Science Fiction
2010.04.05
SF奇書天外REACT【第2回】(1/2)[2010年4月]
科学教育者が戦後初期に書いた『二十一世紀の秘密 ニュートピアの巻』
北原尚彦 naohiko KITAHARA
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●北原尚彦「SF奇書天外REACT」の連載記事を読む。
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『SF奇書天外REACT』第2回です。幸いにも、第1回はご好評を頂いたようです。連載開始記念で古本プレゼントという企画も行ったのですが、多数のご応募を頂きました。まことにありがとうございます。
その際、コメントの中で幾つか見られたのが「そんな貴重な蔵書を放出してしまっていいのですか?」というものでした。「でも欲しいです」ともありましたが。
えー、ご安心下さい。蔵書と申しましても、1冊しかない本とは限りません。はっきり申し上げれば、ダブリです。そんな奇書がなぜダブるかは、まあ、訊かないで下さい。
思っていた以上に古本プレゼントに反響がありましたので、続く限り、回を進めるたびに放出したいと考えておりますので、プレゼントのページもどうぞご確認ください。
それから、第1回についての補足です。第1回分がアップされたすぐ翌日、仙台の出版社・荒蝦夷(あらえみし)さんからご連絡を頂きました。わたしが杉村顕道『怪談十五夜』(友文堂書房/1946年)を紹介した際に、収録作品13篇のタイトルまでずらずらと書いておいたのですが、杉村家に残されていたバージョンと収録作品数が違う、ということなのです。先方のは初版、わたしのものは3版でした。
初版では15篇入っていたのだとのこと。だから「十五夜」だったのか! と、ナットク。情報を付き合わせた結果、初版から3篇が削除され、かわりに1篇が追加されて、13篇になったのだと判明。
その他、先方では『怪奇伝説 信州百物語』(信濃郷土史刊行会/1934年)の初版に顕道自身による序が掲げられている事実をご存じなかったとのことで、そちらでもお役に立てました。
わたしがあのタイミングで第1回を書いていなければ、これらは収録されなかったわけで、なんとも運命めいたものを感じてしまいました。
『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』は2010年2月に刊行されましたので、興味をお持ちの方は是非お読み下さい。
さて、それでは第2回の本題。今回メインで取り上げる本は、三石巌『二十一世紀の秘密 ニュートピアの秘密』である。本書は今から60年前、1950年に広島図書株式会社から刊行された。まだ終戦から5年目、という時期である。
とてもレアな本で、長らく入手はおろか現物すら見たことがなかった。ところが、とある年、冬の札幌で古本屋巡りをしていた際のこと。SFや推理小説がずらりと並ぶマニアックなお店に入ると、その棚に本書も並んでいるではありませんか! 品揃えがいい店だけあって、それなりのお値段が付いていたけれども、迷わず買いましたとも。レア度から考えれば、安かったぐらいだ。この経緯についてもっと詳しく知りたい方は、拙著『古本買いまくり漫遊記』(本の雑誌社)をお読み下さい(と、ちょっとCM)。
では、ストーリーを。舞台となるのは、21世紀のトーキョー。主人公は、ノビーという名の少女(あんまり女の子っぽくない名前だけど、そこはそれ、未来ですから)。彼女は三年前に父親が失踪したため、母親と二人暮らしをしている。
ある日、ノビーはベルトウェイに乗っていた。これは現在の“動く歩道”よりももう少し乗り物的な交通機関で、シートがあって座れるようになっている。このシーンを描いた口絵だと、長椅子がいくつも並んだ長い通路で、現代で言えば空港のロビーみたいな光景。楽団が音楽を奏でていたり、壁に映画が投影されていたりする。でも、一体どうやって乗り降りするんでしょうねえ? それに一番端はどうなってるの?
さてノビーが小型放射線カウンター(父親の発明品)を気まぐれに作動させると、いきなり反応があった。原因は、大きなトランクを持った怪しい男らしい。ノビーはスミダ川口ステーションでベルトウェイを降りた後、謎の男が気になって尾行をしたけれども、男は手品のように消え失せてしまった。
その晩、ノビーの家に何者かが侵入し、カウンターを破壊して逃走した。侵入者を撮影するカメラ(現代の監視カメラみたい)も、一部が破壊されていた。ノビーが疑ったのは、もちろん例の謎の男であった。
翌朝、ノビーはシアンス学校へ行った(その日によって学校を選べるシステムらしい)。この時代、学校は年齢別ではなく、同じクラスには大人もいた。授業の際にノビーが事件について話すと、先生はグループを作ってそれを研究してみなさい、と言った。
かくして、ノビーは仲のいい男の子イサク(彼の父親も三年前に失踪している)、二十歳ぐらいの男女ケダーとエミー、合計四人で調査を始めた。四人がスミダ川口駅で張り込みをしていると、謎の男〝X氏〟が登場。尾行するけれども、ジェット・ボートで逃げられてしまうのだった。
ここで秘密兵器「ヘリコプター式潜水ボート」が登場。球形のガラス張りの小型潜水艇だ。これでX氏の向かった海域を調査すると、海中住宅を発見したのだ。
そして、どこか遠いところにある秘密の国に関わる人々がいることが判明。ノビーの父やイサクの父も、そこにいるらしいのだ。ヒマラヤのふもとに住むイサクの祖父母を訪ね、イサクの父たちがヒマラヤ奥地で何かをしていたと知ったノビーたちは、その奥地へと向かう。しかしそこには「ニュートピア」と記された標札が残されていただけだった。放射能事故か何かがあったらしく、住人たちはどこかに移動していたのだった……。
……というところで物語はオシマイ。ノビーの父たちの目的は何だったのか、なぜ秘密にしなければいけなかったのか、X氏は何のために行動していたのか、等々は解明されぬまま。謎があまりに残され過ぎているのは困りものだが、もしかしたら続篇を書くつもりだったのかもしれない。「ニュートピアの巻」という副題にしても、これから「…の巻」として続刊があり得たことを示唆しているではないか。
途中に出て来る未来のガジェットを紹介する形で最新の科学が解説されるが、もしかするとこの解説こそが主たる目的であり、ストーリー展開や謎の解明は二の次だった、という可能性もある。
いずれにせよ、レトロな空想科学物語、それにぴったりのレトロなイラストがスタイリッシュで、全体としてはとてもいい雰囲気を出している。
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