Science Fiction

2013.06.05

日下三蔵/『極光星群 年刊日本SF傑作選』(大森望・日下三蔵編)序文[2013年6月]

大森、日下の両編者が挙げてきた推薦作品を合計すると
本書の倍のページ数になる。そこから泣く泣く削って、
このページ数に収めたのである。

日下三蔵 sanzou KUSAKA


 創元SF文庫版《年刊日本SF傑作選》の第六集『極光星群』をお届けする。既刊の五冊と同様、二〇一二年の一月から十二月までに発表(奥付に準拠)された作品の中から、大森望と日下三蔵の二人が「面白いSFだ」と思った作品を選んで収録したものである。

 本書で、ようやく密かに目標にしていた六巻に到達することができた。六冊というのは、つまり、あらゆる点でお手本にしている筒井康隆さんの編による徳間書店の年度別《日本SFベスト集成》の巻数である。あのシリーズに及ぶかどうかは心もとないにしても、巻数だけはなんとか追いついたわけだ。これからも読者の皆さまの支持をいただけるかぎり、なるべく長くSF短篇の定点観測を続けてアンソロジーにまとめていきたいと思っているので、引き続いてのご愛読をお願いいたします。

 二〇一三年は、日本SF作家クラブの創立五十周年に当たることもあり、国産SFのアンソロジーが十冊以上も刊行されることになっている。まず、日本SF作家クラブ編の企画として、ハヤカワ文庫から『日本SF短篇50』(全5巻)が出ている(二月から隔月で刊行)。これは、北原尚彦、日下三蔵、星敬、山岸真の四名が、一九六三年から二〇一二年までの各年度を代表するSF短篇五十作を選び、十作ずつまとめて刊行するもの。物故者も含めたSF作家クラブ員の作品を対象としているが、収録するのは一作家につき一作のみという制約を課したため、選考作業はパズルの様相を呈した。無事に配本が始まって感無量である。
 日本SF作家クラブ編のアンソロジーではもう一冊、新井素子、上田早夕里、冲方丁、今野敏、堀晃、山田正紀、夢枕獏、吉川良太郎、山本弘、宮部みゆき、瀬名秀明、小林泰三という豪華メンバーによるオール書下しの『SF JACK』が、三月に角川書店から刊行されている。
 前述の筒井アンソロジーのうち『60年代日本SFベスト集成』が、三月にちくま文庫から再刊された。売れ行き次第では続刊もありうるようだ。大森望編の《NOVA 書き下ろし日本SFコレクション》(河出文庫)は一月に『9』を刊行。年内に出る『10』で、とりあえず一区切りになるという。大森さんは三月にも創元SF文庫から「星雲賞短編SF傑作選」と銘打った『てのひらの宇宙』を刊行している。
 編者の都合で二巻までで刊行がとまって各方面にご迷惑をおかけしている出版芸術社の《日本SF全集》も、年内には三巻と四巻を出すべく作業を進めています。
 光文社からは同社の往年の専門誌の名前を冠した書下しアンソロジー『SF宝石』が八月に刊行される。
 もちろん創元SF文庫からは、この年刊日本SF傑作選『極光星群』が六月には出ているはずだし、本書に追い抜かれた『原色の想像力3』も、それほど間をおかずに刊行される予定である。第三回創元SF短編賞から、大森望賞の皆月蒼葉「テラの水槽」、日下三蔵賞の舟里映「頭山」、飛浩隆賞の渡邊利道「エヌ氏」、優秀賞のオキシタケヒコ「プロメテウスの晩餐」が収録されるほか、「〈すべての夢|果てる地で〉」で短編賞を受賞した理山貞二さんの受賞第一作も加わって、実に密度の高い一冊になっております。

 さて、新旧取り混ぜたSF短篇をたっぷりと楽しめる今年に比べて、昨二〇一二年の短篇の状況はというと、発表媒体という点で、やや寂しかったといわざるを得ない。徳間書店の〈SF Japan〉は前年に休刊しており、良質のSF短篇が多い井上雅彦編の《異形コレクション》も二〇一二年には刊行がなかった。《NOVA》は『7』と『8』が出ているものの、例によって本書に採るのは遠慮している。〈SFマガジン〉にはかなりの短篇が載ったが、連作シリーズだったり、百枚以上と中篇のボリュームがあったりで、それほど多くは採れなかった。
 では不作だったのか、というとそんなことはなく、大森、日下の両編者が挙げてきた推薦作品を合計すると本書の倍のページ数になる。そこから泣く泣く削って、このページ数に収めたのである。つまり、まったくちがう作品で、もう一冊の傑作選が編めるだけの収穫があったということだ。
 二〇一二年には中間小説誌としては久しぶりに〈小説現代〉と〈小説新潮〉がSF特集を組んでおり、その他にも一般文芸誌にSF作品が掲載されたのが目立った。本書の収録作品を見ても、前述の二誌に加えて〈小説野性時代〉〈読楽〉がある。専門誌が〈SFマガジン〉のみという現状にあっては、大いに歓迎すべき傾向といえるだろう。
 SFの発表媒体は小説雑誌だけでなく、書下しアンソロジー、Webマガジン、マンガ雑誌、同人誌と多岐にわたっており、これからも幅広く目配りして面白い作品を見つけていきたい。

 なお、今回のタイトル『極光星群』は、宇宙をイメージして光瀬龍の連作短篇集『オーロラの消えぬ間に』から前半をいただき、SFファンサークルの老舗「星群の会」から後半をいただいて合成したもの。装丁のイラスト担当者も三冊ずつで変わっているので、漢字四文字タイトルはこの六巻までで一区切りになる予定です。

 それでは今年も、十二人の作家の手になる二〇一二年の日本SFの収穫を、じっくりとお楽しみください。宇宙SF、時代SF、侵略SFからアニメ脚本まで、バラエティに富んだ作品を取り揃えております。

編者敬白 
(2013年6月)

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■日下三蔵(くさか・さんぞう)
1968年神奈川県生まれ。専修大学文学部卒。書評家、フリー編集者。主な著書に『日本SF全集・総解説』『ミステリ交差点』、主な編著に《日本SF全集》、《中村雅楽探偵全集》、《都筑道夫少年小説コレクション》、《大坪砂男全集》、《皆川博子コレクション》、『天城一の密室犯罪学教程』ほか多数。



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