Science Fiction

2013.07.05

中村融/『時を生きる種族 ファンタスティック時間SF傑作選』(ヤング、ライバー他/中村融編)編者あとがき[2013年7月]

核になったのはT・L・シャーレッドの「努力」と
マイケル・ムアコックの「時を生きる種族」。
この二作にL・スプレイグ・ディ・キャンプの
「恐竜狩り」が加わったとき、
時間SFというテーマが見えてきた。

中村 融 toru NAKAMURA


 アンソロジーを編む動機は千差万別だろうが、編者の場合は「埋もれている佳作を世に出したい」につきる。とりわけ、雑誌やアンソロジーに載ったきり、再録の機会に恵まれない作品を復活させたいという気持ちが強い。
 これまでもそういう姿勢でアンソロジーを編んできたが、今回はその方針を徹底することにした。つまり、すべてを書籍初収録の作品で固めたのだ。内訳を記せば、初訳二編、二十五年以上も前にいちど雑誌に載ったきりの作品四編、二度にわたって邦訳されたものの、三十五年以上も幻だった作品一編である。
 要するに落穂拾いではないか、と懸念する人のためにいっておこう。これらの作品が忘却の淵にあったのは、中短編が軽視されるわが国の翻訳SF出版事情の弊害。作品の出来が悪かったからではないのだ、と。
 本書でいえば、マイケル・ムアコックのような大家でさえ、シリーズもの以外の短編集は出ていないのが実情だ。ましてや知名度の劣る作家の場合、作品が書籍化されることなど夢のまた夢に近いのだ。
 そういう事態をなんとかしたくて、編者はアンソロジーを編んでいる。本書がたんなる落穂拾いか、それとも「埋もれた佳作」を集めたものか――その判断は読者のみなさんにゆだねよう。

 舞台裏を明かすと、編者の場合、あるテーマが先にあって、それにそった作品を選びだしてアンソロジーを作っているわけではない。復活させたい作品のリストがつねに頭のなかにあって、そのいくつかが組みあわさったときテーマが決まり、あらためて作品探しをはじめるという形が多い。
 本書を例にとると、核になったのはT・L・シャーレッドの「努力」とマイケル・ムアコックの「時を生きる種族」。この二作にL・スプレイグ・ディ・キャンプの「恐竜狩り」が加わったとき、時間SFというテーマが見えてきた。
 時間SFについては、すでに『時の娘――ロマンティック時間SF傑作選』(二〇〇九/本文庫)を編んでいたが、それとは性格のちがう作品を集めようと思った。さいわい時間SFは、さまざまなタイプの作品が星の数ほど書かれている。したがって、べつの切り口で時間SFというテーマに挑むのは、やり甲斐のあることに思えたのだ。
 前掲書を上梓したあと、大森望氏が「時間SF傑作選」と銘打った『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』(二〇一〇/ハヤカワ文庫SF)というアンソロジーを編まれたので、それとの重複は避けることにした。じつをいえば、そういう縛りがあったほうが、作品選びは楽しくなる。
 縛りといえば、書籍初収録作品にかぎったせいで、意中の作品がいくつか落ちてしまったことは白状しておこう。とりわけロバート・A・ハインラインの名作「輪廻の蛇」(一九五九)に未練が残ったのは、ここだけの秘密だ。
 余談だが、未訳作品を渉猟している過程で、ミルドレッド・クリンガーマンという作家を再発見したのは、思わぬ収穫だった。〈奇妙な味〉と呼ばれる系統の作品を書かせると、なかなかの腕前だ。機会があれば、今後も紹介をつづけたい。

 各編の作者や作品については、扉裏の解説に記したので、そちらを見てもらいたい。なんだかおかしな「あとがき」になったが、時間SFについて概説をはじめると、本を一冊書かなければならなくなるので、今回は見送った。何卒ご容赦のほどを。

(2013年7月)


■中村融(なかむら・とおる)
1960年生まれ。中央大学卒業。SF・ファンタジイ翻訳家、研究家、アンソロジスト。主な訳書に、ウェルズ『宇宙戦争』『モロー博士の島』、ハワード《新訂版コナン・シリーズ》。主な編著に『影が行く』『地球の静止する日』、《奇想コレクション》シリーズ(河出書房新社)などがある。



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