Science Fiction
2009.10.28
SF奇書天外REACT【第1回】(1/2)[2009年11月]
『SF奇書天外』復活!
第1回は幻の怪奇作家・杉村顕道とその著作について。
探し求めた『怪談十五夜』ついに入手!
北原尚彦 naohiko KITAHARA
「怪談…」というタイトルで、SFでもホームズでもないことが判明。しかし幻想怪奇小説ならば蒐集ジャンルなので、一応確認。おや、これは付録本ではなかったようだ。
作者の名前は杉村顕道。聞き覚えがあるな。誰だっけ。
ページをめくって目次を眺めているうちに、ようやくこれが何であるか気が付いた。
この本……自分の探求書ではないか!
杉村顕道は、『SF奇書天外』で紹介した『彩雨亭鬼談 箱根から来た男』(椿書房/1962年)の作者。『…天外』執筆時にはどうしても手に入らず「欲しいなあ、欲しいなあ。」と書いたのが、『怪談十五夜』(友文堂書房/1946年)だった。自分はいま、それを手にしていたのだ!
どんな形態の本か知らなかったとはいえ、気付くまで時間かかり過ぎ。もし付録本だと勘違いしてなかったら、スルーしてた可能性すらある。
知る人ぞ知る本とはいえ、超の付くレア本。おそるおそる値段を確認すると……うわっ、タダみたいな値段だ。結局この即売会での収穫は1冊だけだったのだが、これだけでも大収穫だった。
本書は、全部で13話を収録。短い話が多いので、それでも120ページしかない。
では中身をご紹介。「下足番の話」は、作者の知り合いの下足番の老人が自らの生涯を語る。若くして死んだ女房が焼餅やきで、後妻をもらったら化けて出て、後妻は首をくくってしまった。その後も遊郭に上がったり、三番目の女房候補と見合いをしたりすると、死んだ女房が化けて出るので、三十数年間女を絶つ羽目になった……という次第。この下足番の男、講釈師の神田泊山にそっくりだということになっている。神田泊山に似ている人物と言えば、皆さんもご存じの名探偵明智小五郎である。つまりこの下足番は明智小五郎そっくりだったのであります。
「二ツ人魂」は大正末期が舞台。瀕死の病人が寝ていると、袖から卵ぐらいの大きさの人魂が二つ飛び出した。それを知った本人は「それじゃ俺もいよいよ死ぬところだろう」と言う。使いが一人娘のところへ走ると、その家の上を二つの人魂がぐるぐると回っていた……。人魂が飛び出したのにまだ死んでない、っていうのが不思議な感じです。
「離家の人影」は、弁護士夫婦が新居に引っ越してくると、御用聞きたちが来るたびに「何か変なことはありませんか」「大丈夫ですか」と言う。やがてほんとうに怪奇な現象が起こるようになり、遂には坊さんの幽霊が出るのだった。みんな、はっきり教えてあげればいいのに。
その他、深夜に遭遇した葬列は自分のためのものだった、という「深夜の葬列」。これは怪談によくあるパターンですね。
「温泉寺奇談」は、大暴風雨を止めてくれれば娘をやると庄屋が竜神に約束する、というパターン。庄屋は娘を要求されて困った末に「娘の絵でごまかす」という手に出た。「今なら文展入選確実」という形容が時代色たっぷりです。
手相見を趣味にした男が数奇な運命をたどる「手相奇談」は怪奇ミステリ。双子が出て来るのでノックスの十戒には反しておりますが。
「蛻庵物語」は、戦国時代に人間社会で生きる狐の話。下男に化けて某家で働いていたが、寝ている間は神通力が利かない(つまり正体がばれてしまう)ため、いつも一番に起きて、最後に寝る。そのために主人に信頼され、そしてそれ故に他の奉公人から「そんなに働くのはやめてくれ」と抗議される始末。その後いろいろあって、山中の小屋で正体がばれて撃たれてしまう……。怪談というよりも奇談ですね。
――といった具合。各話の時代背景は、戦国時代から現代までさまざまだ。
しかし、読んだことのある話がちらほらとあった。でも実は、それは予想していたこと。ネタを明かすと、『SF奇書天外』刊行後に、編集部経由で「『怪談十五夜』を増補したのが『箱根から来た男』である」という情報を頂いていたのである。
SF小説の専門出版社|東京創元社
第1回は幻の怪奇作家・杉村顕道とその著作について。
探し求めた『怪談十五夜』ついに入手!
北原尚彦 naohiko KITAHARA
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星の数ほどあるSF出版物。それらの中には、王道からははずれた「奇書」と呼ばれるものが幾つもあります。わたしはそんな奇書を愛し、収集し、紹介してきました。その成果が、『SF奇書天外』(東京創元社/2007年)です。
しかし、21世紀に入ってからも、SF奇書の出現が止むことはありません。しかも、20世紀におけるSF奇書も、新たに発掘されています。
そこで今、『SF奇書天外』が復活することとなりました――などと大上段にふりかぶってみると偉そうですが、要するに「拾遺」であります。当時は未見だった本を入手できたり、新たに情報を発掘できたりしたものを、順次紹介していきたいと思っております。
<参考>北原尚彦『SF奇書天外』の「はしがき」を読む。
というわけで、第1回はほんとに、『SF奇書天外』の補遺から。
……ある日のこと、高円寺の古書即売会をのぞいた。外出の用事があり、ついでに寄り道しただけ。既に午後3時過ぎということもあり、まるで期待していなかった。
会場内で、ふと足元の箱を見ると、雑誌の別冊付録らしき小型本が目に付いた。付録文庫のSFとホームズ関係書はなるべく集めることにしているので、取りあえず手に取ってみる。しかしコレクターたちが散々荒らした後のこんな時間では、ほんとに珍しいものが残っていることもあるまい。
『怪談十五夜』
作者の名前は杉村顕道。聞き覚えがあるな。誰だっけ。
ページをめくって目次を眺めているうちに、ようやくこれが何であるか気が付いた。
この本……自分の探求書ではないか!
杉村顕道は、『SF奇書天外』で紹介した『彩雨亭鬼談 箱根から来た男』(椿書房/1962年)の作者。『…天外』執筆時にはどうしても手に入らず「欲しいなあ、欲しいなあ。」と書いたのが、『怪談十五夜』(友文堂書房/1946年)だった。自分はいま、それを手にしていたのだ!
どんな形態の本か知らなかったとはいえ、気付くまで時間かかり過ぎ。もし付録本だと勘違いしてなかったら、スルーしてた可能性すらある。
知る人ぞ知る本とはいえ、超の付くレア本。おそるおそる値段を確認すると……うわっ、タダみたいな値段だ。結局この即売会での収穫は1冊だけだったのだが、これだけでも大収穫だった。
本書は、全部で13話を収録。短い話が多いので、それでも120ページしかない。
では中身をご紹介。「下足番の話」は、作者の知り合いの下足番の老人が自らの生涯を語る。若くして死んだ女房が焼餅やきで、後妻をもらったら化けて出て、後妻は首をくくってしまった。その後も遊郭に上がったり、三番目の女房候補と見合いをしたりすると、死んだ女房が化けて出るので、三十数年間女を絶つ羽目になった……という次第。この下足番の男、講釈師の神田泊山にそっくりだということになっている。神田泊山に似ている人物と言えば、皆さんもご存じの名探偵明智小五郎である。つまりこの下足番は明智小五郎そっくりだったのであります。
「二ツ人魂」は大正末期が舞台。瀕死の病人が寝ていると、袖から卵ぐらいの大きさの人魂が二つ飛び出した。それを知った本人は「それじゃ俺もいよいよ死ぬところだろう」と言う。使いが一人娘のところへ走ると、その家の上を二つの人魂がぐるぐると回っていた……。人魂が飛び出したのにまだ死んでない、っていうのが不思議な感じです。
「離家の人影」は、弁護士夫婦が新居に引っ越してくると、御用聞きたちが来るたびに「何か変なことはありませんか」「大丈夫ですか」と言う。やがてほんとうに怪奇な現象が起こるようになり、遂には坊さんの幽霊が出るのだった。みんな、はっきり教えてあげればいいのに。
その他、深夜に遭遇した葬列は自分のためのものだった、という「深夜の葬列」。これは怪談によくあるパターンですね。
「温泉寺奇談」は、大暴風雨を止めてくれれば娘をやると庄屋が竜神に約束する、というパターン。庄屋は娘を要求されて困った末に「娘の絵でごまかす」という手に出た。「今なら文展入選確実」という形容が時代色たっぷりです。
手相見を趣味にした男が数奇な運命をたどる「手相奇談」は怪奇ミステリ。双子が出て来るのでノックスの十戒には反しておりますが。
「蛻庵物語」は、戦国時代に人間社会で生きる狐の話。下男に化けて某家で働いていたが、寝ている間は神通力が利かない(つまり正体がばれてしまう)ため、いつも一番に起きて、最後に寝る。そのために主人に信頼され、そしてそれ故に他の奉公人から「そんなに働くのはやめてくれ」と抗議される始末。その後いろいろあって、山中の小屋で正体がばれて撃たれてしまう……。怪談というよりも奇談ですね。
『箱根から来た男』
しかし、読んだことのある話がちらほらとあった。でも実は、それは予想していたこと。ネタを明かすと、『SF奇書天外』刊行後に、編集部経由で「『怪談十五夜』を増補したのが『箱根から来た男』である」という情報を頂いていたのである。
SF小説の専門出版社|東京創元社
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