Science Fiction

2015.07.31

宮澤伊織「SFのSは小文字のs」【第6回創元SF短編賞受賞記念エッセイ】

宮澤伊織 iori MIYAZAWA


 新人賞を経由せずにぬるっとデビューした自分は、これまで賞というものに縁がなかった。
 デビュー前にも長編と短編を何本か書いてはいたが、デビュー作はそのいずれでもない。ライトノベルの作法を実地で勉強しながら書いて、ありがたいことに数冊の本を上梓する機会に恵まれた。
 しかし、今回賞をいただいた「神々の歩法」は、そのデビュー前に書いた中の一つ、およそ12年前の作品が原型になっている。そのためこの短編には、当時の自分の興味や関心がいくつも顔をのぞかせている。デビュー作でもないのに、デビュー作より「若い」部分が多々あるのだ。
 まず、文体がライトノベルではない。翻訳小説で育った身ゆえ、どうしても翻訳調で書いてしまいがちなのだが、これはデビュー時に一度矯正した。いーい? ライトノベルにはライトノベルにふさわしい文体があるの! わかる? そう、漢字をひらいたり、小説を読み慣れてない中高生男子の興味を引く内容にしたり……その……いろいろよ! そういうわけで、ごりごりした文章を書くのは古巣に戻った感じで楽しかった。
 砂漠化した北京を舞台にしようと思ったのは、当時、中国内陸の砂漠化が問題になっていて、北京のすぐそばまで砂漠が迫っているというニュースを見たからだった。明日にも北京が砂に埋もれてしまうぞと言わんばかりだったが、12年経ってまだそうなっていないところを見ると、北京の「すぐそば」というのは案外遠いのかもしれない。中国は広いから、そういうこともあるだろう。
 エフゲニー・ウルマノフの故郷、ウクライナはまだ平和だった。なぜウクライナかというと、こよなく愛するPCゲーム『S.T.A.L.K.E.R.』の舞台だというだけの、実にミーハーな理由だった気がする。
 戦争サイボーグ(ウォーボーグ)というネーミングは気に入っていたので、世に出せて嬉しい。もう既にあったら申し訳ないが、少なくとも、メジャータイトルでは先を越されていないと思う。あったとしても聞きたくないし、ぐぐるつもりもない。放っておいてくれ。なぜサイボーグの兵士を出したかというと、『アップルシード』の戦闘サイボーグが大好きなのに、士郎正宗先生が続きを描いてくれないからだ。自給自足である。
 発狂した高次幾何存在の設定は、友人の齋藤高吉(冒険企画局)が作った同人TRPG『墜落世界』に大きな影響を受けている。このTRPGの舞台は、やたらと宇宙船が墜落してくる惑星だ。惑星の住人は墜落船の残骸をスカベンジして生きているのだが、墜落船の乗員はなぜか例外なく発狂しており、襲いかかってくる。あなたの知っているSFの宇宙船をなんでもいいから思い浮かべてほしい。それが墜落してきて、乗員がみんな泡を吹きながら飛びかかってくるのだ。どうです面白そうでしょう。この「墜落異星人が発狂している」という設定がやたらに好みだったので、やられたぜ、と思いながら、自分なりに書くならどうすればいいかと考えたのだった。
 ニーナのキャラクターは、神保町の中古CD屋で見たかっこいいジャケット写真がアイデア元だ。エスニックなアンクレットをつけた女性の裸足が、炎をまとって上から降りてきている……というものだった気がするが、もう記憶が曖昧である。見たのも15年ほど昔で、誰のなんというCDだったかすら憶えていない。そもそも本当にそんな写真だったかも自信がない。わからない……何もかもわからない。ともかくその、存在したかも判然としないジャケ写からニーナが生まれたような気がする。
 何が言いたいかというと、今回の受賞作、本人的にはかなり初々しい気分であり、新人のドキドキ感を味わっているのだ。なにしろ12年前の自分が衆目に晒されるわけである。応募に際して全面改稿したとはいえ、消しようもなく残っているのだ、いろいろと……。

 ライトノベルのことも書いておこう。デビュー作は2011年の『僕の魔剣が、うるさい件について』(角川スニーカー文庫)になる。この作品は現代を舞台に、SF作品の銘のついた魔剣で有象無象が斬り合う異能バトルだ。日本刀《夜来たる》、レイピア《凍月》、セスタス《象られた力》などなど。《鉄暁》には「アイアン・サンライズ」とルビをふった。《雷機》は「ブロントメク」、《仇医》は「ドクター・アダー」だ。超かっこいい! ひと様の小説タイトルで好き放題遊んですみませんでした!
 デビュー作でこういうことをやったのは、名乗りを上げたつもりだったのだ。自分はこれこれこういうところから出てきて、だいたいこんなことをするつもりなので、どうぞよろしく……と。
 出自を明確にしたのには、もう一つ目的があった。自分が書きたいものが書ける環境を作るためだ。自分の作品をきっかけに、SFを読んでくれる人が少しでも増えれば、好きなものを書けるようになる可能性が高くなる。ある種のイカがインクによって自分のナワバリを広げていくように、作家は商業出版のフィールドに色を塗って、自分の生息環境を広げていけるはずだと考えたのだ。
 『僕の魔剣~』が四巻で完結した後に書いた『ウは宇宙ヤバイのウ!』(一迅社文庫)は、『銀河ヒッチハイク・ガイド』みたいなコメディをライトノベルでやれないかと思って書いたSFである。書いていて楽しかったし、面白く仕上がったし、イラストも上品で、表紙やロゴのデザインも美しく、読んでくれた人の評判もすごくよかった。わっほい。気をよくしていたら、なんとぜんぜん売れてないことがわかった。愕然である。その後雑誌と、なんと新聞でも紹介してもらったのだが、発売後一~二週間の売上が悪かったためか、申し訳ないことにせっかくいただいたお褒めの言葉を次に繋げることができなかった。そういうわけで、「次はファンタジーでお願いします」ということになった。その次は「ラブコメでお願いします……」ということになった。いろんなジャンルの小説を書くことができて、それはそれで面白かったのだが、SFを続けられなかったのは残念だった。
 とはいえそれほど悲観もしなかった。『宇宙ヤバイ』は、中身は面白いし、いい本にしてもらったし、そのうちいっぱい売れるべえと思っている。本来、小説という媒体のタイムスケールは、発売後一~二週間よりもっと長いのだ。『僕の魔剣~』も、殺伐近接武器バトルを喜んでくれる読者の元にぼちぼち届いて、再版されたりするだろう。そのくらいの楽観はしている。
 しかし、困ることは困る。本が売れないと、次の作品を書かせてもらえないのだ。書かせてもらっても部数が落ちるし、部数が落ちると書店の棚に並ばなくなる。こいつはよろしくねえな。好きなものを書こう。小説を仕事にしていると忘れがちだが、依頼がないものを書いちゃダメなんて決まりはないのだ。創元SF短編賞に応募したのはそういう経緯があってのことだった。おかげさまで、幸い、賞をいただくことができた。本当によかった。ありがとうございます。
 なんだか馬鹿みたいな感想だが、賞というのはすごいものだなあと思った。冒頭に述べたとおり、新人賞を取らずにデビューしたのであまりピンと来ていなかったが、いざ受賞してみると、これがどれだけ勇気づけられるものだったか……。なんか俺ダメかなあと思ってたけど、もうちょっと書いてていいんですね、わーい。という気分になる。しかも自分が好きなSFである。超うれしいのである。
 自分の作風はかっちりしたサイエンス・フィクションと言うにはいささかいい加減なので、SFのSは小文字のsくらいにしておいた方がいい気がするが、これからもなるべく面白いSFを書いていきたいと思っている。ので、どうぞよろしくお願いします。


(2015年8月5日)


■ 宮澤伊織(みやざわ・いおり)
秋田県出身、東京都練馬区在住の作家。『僕の魔剣が、うるさい件について』(角川スニーカー文庫)で2011年にデビュー。以後、『ウは宇宙ヤバイのウ!』『不本意ながらも魔法使い』(以上、一迅社文庫)などのライトノベルを執筆。冒険企画局に所属し、「魚蹴」名義で、『サタスペ』『インセイン』(以上、新紀元社)などTRPGの世界設定やリプレイなども手がけている。



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