Science Fiction

2016.12.12

金子浩/ギャビン・スミス『天空の標的4』訳者あとがき(全文)

今後もスミスは、
日本アニメの影響を受けながら
おもしろいSFを書きつづけてくれることだろう。

金子浩 hiroshi Kaneko



 作者ギャビン・スミスの経歴については『帰還兵の戦場』第一巻の岡部いさく氏による解説を読んでいただくとして、本稿では、出版社に売れる五年前にすでに完成していたというデビュー作『帰還兵の戦場』Veteran(2010、邦訳は全三巻)とその続篇、『天空の標的』War in Heaven(2011、邦訳は全四巻)以降の作品を紹介しておこう。
 三作目のThe Age of Scorpio(2012)は、鉄器時代のブリテン島と現在のイギリスと遠未来の宇宙を舞台にした三本のストーリーラインがからみあう、スミスの本領発揮というべきアクションたっぷりのスペースオペラだ。
 二〇一三年には、大手コンピューターゲーム会社エレクトロニック・アーツ社のSFゲーム、『クライシス3』の世界を舞台にしたオリジナル・ストーリーの長篇Crysis Escalationが刊行された。スミスはどうやらかなりのゲーム好きらしく、ゲームは、二十世紀の映画がそうだったように、芸術としても認められるようになるだろうと述べている。
 二〇一五年にはThe Age of Scorpioの続篇A Quantum Mythology、二〇一六年にはThe Age of Scorpioからはじまる三部作を締めくくるThe Beauty of Destructionが上梓された。スミスは、この三部作を執筆するにあたって影響されたSF作家として、『マインドスター・ライジング』が邦訳されているピーター・F・ハミルトンと、イアン・バンクス名義の主流小説『蜂工場』が有名なイアン・M・バンクスを挙げている。そのほか、SFイラストの大家クリス・フォスと、宇宙を舞台にしたMMORPG、『EVE ONLINE』からも影響を受けたのだそうだ。
 そのほか、まだ邦訳のないイギリス人ファンタジー作家、スティーヴン・ディーズとの共同ペンネーム、ギャビン・ディーズ名義で、二〇一四年に、SFゲーム『ELITE: DANGEROUS』の世界を舞台にしたElite: Wantedと、エイリアンによる地球侵略を描いた二部作Empires: InfiltrationEmpires: Extraction(同じ出来事をそれぞれ異なる人物を主人公にして描いている)を刊行している。

帰還兵の戦場1 帰還兵の戦場2 帰還兵の戦場3
天空の標的1 天空の標的2 天空の標的3 天空の標的4

 ギャビン・スミスは自身のウェブサイトに掲載した記事で、本『帰還兵の戦場』『天空の標的』シリーズの邦訳版のカバーイラストを絶賛し、日本のアニメから受けた影響について熱く語っている。スミスが日本アニメを好きになったきっかけは、一九七〇年代末にBBCで放送されていた『科学忍者隊ガッチャマン』だった。続いて八〇年代はじめに、アニメではないが、土曜日の朝に放送されていた永井豪原作の特撮人形劇、『Xボンバー』に夢中になった。その後は、日本アニメにハマることがなかったが、九〇年代はじめのクリスマスの朝、スミスは大友克洋のアニメ『AKIRA』(一九八八年)を観て衝撃を受けた。それは、アラン・ムーア原作のグラフィックノベル、『ウォッチメン』を読んだときと並ぶ、良きにつけ悪しきにつけ、人生が変わってしまうほどの衝撃だった。本シリーズのディストピア的な雰囲気とサイバーパンク要素、それにバイクレースシーンには、『AKIRA』からの影響が強いのだそうだ。主人公のジェイコブが乗っているバイクも、『AKIRA』の登場人物、金田が乗っていたバイクのイメージだったという。
 その次に衝撃を受けたのは、スミスが”テクノロジーと社会の衝突を描いたほぼ完璧なサイバーパンク”と評する士郎正宗原作のアニメ『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』だった。スミスの仕事部屋の壁には『攻殻機動隊』のポスターが貼られているらしい。本シリーズへの『攻殻機動隊』の影響は、人体に埋めこまれる機器と自己同一性の関係と、テクノロジーによって新たな生命が誕生する可能性というテーマだとスミスは述べている。
『攻殻機動隊』と同じく士郎正宗原作のCGアニメ『APPLESEED』(二〇〇四年)も本シリーズに大きな影響を与えた。スミスは、本シリーズを執筆するにあたって、『APPLESEED』のガジェット、特に外骨格装甲スーツからインスピレーションを受けたと述べている。またジェイコブが愛用している拳銃”マストドン”は、『APPLESEED』の登場人物、ハデス大佐が使っている馬鹿でかいリボルバーが元になっているのだそうだ。
 スミスは、近年話題になっている”文化の盗用”(異文化を安易に流用することは人種差別にあたるとする概念)に言及し、たしかに自分は日本アニメから”盗んだ”のかもしれないが、文化とはそもそも相互に影響しあいながら豊かになっていくものだと主張し、『AKIRA』はフィリップ・K・ディック原作、リドリー・スコット監督の『ブレードランナー』から、『攻殻機動隊』はウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』をはじめとするサイバーパンクSFの諸作から、『APPLESEED』はロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』やH・G・ウェルズの『宇宙戦争』から影響を受けていると述べている。
 本シリーズに大きな影響を与えたのは、『AKIRA』『攻殻機動隊』『APPLESEED』といった、十年以上前に製作された三本のアニメだが、スミスはその後も日本のアニメを観つづけており、現在も、毎日、エクササイズをしながら日本アニメを二話ずつ観るという健康法を実践しているのだそうだ。近作のお勧めとしては、『アルドノア・ゼロ』『クロムクロ』『魔法科高校の劣等生』『PSYCHO-PASS サイコパス』『シドニアの騎士』『ソードアート・オンライン』を挙げている。今後もスミスは、日本アニメの影響を受けながらおもしろいSFを書きつづけてくれることだろう。



■ 金子 浩(かねこ・ひろし)
1958年生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。翻訳家。訳書に、ギャビン・スミス『帰還兵の戦場』『天空の標的』、キム・スタンリー・ロビンスン『2312 太陽系動乱』、パオロ・バチガルピ『ねじまき少女』(田中一江と共訳)他多数。






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