Science Fiction

2011.09.30

北原尚彦「聞いたこともなかった児童SF『正義のロボット』」――SF奇書天外REACT【第16回】(1/2)[2011年10月]

◆SF古書と生きる。ひそかに人気の古書探求コラム
古書蒐集という道は進めば進むほど欲しい本が増え、
ゴールはどんどん遠のいていくのだ。


北原尚彦 naohiko KITAHARA

 

●これまでの北原尚彦「SF奇書天外REACT」を読む
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 告白します。
 十代の頃、まだSFの古本を蒐集し始めて、間もない時期のこと。「こうやってSFの本を買っていたら、いつか全部集め終わっちゃうんだろうなあ、そうしたらどうしようかなあ」などとぼんやりと思っていた。
 ……いやはや、物知らずとは恐ろしいものです。なんと不遜な、なんと馬鹿なことを考えていたものか。
 もちろんその後の経験で、欲しくても出回ることがない本があること、古書市場に出てもお値段的に手が届かない本があること、そしてまだまだ世の中には知らない本があることを知った。古書蒐集という道は進めば進むほど欲しい本が増え、ゴールはどんどん遠のいていくのだ。更には別次元の問題として、本を置くスペースのことも考えねばならない。
正義のロボット
『正義のロボット』
 そして現在。古本屋を、古書即売会を、デパート古本市を、そしてネット古書店を渉猟するのは、まだ見ぬ本、聞いたこともない本と出合うため。新たな発見があると、脳内で快楽物質が駆け巡るのをはっきりと感じる。
 今回紹介する本を手にした際も、そうだった。入手するまで全く見たことも聞いたこともない代物だったのだ。
 その名も『正義のロボット』(塔文社/一九四八年)。……あまりにもベタすぎるネーミングだ。だが書名としては、聞いたことがない。作者は伊藤憲司。これまた寡聞にして知らない。版元の塔文社も、同様だ。まだ太平洋戦争の終戦から三年という時期の刊行に相応しい、安っぽい仙花紙本の児童書だ。
 表紙には格闘する二体のロボットと、それを取り囲む三人の人々が描かれている。目付きが悪い左側のロボットは、もう一体のロボットに腕を捕まれてナイフを取り落としている。こちらは「悪のロボット」なのだろう。となれば、右側のハンサム(?)なロボットが「正義のロボット」だ。とても判り易いですな。
正義のロボット・裏表紙
『正義のロボット
裏表紙』
 装丁画は背表紙・裏表紙とつながっていて、裏表紙には胸に「Y」の文字が入ったロボットが。どうやら、少なくとも三体のロボットが出て来るらしい。
 ではさっそく読んでみよう。メインとなる登場人物は、敏夫少年とその父親のシムラ博士、そして藤村助手とロバート助手(通称ボッブ君)。シムラ博士はロボット工学を専門とする科学者――かと思いきや、どうも様子が違う。「ロボット」ではなく、「ロケット」がどうこうと言っているのだ。
 時代は二十二世紀の、二一二三年。二一二三年と言えば、某ネコ型ロボットがタイムマシンで過去に向かって出発する年らしい。もしくは某スペースコロニー国家が地球連邦政府から独立するための一年戦争が始まった年らしい(←非公式)。古い子ども向けSFだと、未来に設定する場合は大体二十一世紀になるので、ちょっと珍しい。
 舞台は「アメリカ、フツヅバーグにあるニオサイエンス・オブザワールド科学研究所」。ウィスコンシン州の「フィッツバーグ」のことでしょうかね。
 シムラ博士が設計図を相手に渡してロケットを注文しているところを、敏夫少年は聞いてしまう。どうやらこの時代、ロケットは注文すれば作ってもらえるものらしい。しかも三か月で出来るというから、凄すぎる。
 このロケットは、金星へ行くためのものだった。敏夫少年は、自分も乗せて欲しいと頼み、その願いは受け入れられる。シムラ博士、完全に公私混同です。かくしてロケットは三か月後、シムラ博士、敏夫少年、藤村助手とロバート助手の四人を乗せて出発する。
正義のロボット・扉絵
『正義のロボット
扉絵』
 宇宙船の名前は「第二発見号」こと「セカンド・デスカヴアリイ」。これは『二〇〇一年宇宙の旅』の「ディスカバリー号」とも、スペースシャトルのオービター「ディスカバリー」とも関係ない。その両者よりも、前に書かれているのだから。実は初期の南極探検船の名前にちなんだものだったのである。でも扉絵に描かれた宇宙船は、ちょっとナサケナイ。
 途中、酸素発生器が故障したり、流星に衝突しそうになったりしつつも、ロケットは三か月の宇宙旅行を経て、金星へ到達。
 ロケットは地表へ降下するが、激しいショックで全員気絶してしまう。気が付くと、窓の外が見えない。金星は巨大恐竜が闊歩する世界となっており、ロケットはなんと恐竜の体に突き刺さっていたのだ(恐竜、死んでます)。
正義のロボット・挿絵
『正義のロボット
挿絵』
 電気メスで扉付近の肉を取り除く。そして四人は、シムラ博士製作の特殊マスクを付けて地上に出るのだった。……って、マスクだけ? 気温も摂氏八十七度だとか言っているのに。飛行中に着用していた宇宙服をそのまま着ているということか? それにしても頭部がマスクだけじゃあ……。後にヘルメットをかぶっている記述が出て来るが、水を呑むのに使用しているところをみると、オートバイに乗る時のようなもの(それもフルフェイスじゃないやつ)のようだ。
 さて、シムラ博士には金星探検に重大な目的があった。地球上では採集の困難な謎の原子「ソルミウム」が金星では採集し易いと考えたのだ。そしてそのソルミウムとは何かと言うと、人間の頭脳を形成するものらしいのだ。……さあ、ちょっと先が読めてきましたね。
 かくしてソルミウム探索をはじめ、記録写真撮影などの活動を開始。しかし恐竜たちがいるので、丸腰では危険だ。そこで博士はみんなに武器を配布した。その武器というのが、「ウラニウムガスを発射する筒」(ウラニウム銃)なるもの。
 ……ううむ、ウラニウムガスを発射する武器って、どんなシステムなのか。滅茶苦茶気になるぞ。ウランは固体から液体に融解する融点でさえ摂氏千度以上だ。ましてや気化するのは四一三一度以上。そんな高温のガスを噴出したら、確かに恐竜はひとたまりもないだろうが、武器を使う側も危なっかしくてしょうがないと思うのですが。
 それとも、六フッ化ウランガスのことか。この物質は(地球の)常温では固体だが、摂氏六十度で気化してしまう。気化すると大気中の水分と反応して、フッ化水素を発生させる。これは腐食性が強いので、これを利用した武器なのか。


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