Science Fiction

2010.06.07

SF奇書天外REACT【第3回】(1/2)[2010年6月]

絶好調! ひそかに人気の古書探求コラム
勝手にコラボ・奇書版/星新一展『未来にいどむNEC』ほか

北原尚彦 naohiko KITAHARA

 

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●北原尚彦「SF奇書天外REACT」の連載記事を読む。
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 世田谷文学館で2010年4月29日から開催されている「星新一展」は、ご覧になりましたか? もしまだでしたら、そしてこの文章をお読みになっているのが最終日の6月27日よりも前でしたら、何はさておき行っておくことをオススメします。SF者は必見ですぞ。
 この展覧会のおかげでわたくし、にわかに星新一熱が嵩じてしまいました。そこで今回の『SF奇書天外REACT』は、勝手にコラボ企画「奇書版/星新一展」とさせて頂きます。
 星新一の1001篇のショートショート群は『星新一 ショートショート 1001』 全3巻(新潮社/1998年)としてまとめられた。しかし『気まぐれスターダスト』(出版芸術社/2000年)に収録された作品のように、そこからこぼれ落ちていた作品もある。その後も、傑作選に拾い上げられたものもあるが、単行本未収録作はまだ残っている。

未来にいどむNEC
『未来にいどむNEC
―日本電気―』
 というわけで、まずご紹介するのが『未来にいどむNEC―日本電気―』(フジ出版社/1967年)。「企業の現代史」という、様々な企業を紹介する新書シリーズの一冊。わたしがこれを見つけたのは高円寺の古書即売会。非売品の企業本がスキなので手に取ったところ、一般発売されていた本だったので、なあんだと思いつつも中を開くと、これがなかなかの拾い物だった。執筆者のひとりが星新一で、その「おとぎの電子生活」は"SF"と銘打たれているではないか! しかもどうやらこれ、星新一の単行本には収録されていない模様。
 これだけでも十分に買う価値アリだったが、イラストは星新一ファンには説明の要はない真鍋博、『アンパンマン』のやなせ・たかし、ポプラ社の江戸川乱歩など児童向けイラストをたくさん描いた中村猛男、という三強(星新一パートの担当はもちろん真鍋博)。「わたしの第一線訪問記」というルポを書いているのは芥川賞作家の津村節子。副社長と対談しているのは、横溝正史映画にも出演している女優の司葉子……と超豪華メンバーだ。
おとぎの電子生活
「おとぎの電子生活」
 では肝心の「おとぎの電子生活」を。主人公は、未来世界に暮らす青年。犯罪は少なく、エネルギー革命により空気もきれいになった社会。彼は人工夢発生装置による快い眠りから醒めると、健康診断機で身体の状態をチェックした。起き上がるとシャワーを浴び、美容器でひげを一瞬で剃る。家庭用ビデオテープで最新のニュースを観る。
 高層アパートを出た青年は、電波に従って自動的にコース取りする自動車で、会社へ向かった。彼の勤めるのは、宇宙関係の企業。大企業だが会社の各部や各課が分室となって分散し、社員はそれぞれの近くに住む。だから通勤地獄がない。書類も、本社のファイルから電送で瞬時に手に入る。
 ――といった具合に、未来風景が延々と語られる。この後は完全にネタを割らない程度に紹介すると、青年にはつきあっている女性がいることが明かされ、世の中がどれだけ機械化されても、人と人との関係だけは機械には解決できない、といった結末へと至る。基本的にはエレクトロニクス化された未来社会を描き出すのが主眼であり、要するに「NECはこういった社会を実現するためにあるのですよ」というテーマなのだ(作中には企業名は出てきませんが)。よって、一応の結末は付けられているものの、一般的な星ショートショートとは趣が異なる。ショートショート集に収録されなかったのもむべなるかな、である。

四年の学習
『四年の学習』
 これを手に入れたのとはまた別な日、五反田の古書即売会でのこと。古い学習雑誌があったので、ふと手に取ってみた。『四年の学習』(学習研究社)の、1960年12月号だ。ホームズ物でも載っていないだろうか、と目次をチェック。「はん人は、だれ?」というタイトルが目に付いた。作者名は入っていない。ホームズ物のリライトかもしれないし、そうでなくても古い探偵作家の筆によるものだと貴重だぞ――と本文ページをめくってみると。「星新一(文)」とあるではありませんか! ええっ、星新一のミステリ?……あわてて中身を確認すると、ちょっと違うことが判明。全部で3話からなっており、内容は以下の通り。
 第1話は「こらしめられた王様」。前王を殺して王位についた、悪い王様のところへ、漂泊の彫刻家がやってきた。「王様の立派な像を作りますよ」と言うので作らせたところ、確かに見事な出来だった。お祝いのお祭りをすることになり、像はかがり火にあかあかと照らし出された。しかし夜がふけた頃、像は前王の顔に変わっていた。それを見た王様は、恐れと驚きのあまり心臓が止まって死んでしまった……。そして解決篇で、像が変わった理由が説明されるのであります。
はん人は、だれ?
「はん人は、だれ?」
 第2話は「キンギョが見ていた」。大山さんが1週間ぶりに旅行から帰ると、アパートに泥棒が入っていた。容疑者が3人見つかったが、しぼり込めない。そこで、泥棒がぶつかって水の減った金魚鉢から、犯人を推理する……というもの。
 第3話は「消えた発明」。矢野博士は、丈夫なプラスチックの研究を行っていた。産業スパイの三吉は、研究所から出てきた矢野博士から箱を奪い取り、自動車で逃走する。だが三吉は寒気がして、息苦しくなって、遂には眠気に襲われて事故を起こしてしまう。箱を調べると、さっきは重かったのに、空っぽになっていた。さあ、箱の中身は何だったのでしょう?……というもの。皆さんはもうお分かりですね。
 やはりこれらも星ショートショートとは書かれているスタンスが違う。1960年といえば、まだ 『人造美人』(新潮社/1961年)が出ておらず、『生命のふしぎ』(新潮社・少国民の科学/1959年)が星新一の唯一の単行本、という時代。『生命のふしぎ』は児童向けの科学解説書。その作者として原稿依頼が来たのだと考えれば、学習雑誌にこういう作品を書いていたというのも納得がいく。後に単行本に収録しなかったのも、理解できる。
 ちなみに本文でのタイトルは「はん人はだれ?」と、目次とは微妙に異なっている(「、」がないのです)。
 1960年頃の児童向け雑誌には、単行本未収録の星作品がまだ幾つもあるようだ。是非、専門家の詳細な調査を期待したい。

 星新一展では、星新一へと至る系譜や、周辺に関するものも展示されていたので、ここでもそれを踏襲することにしよう。
冷凍製造法の発明
『冷凍製造法の発明』
 星新一の父は、星製薬の創業者・星一である。星一には『三十年後』というSF作品があるが、これはあまりにもレア過ぎて、わたくしは持っておりません。SF以外の著作も何冊かあるので、ここではそれらの中から『冷凍製造法の発明』を取り上げておこう。なんと言っても、タイトルがカッコイイですね。コールド・スリープでも研究していそうだが、実際には「冷凍乾燥」と「冷凍濃縮」の技術をPRするためのもの。今で言うところのフリーズドライとかその類で、もちろん当時としては最先端。この冷凍製造法を用いれば、食品の保存がきくようになるし、冷凍乾燥オートミールのように、お湯をかけるだけですぐ食せたりするのだ。発明に成功した品として、乾燥肉、乾燥豆、乾燥味噌などが挙げられている。粉末血液なんてものまで。吸血鬼が喜びそうですな。ただ技術の羅列に止まらず、ゲーテやディケンズまで引用して理念を説いている辺りは、いかにも星一らしい。星一とこの冷凍技術に関しては、荒俣宏『大東亜科学綺譚』の「冷凍を愛した熱血漢」の章でも概説されている。
 本書は奥付がなく、発行所も発行年も不明。巻末に「冷凍法概要」というのがあり、これの日付が大正14年3月24日となっている。よって発行年はこの年(=1925年)、発行所は星製薬とみるのが妥当なところだろう。


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