Science Fiction

2010.12.04

大森望・日下三蔵・山田正紀/『原色の想像力 創元SF短編賞アンソロジー』序[2010年12月]

 

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 大森 望
 まったくの新人が書いたデビュー短編が9編(プラス、新人賞受賞後第1作となる書き下ろしが1編)。日本SFに関する限り、こんなアンソロジーは前代未聞だろう。作品の傾向は、まさに十人十色。名前も知らない書き手ばかりが並んだアンソロジーを買うことに躊躇する人もいるでしょうが、いやいやいや、意外にも、これが相当おもしろい。あなたがSFファンなら(いや、そうでなくても小説好きなら)、読んで損のないことは保証する。それどころか、かなり得した気分になるんじゃないですか。でなければ、いくら東京創元社が太っ腹でも、出版不況のこのご時世にこんな大胆不敵な企画はまず通らないし、そもそも思いつきもしなかったはず。埋もれさせるには惜しい、自信をもってお薦めできる作品が集まったからこそ誕生した、画期的な新人SFアンソロジーなのである。
 もちろん、ルーキーの作品だけに、それぞれに欠点はあるし、プロ作家の作品と違って荒削りかもしれない。しかし、どの作品にも原石の魅力が宿り、どこかまぶしく光る部分がある。なにしろ、第1回創元SF短編賞に応募された全612作品の中から選び抜かれた9編ですからね。受賞するかしないかの差は、ほとんど運不運だけ(議論の流れとか、SFの定義とか、賞の考え方とか次第)だったと言ってもいい。
 巻末に収められた選考会ではかなり厳しい批判も浴びせられているが、受賞作決定からの半年間に、さまざまな指摘を踏まえたうえで、このアンソロジーの企画者でもある東京創元社編集部・小浜徹也氏の厳しい指導のもと、それぞれの書き手が徹底的に改稿している。どの作品も、応募段階とくらべて格段にクォリティが上がっているはずだ。
 その結果、本書収録作を読んで、「どうしてこれが受賞作じゃないの?」と首を傾げる人もいるかもしれない。その疑問を粉砕すべく――というわけでもありませんが――第1回創元SF短編賞の栄えある受賞者である松崎有理さんには、本書のために新作を書き下ろすチャンス(というか苛酷な関門)が与えられ、ここにめでたく、受賞後第1作が完成した。受賞作「あがり」(『年刊日本SF傑作選 量子回廊』所収)とおなじ街を舞台にした理系アイデアSFだから、一種の姉妹編と言えなくもない。未読の方は、ぜひ受賞作のほうもごらんください。
 以上、10人の新しい才能による10編の中から、読者諸兄にとって忘れがたい、お気に入りの作品が見つかることを祈っている。そして、創元SF短編賞はまだまだ続きます。オレのほうがもっとすごいSF短編を書ける! と思った方はいますぐご応募を。2010年代のSFを担うのはあなたかもしれません。

 日下三蔵
 最終選考にあたって、600余篇の中から残った候補作品を改めて読み返してみて、「一長一短」という言葉を痛感した。どの作品にも、短篇賞の受賞作とするには躊躇われる短所があった。長過ぎて間延びしている、根本的なアイデアが古い、説明不足、あるいは説明過剰、SF味が足りない、等々……。
 選考会が紛糾し、議論が3時間半の長きに及んだのも、頭抜けた作品が存在しなかったからだといえる。だが、「受賞作に選ぶか、否か」という極めて特殊かつ限定的な評価軸を抜きにして考えれば、どの作品も短所を補って余りある長所を持っていた。平たくいえば実に面白かった。
 このまま埋もれさせるには惜しい作品たちを、こうしてアンソロジーとして読者の方々に読んでいただけるのは喜ばしい限りだ。選考会で3人の委員が味わった「楽しい困惑」を、皆さまにも、ぜひ味わっていただきたい。
 もっとも刊行に当たっては、それぞれの作者が加筆修正を施しているので、我々が検討したときよりもグッと良くなっているものもある。SFアンソロジーとしてはかなりのレベルである、とここで太鼓判を押しても、誇大広告の宣伝文と非難される惧れはないだろう。
 恐る恐る始めた創元SF短編賞が、第1回から候補作だけでアンソロジーが編めるほどの豊作となったのは、ひとえに力作を寄せてくださった応募者の方々のおかげである。いい作品が来れば、全力で活字化への道をサポートしますので、第2回以降もたくさんの投稿を待っています。このささやかな賞からSFの未来を担う才能が、何人も出てくることを祈りつつ。

 山田正紀
 読んだあとの人生観が変わるほどの感動を覚えた最初の短編集は星新一の『悪魔のいる天国』だった。正確にはショートショート集と呼ぶべきかもしれないが、それはさほど重要なことではない。ここで私が強調したいのは、短編を読んで感動したのが、雑誌を読んでのことではなしに、短編集を読んでのことだった、というそのことなのだ。
 これは私の独断と偏見と取っていただいて結構だが、日本ではあまり日常的に雑誌で短編小説を読むという習慣がないように思う。短編ではなく短編集を楽しむ……これは似ているようで微妙に異なる体験ではないか。
 純粋に短編1作それのみを楽しむという経験にとぼしい。それがいいとか悪いとか言っているのではない。事実としてそうだ、ということを言いたいのだ。
 これからいよいよ電子出版の時代に突入する。そのための環境が整備されつつある。5年後には紙の書籍が市場から消滅するだろう、という意見がある。私はぜんぜんそんなことは信用しないが、電子出版が短編を短編集というパッケージから解放することにはなるだろう、と思う。電子出版の市場が拡大すれば、短編、もしくは中編をそれ1本のみで販売する、ということが可能になる。短編を短編集という、ある意味、束縛から解放することができるのだ。
 それが短編、中編をどう変えていくことになるのか、じつは私が電子出版に期待しているのはその一事のみといっても過言ではない。これから短編集ではなしに純粋に短編を楽しむ時代が到来する。
 こうした時代にSF短編の新人賞がスタートしたのが朗報でないはずがない。さすがに大森望、日下三蔵、2人の本のプロフェッショナルだけのことはある。まさに絶妙のタイミングといっていいだろう。この新人賞によって短編をとりまく環境がどう変わるのか、大いに期待したい。
(2010年12月)

 

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