Science Fiction
2009.06.05
日下三蔵『超弦領域 年刊日本SF傑作選』(大森望・日下三蔵編)序文[2009年6月]
集めた自分でも呆れてしまうほどだが、
どこから読んでも面白いですよ。
ここが日本SF最前線です。
2008年日本SF界の収穫、選びぬかれた15編を収録
日下三蔵 sanzou KUSAKA
創元SF文庫版年刊日本SF傑作選の第2集『超弦領域』をお届けする。前巻の『虚構機関』と同様、2008年の1月から12月まで(奥付に準拠)に発表された作品の中から、大森望と日下三蔵の二人が「面白いSFだ」と思った作品15篇を、一挙に収録したものである。
『虚構機関』は内容の面白さには大いに自信があったものの、30年以上も刊行されていなかった久しぶりの年度別アンソロジーということで、売れ行きの面ではかなりの不安を感じながらの船出であった(往々にして自信と売れ行きは必ずしも比例しないため)。ところが蓋を開けてみたら、こちらの予想を上回るご好評をいただき、ひと安心した次第。お買い上げくださった皆さまに深く御礼申しあげます。
年度別アンソロジーは、5年、10年と冊数を重ねていくことによって、ジャンルの歴史書としての意義が次第に出てくるものだから、1冊や2冊で終わってしまっては、その真価が発揮できない。こちらも全力で面白い作品をピックアップしていくので、引き続いてのご愛読をお願いいたします。
このまま景気のいい話で最後まで行きたかったのだが、ひとつ哀しい出来事に触れなくてはならない。前巻と本書のいずれにも作品を収録させていただいた伊藤計劃さんが、本書の編集作業の最中の2009年3月20日に、お亡くなりになったことだ。
オリジナル長篇『虐殺器官』
『ハーモニー』
(ハヤカワSFシリーズJコレクション)とゲームノべライズ『METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS』
(角川書店)、どれも傑作。円城塔さんと共に、これからの日本SFを力強く牽引してくれると、誰もが期待していた存在だった。
本シリーズの編集に当たっては、大森・日下の両名がそれぞれに推薦作リストを出し合い、合意の出来たものから決定していく、という方法を採っているのだが、最初のリストアップの段階でどちらも◎をつけている(つまり、いきなり当確の)作品は、滅多にない。「前巻と本書のどちらにおいても、いきなり当確になった作家」というのは伊藤さんしかおらず、冗談交じりに、シードにしてもいいんじゃないか、といっていたほどなのだ。
伊藤さんがこれから書くはずだった傑作のことを思うと、あまりの喪失感に眩暈がしてくるが、いまはただ遺された作品を読み、評価し、新しい読者へと語り継いでいくべきだろう。伊藤計劃さんのご冥福を、心からお祈りいたします。
しかしねえ、以前から闘病中だったとはいえ、享年34はあまりにも早すぎますよ、伊藤さん……。
大急ぎで残りのご報告を。
前回、年刊ベストの対象となる単発SF作品が非常に少ない、と愚痴を書いたが、少ないなら自分たちで分母を増やしてしまおうということで、SF短篇の公募を始めることにしました。
日本SF新人賞、小松左京賞、日本ファンタジーノベル大賞と、長篇公募の賞はいくつもあるのに、短篇の受け皿があるのは日本ホラー小説大賞のみ。〈SFマガジン〉コンテストも募集が絶えて久しく、〈異形コレクション〉の新人枠も募集は不定期。〈SFマガジン〉のリーダーズ・ストーリイは枚数が少なすぎる――。SF短篇を書いても、発表する媒体がないのが現状なのである。
日本SF第3世代と呼ばれる作家たちは、〈SFマガジン〉と〈奇想天外〉がいずれも短篇の賞を設けていた時期に、踵を接して登場してきた。新井素子を筆頭に、神林長平、谷甲州、大原まり子、野阿梓、山本弘らは、短篇の新人賞によってデビューしているのだ。
どの程度いい作品が来るかはまったく分らない(そもそも作品が来るかどうかも分らない)けれど、まず受け皿を用意しなければ何も始まらないのも事実。もちろん年刊ベストクラスと編者が判断した作品については、いきなり本シリーズに収録ということも充分にあり得ます。奥付裏の応募要項を参照のうえ、ふるって作品をお寄せください。
なお、今回のタイトル『超弦領域』は、前巻の『エイダ』と同様、山田正紀の長篇SF『超弦世界のマリア』から前半をいただき、半村良『不可触領域』
から後半をいただいて合成したもので、言葉自体にはまったく意味はありません。タイトルをつけるのが苦しくなるか、巻数が増えてどれがどれだか紛らわしくなるまでは、「SF的な響きだが深い意味はない漢字4文字のタイトル」路線で行く予定。
本書も『虚構機関』と同じく、内容の面白さには絶対の自信をもってお送りするものである。編纂者の意図に関わりなく、ある年度の作品を対象に選ばれたアンソロジーには、その時代の空気が濃縮されているわけで、本書が2008年の国産SFの見本市であることは間違いない。よくぞこれだけ傾向も形式も違う作品が集まったものだと、集めた自分でも呆れてしまうほどだが、どこから読んでも面白いですよ。ここが日本SF最前線です。
■日下三蔵(くさか・さんぞう)
1968年神奈川県生まれ。専修大学文学部卒。書評家、フリー編集者。主な著書に『日本SF全集・総解説』
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