Science Fiction

2007.09.05

堀 晃『遺跡の声』創元SF文庫版あとがき[2007年9月]

このシリーズは最終話「遺跡の声」が先に書かれ、つぎに最初の話「太陽風交点」が書かれた。
銀河系辺境部に散在する宇宙遺跡の謎。
星々を巡る下級調査員の私と、助手である結晶生命トリニティの旅路。

【初文庫化】07年9月刊『遺跡の声』創元SF文庫版あとがき[全文]

堀 晃 akira HORI

 わが出生地は醤油と素麺の生産で知られる地方都市です。市歌ともいえるのが「赤とんぼ」ですから、いかにも影が薄い印象です。若い頃は青白く痩せていましたから、醤油屋の息子ですといったら、たいていの人が本気にしましたが……それはともかく、小学生の頃、生家の近くに醤油会社の廃工場がありました。工場というよりも醸造蔵の跡で、近代的なラインが完成したために放置されていたのでしょう。土壁の崩れたところから入り込めたので、ここが秘密の遊び場でした。

 薄暗い内部には、身丈の何十倍もありそうな木製の樽が並び、その隙間に入ると迷路のようでした。後年、巨大な化学コンビナートや石油の備蓄基地などを見学した時、妙な既視感を覚えたほどです。さらに、最新の巨大工場や高層ビル、ダムや飛行場などを見ても、まずそれらが機能を停止したあとの風景を想像するのが癖になってしまいました。

 SFの舞台として、異星や宇宙空間に色々な文明の残骸がある風景を想像したのも、たぶん少年期の記憶からでしょう。

 本書に収録されたシリーズは、断続的にずいぶん長期にわたって書いてきました。

 しかも最終話に当たる「遺跡の声」を最初に書いています。特にシリーズ化という意識はなく、独立した短編として発表したものです。

 その翌年、松田卓也・中沢清『進化する星と銀河』(講談社ブルーバックス/1977年)の、半ページにも満たない記述に触発されるところがありました。

 「……生命の発生およびそれにつぐ進化、文明の発生には、ある程度の重元素の存在が絶対に必要であるといえる……銀河中心部は重元素も多い……恒星間の間隔が短いので、文明の伝播が比較的容易である……」(松田卓也氏)

 本書の中に、背景として何度か出てくる“銀河文明~重元素分布説”はこれがベースになっています。

 銀河中心部から離れた星域に孤立した文明を設定できるのではないか。それは銀河文明探査の“本流”ではないから、下級の調査員に担当させればいいのではないか。そんな着想からシリーズ化したものです。

 松田卓也先生にはその後何度かお目にかかる機会があり、名著『相対論的宇宙論』(佐藤文隆との共著、講談社ブルーバックス/1974年)をはじめ、時間論、進化論、スペースコロニー、マッドサイエンティスト論から“明るい寝たきり生活”まで、さまざまな刺激的論考をお聞きし、原論文も何度か送っていただきました。本シリーズもスタート時点で松田先生からヒントをいただいておりながら、お礼申し上げる機会がないまま30年も経過してしまいました。ここに改めて謝意を表する次第です。

(2007年9月)

堀晃(ほり・あきら)
1944年兵庫県生まれ。大阪大学基礎工学部卒。1970年、短編「イカロスの翼」が〈SFマガジン〉に掲載されデビュー。1981年、『太陽風交点』で第1回日本SF大賞を受賞。『バビロニア・ウェーブ』で1989年、第20回星雲賞を受賞。

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