Science Fiction

2011.07.26

日下三蔵『結晶銀河 年刊日本SF傑作選』(大森望・日下三蔵編)序文[2011年7月]

SF専門誌だけでなく、単行本書下し作品、マンガ、同人誌掲載作、ロリコン雑誌(!)掲載作まで、
幅広く取り揃えて日本SFの最新見本市になるよう心がけた。
編者としてはコアなSFの良作を一堂に集めることができたと自負している。

2010年日本SF界の収穫、選びぬかれた13編を収録

日下三蔵 sanzou KUSAKA

 

 創元SF文庫版《年刊日本SF傑作選》の第4集『結晶銀河』をお届けする。既刊の3冊と同様、2010年の1月から12月までに発表(奥付に準拠)された作品の中から、大森望と日下三蔵の2人が「面白いSFだ」と思った作品を選んで収録したものである。

 2010年の日本SF界は、柴野拓美さんと浅倉久志さん、2人の先達の相次ぐ訃報という悲しいニュースで幕を開けた。柴野さんは1957(昭和32)年にSF同人誌〈宇宙塵〉を創刊し、星新一を筆頭に数多くの作家を世に送り出してきた国産SF育ての親の1人である。小隅黎名義での翻訳・創作、さまざまな媒体に発表されたSFの紹介エッセイ、「科学忍者隊ガッチャマン」「宇宙の騎士テッカマン」など初期のテレビアニメのSF考証と、柴野さんの仕事によって幼いころからSFへの興味をかきたてられ、やがてSFファンとなった人は数多い。
 浅倉さんは62(昭和37)年から活動しているSF翻訳の第一人者で、その丁寧な訳文には定評がある。『重力の使命』『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』『アンドロメダ病原体』『九百人のお祖母さん』『たったひとつの冴えたやりかた』と、主な訳書を挙げただけでも、浅倉さんの仕事の素晴らしさは容易に判るはずだ。
 お二人は2010年の第31回日本SF大賞で特別賞を贈られ、既にSF界から偉大な業績を顕彰されている(柴野さんは第41回星雲賞特別賞も受賞)が、この年刊SF傑作選でも改めてお礼を述べておきたい。柴野さん、浅倉さん、ありがとうございました。

 さて、本巻の内容だが、おそらくこれまでで最もSF濃度の高い1冊になったと思う。既刊では「これってSFなの?」と思わせる作品が(主に大森さんのセレクトによって)一定数含まれているのが通例だったが、今年は大森さんからも明らかなSF作品しか推薦作が上がってこなかった。むしろ日下セレクトによる月村了衛の警察小説「火宅」が近未来SF『機龍警察』の番外篇というだけで作品自体はSFではないのが、もっとも大きく境界をはみ出しているほどなのだ。
 理由は明らかで、2010年は対象作品全体に占める直球SF作品の数が、例年になく多かったためである。《異形コレクション》『NOVA』といった書下しアンソロジーが順調に刊行されているのに加え、創刊50周年を迎えた〈SFマガジン〉が、2月号で日本作家特集を組んだのが効いている。この号だけで第一線のSF作家による短篇が18本も掲載されており、これはここ数年の〈SFマガジン〉であれば1年間に掲載される日本SF短篇作品の総数を(1号だけで)上回る数である。
 もちろん、ある雑誌の同じ号からあまり多くの作品を採るのは、アンソロジストとして芸がないので、頑張って絞り込んだのだが、それでも2月号から3篇、〈SFマガジン〉からは合計4篇を収録させていただくことになった。
 さらに《異形コレクション》は期間内に刊行された2冊のうちSF度の高かった『Fの肖像 フランケンシュタインの肖像』から2篇、『NOVA』も期間内の2と3から各1篇。これだけで選んだ13作品のうち8篇に達しているのだから、本巻のSF濃度はおおよそ察していただけるのではないだろうか。
 もちろんSF専門誌だけでなく、単行本書下し作品、マンガ、同人誌掲載作、ロリコン雑誌(!)掲載作まで、幅広く取り揃えて日本SFの最新見本市になるよう心がけた。編者としてはコアなSFの良作を一堂に集めることができたと自負している。
 今回のタイトル『結晶銀河』は、コアをイメージして小松左京の名作短篇「結晶星団」から前半をいただき、これまで「無限」「次元」などとともに使用を避けてきたSFタイトル頻出ワードから「銀河」を選んで合成したもの。漢字四文字タイトルは、そろそろで一区切りになるだろうから、手持ちの切り札をつかった次第であります。

 昨年から始めた一般公募の創元SF短編賞は、第1回受賞作である松崎有理さんの「あがり」(『量子回廊』所収)が、いきなり星雲賞の参考候補作にノミネートされて選者もビックリ。候補作アンソロジー『原色の想像力』も好評で、松崎さんは受賞作を含む作品集『あがり』が、「盤上の夜」の宮内悠介くんもこれを表題にしたゲームSF作品集が、東京創元社から近々刊行される予定である。手探りで始めた新人賞としては、これ以上ないほど好調な滑り出しといえるのではないか。
 幸いにして第2回も初回と同様、600作近い応募をいただき、バラエティ豊かな候補作を選出することが出来た。酉島伝法さんの受賞作「皆勤の徒」は本書に収録。そうとうSFを読み慣れた人でも、このイメージの奔流には驚かれるのではないかと思う。また、惜しくも受賞を逸した候補作の中から、今年も新人アンソロジーを編んでいるところなので、こちらも楽しみにしていただきたい。
 第3回の応募要綱も巻末に掲載されているので、我こそはと思われる方は、ぜひふるって作品をお寄せください。

 それでは第1世代の超ベテランから未知の新人まで、14人の作家の手になる2010年の日本SFの収穫を、どうぞ最後までご堪能ください。SFというジャンルの楽しさをたっぷりと味わえることを、編者を代表してここにお約束します。

                      
編者敬白  
(2011年7月)
第3回創元SF短編賞の応募要項はこちら


■日下三蔵(くさか・さんぞう)
1968年神奈川県生まれ。専修大学文学部卒。書評家、フリー編集者。主な著書に『日本SF全集・総解説』『ミステリ交差点』、主な編著に《日本SF全集》、《中村雅楽探偵全集》、《都筑道夫少年小説コレクション》、『天城一の密室犯罪学教程』ほか多数。


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