北原尚彦 naohiko KITAHARA


 我が国のSFの歴史は、古いです。明治期の古典SFから考えれば、一世紀以上。戦後の近代SFからでも、半世紀を超えます。それだけの長い期間、たくさんのSF、星の数ほどのSFが出版されてきたのです。
 どんなモノでも、数が多ければ多いほど、バラエティ豊かになります。……というと聞こえはいいですが、要するに王道から外れた外道、「奇書」もまた次々に世に送り出されてきたのです。有名作家が、マイナー出版社から出した作品。作者自体が、あまり知られていない作品。最初っから無茶苦茶な作品もあれば、真面目なつもりで書かれたのになぜかおかしくなった作品もあります。
 わたしはそんな奇書を愛し、収集し、紹介してきました(その成果のひとつが、『SF奇書天外』(東京創元社/二〇〇七年)です)。百年以上も前に書かれたゴルフSFや、有名俳優が書いた知られざるSF脚本があれば、読んでみたいじゃありませんか。
 二十一世紀に入ってからも、SF奇書の出現が止むことはありません。しかも、二十世紀におけるSF奇書も、次々に発掘されています。
 知られざるSF奇書と出会った瞬間は、最高です。調査をして意外な事実が判明した瞬間も、最高です。わたしのSF奇書探索記を通して、皆さんも是非最高の気分を味わって下さい(手に入れる過程にも色々あったりしましたので、その経緯についても盛り込むことにしました)。ここに出てくるような本を皆さんが欲しがるかどうかは不明ですが、少しでも収集の参考になれば幸いです。 『SF奇書天外』では戦後に限定しましたが、今回は特に出版年代に縛りは設けませんでした。なので、古典SFに分類されるものも、取り扱いました。
 色々とツッコミを入れていますが、それはわたしが奇書を愛しているからです。それだけは忘れないで下さい。さもなければ、これだけ追いかけ続けることなど、できません。
 それでは『SF奇書コレクション』、始まりです。
(2013年12月5日)


■ 北原尚彦(きたはら・なおひこ)
1962年東京都生まれ。青山学院大学理工学部物理学科卒。作家、評論家、翻訳家。日本推理作家協会、日本SF作家クラブ会員(第21代事務局長)。横田順彌、長山靖生、牧眞司ら各氏を擁する日本古典SF研究会では会長をつとめる。〈本の雑誌〉ほかで古書関係の研究記事を長年にわたり執筆。主な著作に、短編集『首吊少女亭』(出版芸術社)ほか。古本エッセイに『SF奇書天外』(東京創元社)、『シャーロック・ホームズ万華鏡』(本の雑誌社)、『新刊!古本文庫』『奇天烈!古本漂流記』(以上、ちくま文庫)など、またSF研究書に『SF万国博覧会』(青弓社)がある。主な訳書に、〈ドイル傑作集〉全5巻(共編・共訳、創元推理文庫)、ミルン他『シャーロック・ホームズの栄冠』(論創社)ほか多数。



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