Science Fiction

2013.01.08

牧眞司/『スペース・オペラ名作選 太陽系無宿/お祖母ちゃんと宇宙海賊』(野田昌宏・編訳)解説全文[2013年1月]

「宇宙を馳せる想像力、あるいは紙屑(パルプ)の夢」
(2013年1月刊『スペース・オペラ名作選 太陽系無宿/お祖母ちゃんと宇宙海賊』解説[全文])

牧 眞司 shinji MAKI


 本書は、野田昌宏さんが腕によりをかけて編んだ、二冊のスペース・オペラ・アンソロジーを合本で再刊したものである。原本のうちの一冊目『太陽系無宿』は一九七二年二月にハヤカワSF文庫(現在はハヤカワ文庫SF)49番として、二冊目『お祖母ちゃんと宇宙海賊』は同年四月に同文庫55番として刊行された。当時、早川書房のSFラインで采配を振った森優編集長(現在は南山宏名義で活躍)が「立川文庫のSF版」を目ざしたというように、ハヤカワSF文庫は娯楽路線を強調してスペース・オペラ、ヒロイック・ファンタジイ、冒険SFを矢継ぎ早に刊行。エンターテインメントとして読者を惹きつけやすいのは同一主人公ないし同一設定による物語であり、実際、同文庫もほとんどが長編や連作だった。そのなか初めてのアンソロジーとしてこの二冊が送りだされたのである。
 もちろん、それまでも先行の叢書《ハヤカワ・SF・シリーズ》などでアンソロジーは何冊も出ていた。海外で編まれたものの翻訳もあれば、日本で独自に作品選択したものもある。ただし、その多くはベスト集成やSF入門編を意図しており(詰めあわせパック的な安易な編集のものもあったが)、「スペース・オペラ名作選」のように特定カテゴリに絞ったものは珍しい。それ以前に、読みすてが前提のパルプ雑誌に、価値あるスペース・オペラが埋もれているという発想そのものが、前代未聞だったのだ。スペース・オペラの本場でありSFアンソロジー大国のアメリカでさえ、それまでにそんな試みは見られない。
 イギリスのSF作家ブライアン・W・オールディスが、そのものずばりSpace Operaというアンソロジーを編んだのが一九七四年。画期的な企画として話題をまいたが、野田アンソロジーはそれよりも二年早い。そのうえオールディスの本は、収録作がブラッドベリ「すべての夏をこの一日に」、アシモフ「最後の質問」など、普通の意味でのスペース・オペラではない。
 スペース・オペラという呼称をつくったのはウィルスン・タッカーだ。タッカーは『長く大いなる沈黙』などで知られるSF作家だが、アメリカではむしろ活動的なファンとして名を馳せており、その彼が一九四一年、自身のファンジン〈ル・ゾンビ〉で、はじめてスペース・オペラという言葉を使った。それがファンのあいだに浸透したのだ。四四年発行のSFファン用語辞典『ファンサイクロペディア』には、〔スペース・オペラとは、ウエスタンを飾りたてた粗末なSF小説。銃を撃ちまくるウエスタン映画を“ホース・オペラ”、俗っぽいラジオドラマを“ソープ・オペラ”と呼ぶにちなむ〕とある。そもそもは蔑称だったのだ。
 それが肯定的な意味合いを帯びるようになったのは、ひとつに、前述したオールディスのアンソロジーなどによりこの語の適用範囲が広がったせいだ。もうひとつの要因として、七〇年代後半の映画「スター・ウォーズ」大ヒットに象徴される文化受容の変化がある。それまで子どもっぽいものとして見下されがちだった、大らかな宇宙活劇、SFヒーロー物語が、広い層にあまり抵抗なく受けいれられるようになった。おそらく現時点で英米のSFファンの多くは、スペース・オペラという言葉にネガティヴな印象を受けることがなかろう。二十一世紀に入ってからはチャールズ・ストロス、アレステア・レナルズ、ピーター・F・ハミルトンなど、イギリスの(比較的)若手を中心として「ニュー・スペース・オペラ」などという潮流まであらわれている。まあ、彼らの作品は目が眩むイメージと新奇なジャーゴンが奔流のように繰りだされ、パルプ雑誌のころのスペース・オペラを期待して読むと度肝を抜かれるはめになるが。
 さて、日本ではいささか事情が違っており、はじめからスペース・オペラは「楽しい読みもの」として、それなりに歓迎されてきた。その功績はほかならぬ野田昌宏さんにある。〈SFマガジン〉に『SF英雄群像』を連載して(一九六三年九月号─六五年五月号)以来、折に触れてスペース・オペラの醍醐味を喧伝しつづけた。
 さて、本書の収録作品それぞれについて簡単にふれていこう。

●「鉄の神経お許しを」エドモンド・ハミルトン
 主要舞台は冥王星第四衛星ディス。この作品の執筆当時、冥王星に衛星の所在は確認されていなかったが、そんなことはスペース・オペラには関係ない。そのディスで鉱石採掘用の半自動機械に不具合が生じていた。その調査に赴いたのが、太陽系の平和を守るフューチャーメンのひとりグラッグである。怪力無双の鉄人ロボットながら、繊細な神経の持ち主(自称)である彼は、抑鬱症状に悩まされており、精神科医から他人のいない土地での療養を勧められていたのだ。大真面目なグラッグの独り語りがなんともユーモラスだ。
 SFファンにはすっかりおなじみの《キャプテン・フューチャー》シリーズの一編。同シリーズは一九四〇年に季刊の〈キャプテン・フューチャー〉誌(シリーズ長編を柱として作品設定関連の記事やシリーズ以外の短編を併載)に初登場し、五一年までに二十長編、七中編が発表された。日本では人気のあるシリーズだが、本国アメリカではリプリントの機会が薄く、現役読者にはほとんど読まれていない。二〇〇九年からハフナー・プレスというSF専門スモール・プレスが一巻に四長編を収めた全集の刊行をはじめているが(現在、第三巻を準備中)、これはあくまで愛好家向けの少部数出版だ。もっとも実際に読まれていなくとも、キャプテン・フューチャーの知名度は高く、アレン・スティールが一九九五年に「キャプテン・フューチャーの死」というパロディ(あるいはトリビュート)中編を書いてヒューゴー賞を受賞している。つまり《キャプテン・フューチャー》はスペース・オペラの代名詞なのだ。
 このシリーズは一部をのぞきエドモンド・ハミルトンの作品だが、「鉄の神経お許しを」を含む中編については大半を夫人のリイ・ブラケットが代作していたとも伝えられる。ハミルトン(一九〇四─七七)、ブラケット(一九一五─七八)ともにスペース・オペラを語るうえで抜きにできぬ巨星。邦訳書も多く出ているので経歴などはそちらを参照されたい。

●「大作〈破滅の惑星〉撮影始末記」ヘンリー・カットナー
 舞台は月。映画製作会社ナイン・プラネッツは、冥王星を舞台にした冒険小説「破滅の惑星」の映画化を進めていた。リアルな迫力を目ざしているが、放射能を帯びた冥王星にロケにはいけない。代替案として、月の地下洞窟にセットを組み、そこへ実際の冥王星怪物を持ちこんだのだが、万全なはずの遠隔操縦が効かなくなり出演者とスタッフが危機に陥る。剣呑な宇宙生物の生態がハイライトだが、映画業界の舞台裏も絡めて軽妙なタッチに仕上げている。
《月世界ハリウッド》は、一九三八年から四七年にかけ〈スリリング・ワンダー・ストーリーズ〉に六編が発表された(野田さんの解説では七編となっているが、この数字は資料によってまちまちで八編とするものもある)。長らく雑誌に埋もれたままになっていたが、前述のハフナー・プレスが刊行する愛蔵本Hollywood on the Moon/Man About Time: The Pete Manx Adventuresに収められることになった(本書と同じころに出版の予定)。これはカットナー《月世界ハリウッド》とアーサー・K・バーンズ《ピート・マンクス》、両シリーズをまとめたもの。ちなみにこの本でも《月世界ハリウッド》は全六編という扱いだ。
 このハフナーの企画からもうかがえるようにカットナーとバーンズは結びつきがあり、《月世界ハリウッド》にも二編の合作がある。ナイン・プラネッツ映画の面々と、バーンズが生みだしたヒロイン「生け捕りカーライル」とが共演する趣向で、そのうちの一編「アルマッセン彗星」はバーンズ『惑星間の狩人』(創元SF文庫)で読むことができる。作者ヘンリー・カットナー(一九一五─五八)は、日本では「ボロゴーヴはミムジイ」などのアイデア・ストーリーで人気が高いが、夫人C・L・ムーアと合作をはじめる以前は職人的なパルプ小説家だった。本作もそのころの作品。

●「月面植物殺人事件」フランク・ベルナップ・ロング
 舞台は月面最大のアペニン山脈の麓にある豪華邸宅。アマチュア植物学者でもある富豪グリースンが不審死をとげ、招待客として居合わせた太陽系植物園園長カーステアズが捜査に乗りだす。数人の容疑者はそれぞれに動機があるものの、犯行の方法がわからない。グリースンご自慢の標本、移動性希少植物フラリフラリの挙動がおかしいのも気にかかるが、通常これが人間に害をなすことはない。はたしてカーステアズは謎を解けるか? パルプ雑誌初期から疑似科学的な探偵小説はいくつも書かれてきたが、探偵が植物学者というのは珍しい。シニカルなカーステアズと快活な美人秘書ヴェラの組み合わせは、じつにおさだまりで微笑ましい。
《ジョン・カーステアズ》は野田さんの解説にあるように全八編。SFパルプ掲載作品としては珍しく、一九四九年というかなり早い時期に(野田さんの解説では四七年になっているが、四九年が正しいようだ)、ファン出版ではない一般の出版社でハードカバーにまとめられている(収録は六編)。二〇一二年には全八編を収録した新版がオンデマンド出版されている。作者フランク・ベルナップ・ロング(一九〇一─九四)は、こんにちではなによりもH・P・ラヴクラフトの盟友として知られる。とくに「ティンダロスの猟犬」は《クトゥルー》神話のなかで、もっとも人口に膾炙したうちのひとつだろう。

●「太陽系無宿」アンソニイ・ギルモア
 物語が開幕するのは土星の衛星イアペデス。〈鷹〉のカースがこの地に拓いた土着生物の牧場を、無法者どもが虎視眈々と狙っていた。万全の防護策を講じていたつもりだったが、ついに悪の天才クウ・スイ博士の配下である〈鳶〉のジュッドの奸計により、カースの留守中に仲間が皆殺しにされてしまう。復讐を誓い、ジュッドの宇宙船に追いすがるカースと腹心のフライデー。しかし、恐るべき罠が待ちかまえていた! タフガイの主人公が自分なりの美学にこだわって不利を承知の闘いをしたり、悪党があまりにも不注意だったり、ちょっとイディオット・プロットなのだが、それもまあ様式のうちといったところ。
《ホーク・カース》はスペース・オペラの嚆矢とも言うべきシリーズ。それまでもE・E・スミスの《スカイラーク》や、ニール・R・ジョーンズの《ジェイムスン教授》などはあったが、前者はむしろハードSFのプロトタイプであり、後者はガーンズバック流の発明小説の発展形と見なしたほうがよいだろう。《ホーク・カース》は西部劇をそのまま宇宙へ移植しただけ、堂々たる正調スペース・オペラである。このシリーズが誕生した経緯と、作者アンソニイ・ギルモア――ハリイ・ベイツ(一九〇〇─八一)とデズモンド・ホール(一九一一─九二)の合作ペンネーム――については、野田さんの解説を参照いただきたい。


●「夜は千の眼を持つ」ジョン&ドロシー・ド・クーシー
 冒頭は土星の衛星タイタンの酒場。突っかかってきた男をはずみで殺してしまったブレース船長は、その場に居合わせた踊り子を連れて、自分の宇宙船でタイタンを離れる。しかし、すでに捜査がはじまっていた。目撃者である娘と一緒にいるのは都合が悪い。彼女を船外に遺棄してしまえば面倒はなくなるが、ブレースは踏みきれない。葛藤する彼に、いかにも悪辣な商人が娘を自分に売り渡せと持ちかけてくる。派手なアクションのない沈んだ筆致の物語。ハードボイルド系のパルプ小説にありそうな展開だ。
 作者ド・クーシー夫妻については、野田さんが解説で書いている以上のことはわからない。邦訳された作品には本編のほか、秘境冒険SF「アガーチの黄金仮面」(誠文堂新光社刊『アメージング・ストーリーズ日本語版 6』収録)がある。

●「サルガッソー小惑星」フレデリック・A・カムマー・ジュニア
 舞台は太陽系の難所である磁力点(マグネチック・スポット)。ここで消息を絶った恋人の救出に向かったハーラー船長が目にしたのは、その表面に宇宙船の残骸を堆積させたグロテスクな小惑星だった。しかも、この荒涼たる場所に人間が暮らしていた。過去に遭難した人々の末裔ですっかり野蛮化している。はたして恋人の行方は? そして、この宇宙の墓場から抜けだす手立ては?
 作者フレデリック・アーノルド・カムマー・ジュニア(一九一三─九〇)については詳細不明。一九四〇年前後、さまざまなSFパルプ雑誌へ旺盛に寄稿している。映画脚本やミステリの分野で活躍したフレデリック・アーノルド・カムマー(一八七三─一九四三)という作家がいて、おそらく父子関係と思われる。ちょっと調べてみたが確証は得られなかった。

●「お祖母ちゃんと宇宙海賊」ジェイムズ・マッコネル
 物語は豪華宇宙客船〈キスメット号〉ではじまる。主人公のお祖母ちゃんミセス・パーキンスは、家族から邪魔者扱いされ、木星の衛星カリストから地球の老人ホームへ送られているところだった。船内の待遇も良くないが、そこは老女パワーで図太くかつエレガントにふるまっている。そんなところに海賊が襲ってくる。海賊と言っても根っからの悪党ではなく、宇宙航路を独占した大企業のために職を失った弱小スペースマンたちである。ちゃっかり海賊船に乗りこんだお祖母ちゃんは、ありあまる知識と不思議なカリスマ性によって、たちまちリーダーシップを握ってしまう。愉快痛快なユーモアSF。
 作者ジェイムズ・マッコネル(一九二五─九〇)は心理学者。五三年から〈ギャラクシー〉〈ビヨンド・ファンタジイ・フィクション〉〈アザー・ワールズ〉などに短編を発表するが、博士号を得た五七年にSF創作を引退。「お祖母ちゃんと宇宙海賊」以外に、「終身刑」という作品が邦訳されている(新潮文庫刊のアシモフ他編『クリスマス13の戦慄』に収録)。


●「宇宙船上の決闘」ヘンリー・ハス
 冒頭場面は小惑星ケレス。地球人ジョーダンは硅素生物密輸の罪で服役中の弟の無実を証明するため、この宇宙海賊の巣窟に潜伏していた。首尾よく目ざす一味の宇宙船を見つけ、大気圏外に出る間際、窓を破って(!)機関室に侵入。密輸事件の張本人であるターナフに詰めよって、一対一の果たしあいに持ちこむ。決闘の場は船外、道具は原子ピストル一挺。勝者がすべて(積荷、宇宙船自体、無罪、そして生命)を得る一発勝負だ。この作品もまた、西部劇移植式の正調スペース・オペラ。この宇宙船の積荷が因縁の硅素生物というのがポイントで、これがクライマックスのSF的ひねりにもなっている。
 作者ヘンリー・ハス(一九一三─七七)――ハースと表記されることもある――は、SFファンあがりのマイナー作家。もっぱらレイ・ブラッドベリのプロ・デビュー作「振子」の合作者として知られる。それ以外でも他作家との合作が多い。主たる活動時期は三〇年代半ばから五〇年代半ばまで。本作品以外に、ブラッドベリとの合作品を含め数編が邦訳されている。

●「隕石製造団の秘密」ピーター・ハミルトン
 冒頭場面は木星の衛星リリス。地球人のおたずね者ジャックは、木星人スクラドロにスカウトされて札つきギャング、隕石製造団に加わる。この一味は、目標物の周囲に鉄を形成する「くるみ込みビーム」を武器として、全太陽系を制圧しようとしていた。ジャックは腕っ節と向こう気の強さを発揮して、ギャング団の頭領フアルクから一目を置かれるようになる。フアルクの情婦ターナは当初なにかとジャックに突っかかってきたが、だんだんと彼に心を開いていく。独創的な超兵器を配したガジェットSFだが、それぞれいわくつきの過去を引きずったジャックとターナの心の触れあいがひと味添える。
 作者ピーター・ハミルトンについてはまったく資料がなく、生没年も不明。作品も本作だけのようだ。もちろんニュー・スペース・オペラの新鋭ピーター・F・ハミルトンとは別人。

 本書を読んで「スペース・オペラってなかなかいけるね!」と思ったひとには、このサブジャンルのもっともコアな部分として次の作品をお薦めしたい。どれも現在品切れだが、古書で容易に入手できるはずだ。
 アーサー・K・バーンズ『惑星間の狩人』(創元SF文庫)
 リイ・ブラケット『赤い霧のローレライ』(青心社文庫)
 リイ・ブラケット『リアノンの魔剣』(ハヤカワ文庫SF)
 エドモンド・ハミルトン《スターウルフ》シリーズ(ハヤカワ文庫SF)


(2013年1月)



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