晃、かんべむさしなどSF界の大ベテランの新作から、新人SF作家の第一短篇、中原昌也や福永信など純文学畑(と見なされている)の作品まで、幅広くとりそろえてあります。
 熱心なSFファンのみならず、「昔は小松左京やクラークを読んでいたけど最近のSFにはご無沙汰で」とか「筒井康隆はかならず読むけど宇宙ものはちょっと……」という人、あるいは「ミルハウザーやエリクソンなら読むけどジャンルSFにはあんまりなじめなくて」という人など、さまざまな読者のニーズに応えられる傑作選をめざしたつもり。ためしに三つ四つ読んでいただければ、かならずや気に入る作品が見つかるはずです。

 さて、第1巻なので、本シリーズ誕生の経緯と編集方針について簡単に説明しておきたい。
 まず、“年刊SF傑作選”というスタイルについて。SF雑誌が多数乱立したアメリカでは、半世紀以上前から、Year's Best(年度別傑作選)形式の年次アンソロジーは何種類も刊行されてきた。草分けは、1949年にスタートしたブライラー&ディクティのThe Best Science Fiction Stories。これにかわって50年代に台頭したのが、創元SF文庫でおなじみのジュディス・メリル編『年刊SF傑作選』だった。ブラッドベリやクラークと並んで、ボルヘスやバーセルミやウイリアム・バロウズを収録する大胆な編集方針が特徴。作品の合間にはアジテーションの効いたメリル節の解説が挿入され、若い読者を魅了した。
 編者のひとりである大森望はこのアンソロジーによって短篇小説のおもしろさに目覚め、ジャンルの枠に縛られないSF観を決定的に植えつけられたくち(川上弘美、柳下毅一郎、山形浩生など、大森と同世代のSF読者は多かれ少なかれメリルに感化されている)。
 その後、ドナルド・A・ウォルハイム&テリー・カー編(のちにはそれぞれが独立し、別々の出版社からそれぞれの傑作選を刊行)や、いまも続くガードナー・ドゾワ編(ものすごく分厚い)、デイヴィッド・ハートウェル編(途中からキャスリン・クレイマーと共編)など、さまざまな年次SF傑作選が出ているが、大森にとってはメリルこそが心の故郷。東京創元社編集部の小浜徹也からこのアンソロジーの企画を持ちかけられたとき、「創元で出すなら、題名は『年刊日本SF傑作選1』だね」とノータイムで答えたくらいである(最終的に、巻数を入れる案は却下され、収録作と別にそれっぽいメインタイトルをつけることを求められたため、今回は、巻末の伊藤計劃「The Indifference Engine」をなんとなく参照しつつ、山田正紀『エイダ』から拝借した“虚構機関”を題名に選びました。ほら、漢字四文字は創元SF文庫の勝負作の基本だし)。
 一方、日本国内では、冒頭で触れたとおり、筒井康隆編の『日本SFベスト集成』全5巻(『'71年版』『'75年版』)が、唯一の総合的な年次SF傑作選(詳細は、本書巻末の日下三蔵解説を参照)。その最終巻となった『日本SFベスト集成'75』は1976年に刊行された。ジュディス・メリル編『年刊SF傑作選』の最終巻も、同じ76年の刊行。したがって本書は、32年ぶりに復活した“日本SFベスト集成”であると同時に、同じく32年ぶりに復活した創元版“年刊SF傑作選”でもある。
 日下三蔵と大森望の共編ということで、お手本としてまず頭に浮かんだのは、ウォルハイム&カー編のワールズ・ベストSF(65年~68年版が『時のはざま』『忘却の惑星』『追憶売ります』『ホークスビル収容所』のタイトルでハヤカワ文庫SFから邦訳されている)。だとすれば日下がウォルハイムでオレがカーだな、と思ったんですが(めんどくさいので説明は略)、こうしてみると、本シリーズが受け継ぐべきは、ジュディス・メリルと筒井康隆だと考え直した。もしこのふたりが年間ベストを編むとしたらどうなるか――というコンセプトを基本に、『年刊SF傑作選』『日本SFベスト集成』のいいとこどりを試みたわけである。役割分担としては、日下三蔵が筒井康隆で(“SF作家”の作品から秀作を見つけ出し、バランスをとる係)、大森がメリル(どこがSFだかよくわからないものをどさどさ入れる)。『年刊SF傑作選6』の序文で、当のメリルいわく、


 この本は、いわゆるSFばかりを集めたものではありません。
 たしかにSFも何編かは含まれている――と思います(どれが本格的なSFであるかを判定することは年々むずかしくなってゆく――実を言えば、もうそのようなことはあまり試みたくないのです)(吉田誠一訳)

 この精神にのっとって、“なんらかの意味でわたし(大森)がSFだと考える作品”からベストを推薦し、日下三蔵と協議の上で収録作を決定した。おたがいにダメを出し合ったり、これだけはどうしても譲れないと我を張ったりはしたものの、選定作業はおおむね紳士的におこなわれ、さいわい、著者および版元の了解もすんなりと得られて、希望したすべての作品を本書におさめることができた。さらにオマケとして、各篇の著者の書き下ろしあとがきコメントと、「2007年の日本SF界概況」もついてます。
 結果的に、ジャンルSFに対する求心力と遠心力が微妙なバランスを保ち、新しさと古さがうまくブレンドされた内容になった――というのが編者の希望的観測だが、あとは読者諸兄の審判を待ちたい。熱心なSFマニアにとっては、読んだことのある作品が多いだろうが、さすがにぜんぶ読んでいる人はひとりもいないはず(まあ、今回は反則技の未発表作品が入ってるんで当然ですが)。逆に、ふだんSFを読まない人でも、小説好きなら、まったく知らない名前ばかりが並んでいるということはないだろう。おなじみの名前を手がかりに、“2007年現在の日本SF”を探険していただきたい。読む労力と対価に見合う一冊であることは、編者を代表して保証します。では、ごゆるりとお楽しみください。

(2008年12月)

■大森望(おおもり・のぞみ)
1961年高知県生まれ。京都大学文学部卒。翻訳家、書評家。主な著書に『現代SF1500冊(乱闘編・回天編)』、『特盛!SF翻訳講座』、共著に『文学賞メッタ斬り!』シリーズ、主な訳書にウィリス『航路』、ベイリー『時間衝突』ほか多数。

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